ツーリング日和6(第26話)据膳談議

「いるね」
「白羽根警備もアホやない」

 もうすぐ敦賀港に着岸やねんけど、十人ぐらいはおるな。

「コトリ、どうするの」
「芸がないけど強行突破や」

 ボーディング・ブリッジを下りたら寄って来よったから、

「おっと、そこまでや。それとうちらのバイクのナンバーをちゃんと覚えて報告しいや。そうしたら、あんたらの仕事は終りになる」

 しゃ~ない金縛りや。三十分ぐらいでエエやろ。これで白羽根警備との鬼ごっこはおしまい。もうちょっと楽しみたかったけど、こっちかって仕事があるから、これ以上は付き合われへん。

「帰ろうか」
「朝飯困るな」

 敦賀から定番の帰り道で舞鶴回ってから、綾部、丹波篠山、三田から北六甲有料道路から六甲山トンネル抜けて神戸に御帰還や。

「七泊八日になったけど楽しかったね」
「ああ、これで北海道も目途付いたようなもんや」

 北海道は目途ついたけど、目途が付かへんのがあの二人。

「知恵の女神が情けないね」
「今回は難しいわ」

 それよりあいつら、昨日の夜もやってへん。もう五泊目やぞ。昔から言うやろ、据膳食わぬは男の恥ってな。

「あえて据膳を食べないことで、男のプライドとか優しさを示してるとか」

 それは据膳の言葉を履き違えとるわ。据膳つうのは、どうぞお食べ下さいと目の前に出された御膳の事や。御膳には御馳走が乗っとるんよ。そこまでして出されてるのを食べへんのは失礼やないか。

 もちろん男と女の据膳には色々ある。たとえばあれこれ因果を含められて無理やり据膳にされとる場合は食べへんのも一つや。

「そういうケースもややこしいのよね。食べてもらうことで因果を果たすケースもあるもの」

 やるのは嫌でも、据膳として食べられへんかったら、今度は食べられへんかった事が問題になるケースやろ。あれはややこしいわ。

「そもそも据膳と勘違いして食べようとするケースもあるよ」

 見え見えの据膳もあるけど、シチュエーション的な据膳もある。わかりやすく言うたら、夜に二人だけで部屋におるような状況や。言い換えれば、男がいつでも襲える状況になっとるぐらいでエエ。

「あれでしょ、恋愛感情抜きの男友達としか思ってないのに、部屋に入れられたのをOKと勘違いして襲いかかるってケース」

 そういうこっちゃ。男から見たら誘われてるように見えるとしても良い。その辺は阿吽の呼吸のもんや。据膳いうても女が首から、

『一発よろしく』

 こんな札を掛けとるわけやあらへん。女が据膳なのかどうかの判断は男になる。その判断を間違うと悲劇になる。下手すりゃレイプで捕まるからな。

「あれも微妙な時が多々あるのよね」

 それを言い出したらキリがのうて、好意はあってもその夜はやりたないとか、どうしてもやったらやっても良いけど気乗りが薄いとか、

「女から誘ったら良くないから、それなりに抵抗だけ見せるとか」

 そやから据膳かどうかが微妙な時は食べへんのが吉もある。そりゃ、据膳食べたばっかりに、後が大変なんてケースもなんぼでもある。男と女でやる関係を結んだっつうのは、そこからどんなドラマが展開するかバリエーションがありすぎる。

 そやけど、そやけど、香凛は完全な据膳やん。どうか食べて下さいと言ってるようなもんやんか。それにやで、半分無理やりやったけど、フェリーの夜に香凛を泣かせて、あそこまで言わせてるんやで。

「コンドームがなかったらだよ」

 まあそれは理由になるけど、若い男が香凛みたいな美人と五泊目やぞ。やりたないわけあらへんやん。それどころか、別に香凛がおらんでも溜まるし、一緒やからセルフで出しようもあらへんやんか。

「夜の部屋は別だったから出してるよ。でもひょっとしたら童貞かも」
「同棲して結婚式まで行ってる女がおったのにありえるか」

 ごく普通の庶民同士が恋をして、将来を誓い合うところまで関係が深まって、お互い清い体のまま初夜を迎えるなんて宝くじより確率低いわ。あるんやったら、超が付くマザコン男とか、ウルトラ・シスコン男の偽装結婚ぐらいや。

「とりあえずどうするの」
「ホテルに放り込んで励ませる」

 やってくれんと活路を見出しようがあらへん。

「それってヴァージンを貫いたら活路が開かれるってことよね」

 香凛が貫かれたからって必ずしも活路は開かれると限らんが、貫かれんことには話を広げようもあらへん。たとえば孕んでくれたら状況が変わってくる。

「それは時間がかかりすぎるよ」
「一発でも当たる時は当たる」

 出来ちゃった婚の泥仕合はコトリも避けたいんやが、状況はそれぐらい苦しいわ。

「ところで野獣はアレはどれぐらいあるんだろ」
「どやろ」

 あれの大きさは必ずしも体格と比例せん。でっかい統計取れば別かもしれんが、コトリの知っとる限り個人差が大きすぎる。

「だから処女相手に気を使ってるとか」
「そんなもん、いつかやるんやから一緒や」

 一般的な話をすれば小さいより、大きい方が歓迎される。そやけど実戦は言うほど差はあらへん。あまりにデカいと女は壊されそうな恐怖心が出るから嫌がられるぐらいや。

「実際はどんなサイズでも入るのにね」

 経験が多すぎじゃ。ほいでも過ぎたるはの逆の短小は軽蔑されるものな。

「でも本当は大きさより持続時間と連発能力だものね」

 そやから経験が多すぎるって。連発能力はまだしも少なくとも早漏はあかんな。女が存分に感じるためにはどうしたって時間が必要や。中途半端に火が付いたぐらいで終わらされてまうのは生殺しになる時があるからな。

「そこをカバーするのが連発能力じゃない。早漏だって二発目になったら時間は伸びるじゃない」

 そやから、そやから経験多すぎじゃ。だいたいやで連発できる奴は少ないぞ。

「そこは女のテクニックじゃない」

 童貞相手の時がそうやもんな。若いし、頭に血が昇り切っとるから、三擦り半どころか、先っちょで暴発してまうのもおる。そこで責めたらあかんのよ。優しくフォローして、次に導いてやるんよ。

 女にそんなことされた事あらへんから、反応は面白いぐらいや。すぐやもんな。二発目かって三擦り半に毛が生えたぐらいになるのも少のうない。とにかく初体験やから余裕なんてものはクスリするほどもあらへんのが多いんよ。

 それでも、そこまで頑張った事を目いっぱい褒めてやって、次に導いたるねん。あれは若さの特権やと思うわ。ホンマになんぼでも導けるねん。さすがに何発かしたら経験ができるやん。朝になる頃には・・・

「何発やらせてるのよ」

 そんなもんコトリが満足するまでに決まってるやんか。枯れ果てて、空撃ちになっても若い童貞やったら余裕や。時間の許す限りエンドレスしかあらへんやろ。そうしてやるのが女神の筆下ろしや。

「そりゃ、そうだけど」

 コトリとユッキーのことはエエ。五千年も女、それも若い女ばっかりやって、すべての経験が止め処もなく積み上げられてもてるからな。そういう女を相手に筆下ろしする幸せを与えてやるのも女神の仕事や。

「それって幸せなのかな。他の女じゃ満足できなくなっちゃうかもしれないんじゃない」

 当たり前や。女神とのエッチやぞ。それぐらいの代償なんてタダみたいなもんや。余計な心配せんでも男は普通の女と出来るようになる。そやな、最高のエッチは女神ぐらいがいつまでも記憶に残るぐらいや。

 そやけど、毎度毎度こんな淫乱の極みみたいなエッチをやっとる訳やない。一発で心も体も深く深く満足する時はするねん。それがたとえ短小の早漏でもや。これが五千年かけて会得した神髄や。なにより一番肝心なのは、

「エッチは心よ」

 しもた。決めセリフ言われてもた。