ツーリング日和6(第22話)予定変更

 ユッキーが腹括って乗るんやったらコトリも乗るで。

「事情はわかったからゼニは貸したる。貸したるけど、明日はどうするつもりや」
「秋田に泊まってフェリーで・・・」
「アホか!」

 白羽根警備の連中は青森で香凛の確保に失敗しとる。あそこで逃げれたんは白羽根警備の情報不足やったでエエやろ。直樹はあれでも柔道黒帯や。そんな直樹が一緒やった情報をつかんでなかったはずや。

「いや、直樹さんが一緒なのはつかんでたと思うよ。抜けてたのは柔道黒帯の情報だと思うよ」

 そうかもな。そのせいもあって、青森以降は積極的には追跡してへんはずや。これもたぶんやが、青森での直樹はかなりのインパクトを白羽根警備に残しとるはずやねん。

「半端ない気がする」

 半端ないどころか強烈やったはずや。あの顔と巨体やんか。それこそリアルなまはげが暴れとるぐらいに受け取ったはずや。

「柔道黒帯だからタダでも強いけど、数倍ぐらいに感じたんじゃない」

 青森で出くわした白羽根警備の連中かって弱いことあらへんはずやし、それも三人もおったそうやんか。聞くと直樹はまさに一蹴しとる。当然やけど筋者の線も疑ったはずや。疑わん方が不思議過ぎる。筋者やないのは調べたらわかっても、トンデモナイ怪物が香凛を守ってるとインプットされたはずや。

 次にやるのは作戦計画の練り直しや。青森での白羽根警備の体制は香凛とせいぜい一般人が相手ぐらいやってんやろ。そやけど怪物が同行しとるとなると話が変わる。本社から精鋭部隊の応援を要請したはずや。

「秋田での待ち伏せね」

 香凛たちは秋田にフェリーで来とるから、フェリーで秋田から敦賀に帰ると読むのはたやすい。さらに逃走資金はかなり断ってるとも見てるのも加わる。

「直樹のチケットぐらいは確認済みよ」

 秋田港のフェリーターミナルで待ち伏せやろ。

「船内じゃない」

 そりゃ、見つけるだけやった船内の方がエエやろし、取り逃がしても追っかけるの容易や。海の上やから逃げ場があらへん。そやけど船内では動かんと思う。

「どうして」

 警察やないからや。直樹の実力は青森で見てるやんか。よほど上手く始末せんかったら大乱闘になる。乱闘になれば船側が黙ってへん。そうなれば新潟から警察が介入してくるやんか。そうなりたくないはずや。そやからフェリーに乗る前に決着を付けようとするはずや。日をずらす手はあるけど、

「それぐらいは読むよ。一日一便だから今日だって待ってたはずよ」

 白羽根警備があきらめるまで日をずらしとったら、コトリらも帰れんようになる。

「休暇を伸ばしたらミサキちゃんが怖いもの」

 だいぶ無理言うたからな。裏をかくにはフェリーを使わんのもありやけど、秋田から神戸まで下道で帰るのは無理がありすぎる。そうなるとやが、これも読まれとる可能性はあるけど、

「その時はその時じゃない」

 フェリーは秋田を明後日の八時三十五分に出航するんやけど、新潟に十五時半に着くんよ。そやから秋田を外して新潟で乗り込む。この作戦のキモは白羽根警備の連中も直樹対策に複数部隊は繰り出さんとみたい。

「おカネかかるもんね」

 この辺は契約の問題になるけど、請負になっとる可能性が高いとみる。白羽根警備かって香凛の確保だけやったら容易と見たはずで、マイの時のような総動員体制やないはずや。あん時は親会社の厳命やったからイナゴのように湧いて来よったからな。ここで直樹が、

「秋田で乗り込まないと見たら、そのまま乗船して新潟に乗り込んでくるリスクは」

 ある。悪いがどうしたってリスクはある。それを言い出せば敦賀で待ち受けてる可能性だってある。そやけどな、ノーリスクの作戦ってあらへんねん。まずコストを考えて白羽根警備は単独部隊と考える。

「それには賛成。こういう誘拐同然のリスクの高い仕事は料金がベラボウに高いのよ。だから白羽根警備だと思うけどね」

 こんな仕事を国内で請け負うのは白羽根警備ぐらいやもんな。それはともかく、本命の明後日の朝の便におらんかった時に白羽根警備はどう考えるかや。新潟に回った線も考えるかもしれんが、

「駒が一つだから、日をずらした方を高く取ると思うよ」

 それより別の要素が気になってくるはずやねん。直樹は今こそ大阪勤務やが、高校まで埼玉で育って、東京の大学から東京本社勤務や。白羽根警備も大阪の直樹の友人知人を抑えても、東京や埼玉となるとカバーするにも広すぎるし、予算も人手も足らんはずや。

「直樹さんの関係は大阪支社だけ抑えてるだけで良いと思う」

 本命の秋田に姿を現さんかったら、東北道から東京方面に逃げた懸念が強くなるはずやねん。

「フェリーより高速の線が有力になっちゃうのか」

 有力と言うか、そっちの線の懸念が出てくるぐらいや。とにかく相手は一点に絞って考えて罠張っとるから、外れた時にプランBの範囲が無暗に広うなるんよ。こういう時の判断は難しなるはずや。

「それでどこに泊まるの」

 秋田は当然パスで、南下ルートも秋田市内は避けとく方が無難やろ。要は新潟寄りに次の宿を設定すればエエんや。そやったら山形やな。折角やから、

「この辺でどうや」

 ここやったら三時間もあったら新潟は余裕やろ。

「秋田土産の代わりに山形土産と新潟土産が買えるね」

 そういうこっちゃ。ここで直樹が、

「でもそうなると・・・」
「貸したる言うたやろ。今の今から全部払たるから安心せい」
「取り立てもちゃんとするから安心してね」

 香凛と直樹が部屋に戻った後に、

「思ったんだけどさ、最初から新潟回りにした方が良かったんじゃない」

 それはプラン考えながらそう思た。ついつい、下りたとこの港にこだわってもたし、きりたんぽ鍋と比内地鶏に引っ張られてもてた。もちろんそれだけやない、新潟回りをすれば、

「目の前にあるアスピーテラインを走れなくなっちゃものね」

 ここまで来とるのに惜しいやんか。十和田湖と八幡平はセットみたいなツーリングコースやろ。

「秋田土産のリクエスト多かったものね」

 それも軽くない要素やった。でもその代わりが出来るから、

「どっちが良かったのかな」

 わからんけど山形に足を伸ばした方がおもろそうな気がするわ。そういう意味では瓢箪から駒やな。そういうたら山形で美味しい料理ってなんやろ。急に山形言われてもイメージわかんな。山形と言えば花笠音頭とサクランボか。

「イナゴの佃煮は山形じゃなかったっけ」

 イナゴねぇ、食べたら美味いかもしれんが、

「なんと言っても芋煮でしょ」

 それは秋やろ。