藤井五冠強い

 竜王戦は珍しく二敗しましたが強いです。棋王戦でも勝ち上がって来ていますし、A級順位戦でも首位争いをしてますから、このまま七冠なんて声も出ているのもわかります。それぐらいの強さと安定感があります。

 棋士の強さは持って生まれた天分の部分は大きいですが、それに加えての研究の部分が大きくなっているとして良さそうです。研究はこれまでの棋士ももちろん行っていますが、現代将棋は異次元みたいな様相とも言われています。

 羽生永世七冠がどこかで語っていましたが、羽生九段の頃も棋譜のデータベースはあったのですが、今より整理が悪くて、研究の参考にするのも一苦労だったとしていました。これがデータベースの整理が今は進み、序盤はもちろんですが、中盤での変化の結果も追いやすくなってるそうです。

 研究が進むと定跡化が進行するのですが、定跡手順での戦績もまた判明しています。そのために、どこで定跡から離れ、そこで新工夫を盛り込むかの研究が激しく行われているとして良さそうです。

 でもってその新工夫の研究に威力を発揮するのがAIでしょうか。新工夫を思いつたときに、その手順が本当に有効かどうかの判定にAIが使われるぐらいです。ここまで単純じゃないでしょうが、そういう研究手法がポピュラーになっているのが現代将棋のように感じます。

 藤井五冠の強さはAIで研究を深めているのはもちろんでしょうが、相手がAIで事前研究を重ねていた新工夫を持ちだしても、これに対応できてしまう点の気がしています。藤井五冠とて2割は負けますから、相手の戦術に対応しきれない時もありますが、たったの2割しか負けないのはまさに驚異です。

 これは相手がAIで研究を重ねた新工夫に対して、AI的な思考過程で対応できる能力を備えている気がしています。この辺は外野の感想に過ぎませんが、相手の新工夫と言っても、それで局面を有利にするぐらいの効果しかありません。

 新工夫で詰みまで研究され尽くされていませんから、局面を有利にして勝ち切るまでの手順は対戦中に編み出すしかないはずです。その過程で新たな工夫を考えだし、相手の緩着を許さずひっくり返してしまうぐらいです。

 棋聖戦で敗れた渡辺名人が語っていましたが、藤井五冠に勝つにはベターでは無理で、ベストを続けないといけないとしていました。渡辺名人も名棋士、いや大棋士として良い強豪ですが、対戦前に立てたゲームプラン通りに展開しても勝てなかった悔しさを語っていました。

 通常の棋士なら、ある状況になれば必ず起こすミスまで言わなくても、やや緩手みたいなものが皆無だったとしていました。もちろん藤井五冠でも皆無は言い過ぎですが、それを期待していては勝てないぐらいでしょうか。

 渡辺名人も藤井五冠に棋聖戦第三局でで勝てる手筋はあったとしています。これは局後の研究で判明したようですが、実戦で、あの残り時間で見つけられたかと問われれば自信は無いとしていました。そんな手筋はAI以前では埋もれたものであったはずとする一方で、藤井五冠相手なら、そういう手筋でも見逃さないぐらいのレベルを要求されるぐらいでしょうか。

 聞きながら藤井五冠は既にそういうAIでなければ見つけ出せない手筋、手順を見つけ出せる領域に達しつつある気がしています。であれば、勝つには対戦相手ももまたその領域に達しないと対抗できないぐらいでしょうか。

 藤井五冠の強さですが、将棋に革命をもたらしてる気さえします。将棋界の黒船と言えばトップ棋士でもAIに勝てなくなったことですが、棋士たちはAIを目標に棋力を上げる時代になり、AI的な思考過程を身に着けた棋士が覇権を握ります。

 現代のトップランナーは藤井五冠ですが、他の棋士たちも手法はわかっているはずですから、死に物狂いで追いかけているはずです。そうやって将棋界のレベルが上がる時代が到来している気がしています。