ツーリング日和4(第6話)旅立ち

 今度のロング・ツーリングのための休みの許可だけど、コトリが社長、ユッキーが副社長やから誰の許可も要らんねんけど、ミサキちゃんとシノブちゃんの承認は必要やねん。親しき仲にも礼儀ありや。

「へぇ、こんどは飛騨なんですか」
「だったらまず赤かぶ漬け」
「朴の葉味噌も」
「高山ラーメンと飛騨ラーメン」

 即答で出るか。トドメに、

「なんてったって飛騨牛。クール宅急便でよろしく」

 へぇ~い。食い物以外に出えへんのか。

「他は放っておいても買って来るじゃないですか」

 読まれとるわ。それでも気を遣わさんようにしてくれるのが嬉しいわ。ゴールデンウィークが終わってから出発や。あの期間中は混んでるし、なんやかんやと特別料金やからな。つうことで今日は水曜日や。コトリもユッキーも気合入りまくりで五時に起きて、シャワーが済んだら五時半出発。

「朝食はあそこだね」
「他は空いとらへんからな」

 しばらく家を空けるから朝食も外でとる事にしたんやけど、これだけ早い時間帯に朝食をとるのは結構難儀やねん。まあ早朝やからしゃ~ない部分もあるけど、前に三田ぐらいに行ったらあると思って行ったら、見事に開いてなくて、

「あの時は篠山まで行ってもなくて往生したね」

 探せばあるはずやけど、朝食やんか。ロードサイドでポンと見つけて立ち寄りたいんよ。わざわざ訪ね歩くのは変やないけど、手軽さが感じられへん。それと出発したばかりやから、先に、先にの気分が強いやん。

「さっと出てきて、さっと食べれて、ボリュームのあるものが良いよね」

 そやからって訳やないけど、六甲山トンネルに向かう途中の松屋にしてる。卵かけご飯に味噌汁と牛皿付いて三百円せんからな。オシャレやないけど実質重視や。とにかくしっかり食べとかへんと先がとにかく長いねん。

 今回のルートやけど急がば回れにした。三田から篠山も国道一七六号を素直に北上、デカンショ街道から国道九号で京都に入り、京都の真ん中の五条通りを横断して山科から湖西道路に入るコースや。

 京都市内はそれなりに混んどったけど、ラッキーな事に覚悟したほど時間はかからんかった。琵琶湖大橋を渡って十円払い、

「コトリ、次の宇佐美がある信号じゃない」
「そうみたいや」

 最近の道は名前が付いてるのが多いけど、さざなみ街道って書いてあるわ。住宅街を抜けると浜が見えてきて、予想していた以上に気持ちがエエ道やんか。

「さっきサイクリストの聖地碑ってあったけど」
「なんか琵琶湖一周の起点にしようとしたらしいで」

 琵琶湖の回りは当たり前やけど平坦なとこが多いからサイクリングにもエエかもしれん。車道のロープの向こうの浜側の道はサイクリング・ロードかな。

「マイアミ浜オートキャンプ場だって」

 琵琶湖にもマイアミありってか。今度はマイアミランドか。なんかマイアミと関係あるんやろか。

「ずっと松林が続いてるのがすごいね」
「海岸でもこれだけ続いてるのは珍しい気がするわ」

 交通量がそこそこあるけど、信号は少ないし走りやすいわ。この橋渡ったら近江八幡やな。

「順調だから長命寺寄って行こうよ」
「三十一番札所やもんな」

 橋を渡ったら左折や。そんなに遠くないはずやけど、あったあった、

「右に入るで」
「らじゃ」

 おっ、車道があるやんか。なになに大型車不可か。こういう道こそ原付の本領発揮や。

「コトリ、これは・・・」

 あははは、一車線半のクネクネ・ワインディングや。長命寺もホンマは石段から上がるのが正式やねんけど、とにかく八百八段もあるねん。寄り道やからバイクで登らせてもらお。ぎゃぁ、クルマが下りてきた。こんなとこをと思うけど、あいつらもこんなに狭いと思わんかったんやろ。

「そうだと思うよ。しまったと思ってもターンするところもないもの」

 終点の駐車場や。ここから歩きやけど、ここからでも結構石段あるなぁ。上がってきたら朱塗りの三重塔があって、その手前が本堂か。ここは竹生島の次の札所になるけど、昔は竹生島から舟で来とってんて。

「八十八か所より三十三か所の方が物見遊山の傾向が強いからね」

 そやな。でも見晴らしはエエわ。あれ、ユッキーはお参りせえへんのか。

「寺の名前がね」

 そやな。ここまで五千年、これからも最低限五千年あるからな。長命もここまでくるとウンザリやで。さて行こか。長命寺を過ぎると完全にシーサイドならぬレイクサイド・ロードやな。道はセンターライン無しの二車線弱ぐらいやけど、クルマも少ないしバイク乗りには楽しい道や。

「ここイイよ」

 しばらく小さな峠と言うか丘を越えたら、

「こんなところに休暇村があるんだ」

 ほんまや。それに休暇村を過ぎたらセンターラインも出てきた。きっと休暇村までのルート確保をやったんやろ。ほいでもって県道二十五号に合流か。この辺も長閑なもんや。両方とも田んぼやもんな。この道は正解やったな。おっ、彦根市内に入ったか。住宅街になってきて、

「さっきから彦根市街、米原の道路案内が続くけど、もうすぐだよね」
「そのはずやけど・・・次の信号を右や」

 あぶない、あぶない、見落とすところやった。

「中濠だよ」

 どこにバイクを駐めるかやが、京橋口駐車場か。ここにしようか。

「右に見える駐車場に駐めるで」
「らじゃ」

 駐車料金は取られるけど二輪は一日三百円で、普通自動車は一時間四百円か。原付の駐車にゼニがいるのは複雑なとこがあるけど観光地やからな。とにかく観光地は歩かんと意味があらへん。

「あの橋みたいだね」
「あれが京橋なんやろ」

 ここは京橋口やけど、それより先に、

「お昼ね♪」

 彦根で食べると言えば、

「近江牛だけど・・・こんなのが出来てたのね」

 コトリもユッキーも彦根は初めてやない。つうても、コトリは小島知江時代やし、ユッキーは、

「カズ坊の中にいる時代も来たけど、人としてきたのは木村由紀子時代の社員旅行になっちゃう」

 つまりは昭和になる。ユッキーと歩いているのは夢京橋キャッスルロードって言うらしいけど、昔風の街並みを再現したものになっとるわ。すき焼きにも心魅かれたけど、二人が選んだのはステーキ茶漬け。単にステーキとお茶漬けの組み合わせが面白かったのと、二名様よりになっとるからそうした。

「近江牛の握りも美味しそうじゃない」
「そやな。トロ握りと、ローストビーフ握り」
「牛トロ柚庵握りとたたき握りも」

 これでビールがあったら言うことなしやけどバイクやから我慢、我慢。まあまあやな。近江牛も堪能したからショッピング。

「牛肉の味噌漬けも買わなくっちゃ」
「チーズの味噌漬けも美味そうやな」

 生ものになるから宅配にしてもらって、

「これが旅の楽しみね」
「鮒鮓どうする」
「ミサキちゃんもシノブちゃんもそんなに好きじゃないからパス」

 あれは好みが分かれるわ。腹も膨れたし、彦根のお土産も買えたから彦根城に行くで。