藤井五冠強ェェェ

 将棋界の新星というより巨星になってしまっている藤井五冠です。去年は豊島九段、渡辺名人と延々と番勝負を繰り広げ、すべて勝ってしまうと言う驚異の戦績を挙げています。

 豊島九段にしろ、渡辺名人にしろ押しも押されぬトップ棋士で、藤井五冠の台頭を快く思っているはずもなく、言うまでもなくタイトル戦ですから渾身の将棋を指されて退けられています。傍目で見ていて渡辺名人もそうですが、豊島九段はとくに相当なトラウマを植え付けられてしまったんじゃないかと思う程です。

 私は下手の横好きにも遠いぐらいの棋力ですが、なにが凄いって渡辺名人との対局なんか、詳細な局後の解説を聞いても、どこかが敗着だったとか、あそこでこう指しておけばがサッパリわからなかったぐらいです。

 季節は巡って叡王戦です。対戦相手は出口若武六段。あんまり聞いたことがない名前ですが、六段でタイトル戦出場ですから、若手のホープだと思っていました。

 出口六段は後手番ながら、相掛かりから3六の横歩を払う戦術を見せる熱戦であったようですが、その研究戦術をものともせずに、藤井五冠が出口六段を攻め潰してしまったぐらいの一局でしょうか。一局だけで評価するのは危険ですが、素人目から見ても藤井五冠が、

    猪口才な!
 こんな感じであしらってしまった印象があります。比較に出すのはどうかと思いますが、渡辺名人との対戦のように、今の形勢はどっちが有利なんだ、あの手にはどういう意味があるんだみたいな程の鎬を削りまくる緊迫感まで行ってなかった印象が残りました。

 もちろん出口六段にしてもタイトル戦初出場の緊張もあり、とにかく棋界の頂点に立つと言っても良い藤井五冠が相手でしたから、実力を存分に出せなかった部分もあったはずで、二局目以降の熱戦譜に期待します。

 ですが、なんとも言えない違和感が一つ。出口棋士は六段でタイトル戦出場で、年齢だって27歳で余裕の若手の新鋭として良いと思いますが、藤井五冠はまだ19歳なんです。

 藤井五冠の最年少昇進記録はあれこれ話題になりましたが、これがいかに異様か、異次元のものかが今さらながらわかります。新鋭と呼ばれる出口六段と較べるとよくわかります。

出口六段 藤井五冠
年度 昇段履歴 タイトル 年齢 昇段履歴 タイトル 一般棋戦 年齢
2007 6級 * 12 * * * 5
2008 * * 13 * * * 6
2009 * * 14 :* :* :* 7
2010 :* :* 15 :* :* :* 8
2011 :* :* 16 :* :* :* 9
2012 :* :* 17 6級 * * 10
2013 三段 * 18 * * * 11
2014 * * 19 * :* :* 12
2015 * * 20 * :* :* 13
2016 :* :* 21 三段→四段 :* :* 14
2017 :* :* 22 * * 朝日杯 15
2018 :* :* 23 五段→六段→七段 * 朝日杯 16
2019 四段 * 24 * * 新人王 17
2020 * * 25 八段 王位、棋聖 朝日杯、銀河 18
2021 五段 * 26 九段 五冠保持 * 19
2022 六段 叡王挑戦 27 * 五冠保持中 * 20
 出口六段を貶める気はまったくないのですが、こうやって表にすると藤井五冠の異常ぶりがよくわかります。どこかでマンガでもこんな設定に出来ないとの評がありましたが、たしかにフィクションの設定でもウソ臭すぎて出来ないと思います。

 だってですよ出口六段が6級で奨励会に入り四段に昇進するまでが12年。藤井五冠が奨励会に入ってからまだ10年なのです。出口六段もプロ入りして4年目でタイトル挑戦は余裕で早いと思いますが、藤井五冠のプロ入り4年目は王位、棋聖を奪取して八段に駆け上っています。

 叡王戦の行方はまだわかりませんが、将棋には時代を象徴する王者が君臨する競技の気がしています。歳がばれますが、大山時代、中原時代、羽生時代とあり、これからは藤井時代です。

 圧倒的な王者は悲運の棋士もまた産みます。あいつさえいなければもっと活躍していたはずなのにです。これから、そうなっていくのか、誰かが藤井時代に待ったをかけるのか、興味が尽きないところです。もちろん出口六段も藤井五冠に待ったをかける一人だと思っています。