ツーリング日和13(第28話)愛人疑惑

 小出雲大臣だけどお付きの人もいるけど、

「あれはジェーン竜田川じゃないな」

 そうなんだよ、派出そうな女性と一緒なんだ。ここで清水先輩が、

「そうか星空会議か」

 そんなのもあったな。これも小出雲大臣の肝いりで始まったものだけど、綺麗な星空を守るための対策会議みたいなもので、全国を巡回しているもの。現地に赴いて、現地の人の声を直接聞く趣旨は悪くはないと思うけど、

「実態は小出雲大臣のポエムを聞く会なんて陰口も出てる」

 はっきり言うと、なにをやっているのか正体不明の代物って悪評もある。悪評はともかく星空会議なら土小屋テラスで行っても不思議無いか。それもともかくあの派出そうな女は何者だ。大臣の傍にいるのなら秘書ぐらいがまず思いつくけど、あんな派手な服装の秘書はいないだろう。秘書って黒子みたいなものだから、地味で目立たない服装のはずだ。

「星空会議は夕方から始まって夜は懇親会ぐらいのスケジュールはずじゃないか。土小屋テラスからの夜道は危険だから泊りなのはわかるとしてだ」

 これも聞いただけの話だけど、星空会議も誘致合戦があるとかないとか。あれこれボロも出ている小出雲大臣だけど、与党の有力者であるのは間違いないから、コネを作る目的はありそう。

「コネは小出雲大臣サイドからも作りたいのかもな」

 総裁選には地方票もあるからか。それでも形としては小出雲大臣を迎え入れる形になるから、えっ、ちょっと、ちょっと、そういう接待のためとか。

「時刻も妙だ。地元の与党議員とか知事とか市長、有力な県会議員も出席はしてるだろうけど、たとえ泊っても朝には帰るはず」

 だから小出雲大臣の見送りに来ている気配はないもの。もしそういう接待なら、

「この時刻まで存分に楽しんだのかも」

 それって迎え入れ側が調達したコールガールみたいなものか、それとも小出雲大臣の愛人なのか。

「う~ん。どっちの線もあるが愛人じゃないか。コールガールなら一緒のクルマに乗り込まないだろう」

 そんな気がする。だったらこれは大変なスクープになるかも。そっかそっか、星空会議にはマスコミの取材も来たはず。でも出席者はその夜に帰る人もいるだろうし、泊まっても朝には帰るはず。

「もしマスコミが追いかけても朝までだろう。大臣がこんな時刻まで居座ってると考える方が変だ」

 逆に言えば、この時刻なら愛人と同伴でクルマに乗り込んでもマスコミの目はない事になる。どうでも良いけどそこまで同伴で帰るのにこだわるものかな。だってだよ、目立たなくしたいなら、同伴を避ければ済む話だし、服装だって秘書風に地味にすれば良いだけの話だもの。

「この時刻ならマスコミはいないだろうけど、一般人の目はあるからな。そうなるとこれは女の意向になるぞ」

 なるほど女はそういう姿を見せびらかしたいのか。でもそれにリスクが伴うのはさすがの小出雲大臣でもわかるはず。それを押しても女の意向を通したとなると、

「元カノというか、こっちが本当の本命じゃないか」

 清水先輩も言うね。ジェーン竜田川との結婚は唐突のイメージがあったものね。やはりあれは出来ちゃった婚で逃げられなかったらかも。小出雲家サイドにしたら堕ろす説得もしたかもしれないけど、ジェーン竜田川も有名人だから揉めるのを避けた可能性がある。

「可能性だけなら、あの派手女は小出雲家の嫁として問題があった線もあるぞ」

 偶然とはいえエライものを見てしまったけど、うちはバイク雑誌だぞ。

「どこかに売り込めるけど」

 買い手はいくらでもいるか。小遣い稼ぎぐらいにはなってくれるかも。でもさぁ、売り込むにも派手女と大臣のツーショットだけでは弱いかな。

「それだけど、噂だけはあったぞ」

 芸能週刊誌の読み過ぎだろ。小出雲大臣はプレイボーイとしても有名だったけど、

「それは親父の方だ」

 そうだった、そうだった。ついでに言えば総理になったお爺さんもスキャダンルで政権が大揺れになったはず。そういう意味では血筋みたいなものだけど、小出雲大臣の熱愛報道もあったものな。

「それが蓋を開ければジェーン竜田川でビックリした」

 清水先輩が言うのは、本命の素性になにか問題があったんじゃないと考えているよう。たくだよ、普通に恋ぐらいしろよな。二股とか三股とか平気でする野郎の気がしれないし、そんな野郎に入れあげる女も理解不能だ。

「でもいるのが現実だ」

 そうだった。先輩もそれで奥さんに逃げられてた。それは置いとくけど、あそこまでさせて、小出雲大臣も認めてるなら、

「可能性はある。どういう決着を目指してるかはわからんがな」

 略奪愛か、それとも本妻以上の地位を得たいのか。

「だから小出雲大臣の器は小さいと言われるのだろう」

 政治家にとって離婚はタブーみたいなところもあるそう。でも政治家になるような人間には愛人を囲うのもまた多いそう。ロクでもない人種だけど、大物ってされる政治家は愛人がいてもそれをコントロールして表に出さないそうだ、

「政治なんて魑魅魍魎が蠕く世界じゃないか。だから裏は強烈だけど、その裏を見せないようにするのも政治だ。それなのにたかだが愛人問題もコントロール出来ないのは不甲斐なさ過ぎるってことだよ」

 聞けば聞くほど政治家の奥さんなんかしたくないよ。それでもなりたいのもいるのよね。

「ジェーン竜田川はそうだ」

 政治家の奥さんと言えば内助の功って役割になりそうだけど、政治的な野望もあるのがいるそうだ、

「アメリカにもいただろう」

 いた。大統領夫人として大統領以上に目立ち、夫が大統領を辞めた後に上院議員になり、さらには大統領選に出馬して女性初の大統領になってるもの。ジェーン竜田川もそれを狙っているとか。

「あるぞ。もし小出雲大臣を首相にまで押し上げても、どうにでも操れるじゃないか。影の首相みたいな地位を占めて、小出雲派を率いて総裁選挙に打って出るとかだ」

 そこまで狙っているのならキャラも強烈のはず。そっか、だから、

「そうかもな。癒しタイプが出てくれば、殆どの男が転ぶのじゃないか」

 わかりたくないけど、わかる気がする。野望家が夫婦やってるようなものだものね。歯車が合えば強力だろうけど、家庭に癒しを求めるタイプならウンザリになるのもわかる。そんなことを話しながら土小屋遥拝殿の取材に行ったら変なのが現れた。