ツーリング日和25(第9話)思い付きには無理がある

 翌日は予定通り徳島城に行き、阿波踊り会館を訪れ、ロープーウェイで眉山に登って高松に。ジャンボフェリーの十四時の便だからこれぐらいが限界だった。観光はそれなりに楽しかったけど、せっかく徳島まで来てるのになんか不完全燃焼だ。

「今回はしゃ~ないわ。目的が徳島県にモンキーの轍を刻む事やったしな」

 それはそうだけど、徳島だってもっと魅力的なところがあったはず。

「そんなもんあるに決まってるやろ。そやけど今回はオレにも千草にも欠けてるもんがあったわ」

 欠けてる? それはなんだ。

「まず徳島に対する思い入れや。徳島に行ったらあれを見てやるんだとか、これをやるんだの気持ちが乏し過ぎた」

 うぐぐぐ。それは否定できないな。これは個人の流儀と言うか、好みにもなるだろうけど、事前知識は観光の前にはあった方が良いと千草は思ってる。だて、だって、同じものを見たって、こうこう、こう言う謂れがあると知ってるだけで変わるじゃない。

「それは絶対にあるわ。それが無かったら古ぼけた田舎の神社とか、お寺、たんなるそれなりに良い景色ぐらいしか思えへんもんな。オレも勉強不足やったし、千草もあんまり興味が湧かんかったもんな」

 これも計画段階の話だけど、もう一泊するかも検討したのだけど、どうにも気が乗らなくて一泊にしてるぐらい。

「もう一つあるねん。オレらのやったのはツーリングやん。そやのに走ったのは市街地走行ばっかりやった」

 それは確実にあった。それも幹線道路の往復だからテンションが上がりにくかったのよね。そう考えると徳島までツーリングに出かけたのに収穫は乏しかったな。

「そうでもないで。これで東へと言うか、西へのルートが開きた気がするねん」

 徳島から南下すれば室戸岬に行けるって意味とか?

「それもある。オレが思うたんは・・・」

 それ無理あるよ。ジャンボフェリーの一便は五時十五分に高松東港に着くけど、和歌山港に行く南海フェリーの四便は八時出航だよ。高松東港を五時半に出発出来たとしても、

「二時間で七時半に徳島港に行けるやん。時間帯からしてナビの二時間足らずかって可能のはずや」

 机上の計算ではそうなるけど、ギリギリ過ぎるよ。南海フェリーの案内にも乗船の三十分前ってなってるじゃない。

「乗れんかっても十時五十五分の第五便があるやん」

 あのね、三時間も待つ羽目になるかもしれないじゃない。

「そういうスリリングさと、アクシデントがあるのが旅の醍醐味や」

 良く言えばね。もっともコータローがこのルートに関心を寄せる気持ちはわかるのよね。今回だって温泉旅行にしたいのはあったのよ。そうなら素直に祖谷温泉に行けば良かったようなものだけど、コータローも千草もクルマでだけど行ったことがあったんだ。

 祖谷温泉以外にも徳島に温泉はあるけど、なんとなく気が乗らなかったんだよね。とはいえ、兵庫県内の温泉の目ぼしいところはなんだかんだで行ってるし、

「丹後も行ったもんな」

 そうなるとって訳じゃないけど、

「行きたいんやろ」

 うぅぅぅ。和歌山の龍神温泉に行きたいんだ。だけどそこまで行こうと思えば大阪府が立ち塞がるんだよね。それもど真ん中を突っ切らないと行けないのが和歌山県だ。とはいえ神戸から和歌山に行ってくれるフェリーなんてないから、

「そやからフェリー乗り継ぎの迂回路や」

 壮大過ぎる迂回路だけど、もし南海フェリーの八時の便に乗れたら和歌山港に十時十分に着くんだよね。そこ時刻からなら龍神温泉だって夢じゃないはず。けどさぁ、けどさぁ、あまりにも乗り継ぎリスクが高すぎるよ。

「思い付きはアカンか」

 思い付きはね。でも千草は嬉しいんだ。だって、だって、モンキーで龍神温泉なんてそもそも無理というより無謀だもの。それをこうやって真剣に考えてくれるコータローに感謝してる。

「当たり前や。オレの心の故郷で随一の美少女の願いやぞ」

 だから、コータローの心の故郷に住んでいるのは千草とコータローの二人しかいないから、随一も何も女は一人だって。それでもコータローが本気でそう思ってくれてるのはわかってる。そうじゃなきゃ、わざわざ千草と結婚なんか誰がするものか。

 結婚してからだってそうだ。同級生結婚だから遠慮のないタメ口なのはともかく、どれだけ千草を愛しているかを言葉でも、形でも、行動でも示してくれる。結婚ってどうなるのだろうと心配していた部分はあるけど、今なら言える。こんなに幸せなものだって。

 だ け ど、フェリー乗り継ぎプランは無理があり過ぎる。だってだぞジャンボフェリーの一便は深夜の一時発だぞ。高松までに仮眠を取るとしても無理があり過ぎる。それに高松までで五時間、徳島から和歌山までで二時間、合わせて七時間もフェリーは気が乗らないよ。

「千草の言う通りやな。帰りかって乗り継ぎはどう考えたって良くあらへん」

 それだけフェリーに乗るのだったら発想を変えようよ。龍神温泉は一つの夢だけど、他だって良い温泉はたくさんあるはず。

「今回の埋め合わせをせんかったら、千草に捨てられるからな」

 誰が捨てたりするものか。コータローが逃げようとしたって許すものか。