ツーリング日和14(第16話)国吉城

椿トンネルを抜けると、なんだこれ高架道路が絡み合うようにあるじゃない。バイパスがこの辺に集まって来てるみたい。そんな高架下の道が終わる頃に、

「次の信号を左に曲がるで」

 国吉城址って看板がある方だな。さらにすぐに左に曲がると古い家が建ち並ぶ街道沿いって感じだ。ただし道は狭くなり、

「ここを入るみたいや」

 そうやって着いたのが若狭国吉城歴史博物館。バイクを停めたのだけど、こんなところに城があったのか。あちゃ、まだ歴史資料館は開いてないよ、

「まず国吉城に行くで」
「らじゃ」

 あれっ、ここじゃないの?

「ここも入るかもしれんが・・・」

 案内図もあったから説明してくれたのだけど、国吉城は坂尻から見えた城山の山頂付近と、佐柿の方の麓の二本立ての造りみたいだ。

「山の上は詰めの城で、普段は麓で暮らしていたんやろ」

 というか登るの? これも愚問か。この二人は歩くのを本当に苦にしないのよね。鹿児島にツーリングに行った時なんて高千穂峰まで登って天逆鉾を見て来たっていうし、ユリも立石寺の千段石段を登らされたもの。

 しっかし急な道だ。つづら折れっていうのだろうけど、道路だったら数えきれなくなる連続ヘアピンみたいなものじゃない。それにだよな、なんと丸太階段なんだ。これが足にどんどん応えて来る。というか、昔はこれもなかったはずだから城に着くまでが大変すぎる。

 そりゃ、こんな道を登り下りしないといけないのなら普段は麓で暮らすよ。うんざりするほど登ったら、山頂がようやく近づいてきた。それでも、この道が麓から山頂の城に続く一番ラクな道のはず。

「その通りや。山は低くても、道がないとこを登るのは無謀やねん」
「六甲山でも年に何回か遭難騒ぎがあるでしょ」

 他にも抜け道とか、杣道とかあったとしてもここより険しいはずだものね。山頂の城郭になると平地もあり、観光用の旗指物もあって、ちょっとは城っぽい感じがする。でもだよ、

「それはしゃ~ない」
「ユリも五色塚古墳に行ったことあるでしょ。古墳だって出来た頃は、あんな感じで木なんか生えてなかったんだから」

 木が茂っていて中途半端に見晴らしが悪いんだけど、それでもここからなら周囲は一望だった気がする。山頂ぐらいから西の椿峠に向かって、

「尾根に沿って段々畑のように曲輪が伸びとったみたいやな。この城の目的は椿峠の防衛でエエと思うで」

 でもあんな低い峠なんてすぐに突破されそうだけど、

「そう見えてまうかもしれんが、これは後から確認しに行くわ」

 そこから丸太階段をえっちら下りて、歴史資料館に。ここは江戸時代の庄屋屋敷を移築して資料館にしたみたいで、これはこれで気合が入ってるぞ。

「地元の英雄の城やからな」

 たしか国吉城の城主は粟屋越中守で、尻啖え孫市にも出て来るけど、田舎者丸出しの傲慢な人物として描かれていたはず。さらに言えば苦戦中の秀吉を冷遇したから出世のチャンスを逃したとかなんとか、

「あんなもんフィクションや。そもそも孫市が金ヶ崎に参加しとるはずあらへんやろが」

 あれっ、そうだったの。

「あとがきに書いてあったでしょ。雑賀孫市は実在の人物ではあるけど、ほとんど経歴がわからない人物なのよ。辛うじて記録に残っているのが石山合戦に参加しているのと、信長の紀州攻めの時の敵将の名前に残っているだけ」

 だから紀州雑賀、今なら和歌山市あたりの豪族なのはわかるぐらいだそう。じゃあ作中の孫市は、

「なんも記録が残っとらへんから司馬遼太郎が自由にイメージした人物や」
「なんとかく前田慶次の匂いがするけど、どうなのかしら」

 そもそも戦国時代に小領主であっても、敵国の首都に乗り込むのはあり得ないし、そのままついでみたいに合戦に参加するのもあり得ないと言われればそれまでだ。

「粟屋備中守も記録に乏しいところがあるけど、その奮戦ぶりを記録した書物が残されたんや」

 国吉城籠城記と言うのだそうだけど、そこそこ流布されて、

「今でも地元の英雄として慕われてるぐらいや」

 コトリさんに言わせれば戦国時代で名を残した武将は信長、秀吉、家康に関わった者だけで、

「九州に島津、中国に毛利、四国に長曾我部、関東に北条、陸奥に伊達がおったんぐらいは知っとっても、その有名な家臣って聞かれて答えられたら、かなりの歴史通や」

 そういう意味で粟屋越中守は全国デビューに手がかかるところまで来てたのに惜しかったって。名を残すのも運が必要なのは芸能界と一緒なのかも。それから歴史資料館を見て回ったのだけど、コトリさんは熱心だな。

「そりゃ、歴女だもの」

 係員の人にも熱心に話しこんでるけど、

「ほれでしたら・・・」

 館員の人がどこかに連絡を取り、

「助かったわ、家がわからんかってん。わざわざ迎えに来てくれるって」
「良かったじゃない」

 佐柿の郷土史研究家の人にアポを取ってたって! だけど家を探すのは難しいのはわかるのよね。ナビでだいたいのところまでわかるのだけど、

「場所によっては微妙に違うし、ナビの地図だってイイ加減の時があるもの」

 それあるあるだ。もちろんナビは便利だし、助かる部分はたくさんあるけど、それでも万能でない。極端なのになると、ナビが誘導してるはずの道がなかったりもあったもの。

「無料やから文句も言えんけど」
「有料のは毎月料金を毟り取られるのよね」

 つまりは課金だ。レビューを見る限り有用そうだし、無料のものより精度が高そうだけど、

「道なんか一遍走ったら覚えるやん。そりゃ、初見の時は迷う時もあるけんどツーリングやで、旅やで。迷うのも楽しみみたいなもんやんか」
「少なくともナビがあれば、完全な迷子にはならないし」

 そこはわかる気がする。道には迷いたくないけど、迷子まではともかく、ここはどっちだろうとか、この道で合ってるんだろうかとドキドキする時間は思い出になるのよね。

「そういうこっちゃ。迷うのが嫌やったら、自動運転のドライブでもやっといたらエエ。あれやったら、寝とっても目的地に着くやん。ツーリングはな、目的地に着くまでの過程を楽しむ遊びや」