ツーリング日和2(第18話)次の計画

 四国のツーリングは楽しかったで。フェリーでも次のプランを話とってんけど、

「北海道は無理ね」
「さすがに仕事あるからな」

 敦賀からの往復三日のフェリーは長すぎるわ。

「飛行機輸送のパックもあったけど羽田発着じゃ使えないよ」

 運送会社に運ばせる手もあるけんど、下手に使うと挨拶とかウルサイんよ。

「なんか邪道っぽくない」

 なにが正道かは置いとくとしても、お手軽さが無いよな。そうなると南九州か。

「それもありだと思うけど、往復フェリーになっちゃうじゃない」
「それはしゃ~ないで」

 原付は下道ツーリング専門やけど、制限が多いのは確かや。とくにロング・ツーリングを考えると距離を稼ぎにくいし、

「都市部の信号と渋滞はウンザリよ」

 東に抜けようと思たら大阪と京都が頑張ってるからな。とくに大阪やな、奈良行くにも、和歌山行くにもガンや。

「やっぱり北を目指すべきよ。そのためにパワーアップしたんじゃない」

 日本海まで出るだけやったらエエんやけど、

「そのまま西に走る」

 鳥取とか島根も魅力的やけど、

「もっと西に走っちゃうのよ」

 萩とか津和野か、

「もっとよ。関門国道トンネル抜ければ門司じゃない」

 そういうことか。瀬戸内海側を西に抜けるのは甘いもんじゃないのは尾道で懲りたけど、日本海側を西に走れば変わりそうや。そうなるとまずは但馬漁火ラインになるか。但馬漁火ラインを走れば、

「余部鉄橋も行けるじゃない」
「泊まりは浜坂温泉やな」

 湯村温泉もあるけどパスや。ナビで二百十キロぐらいやから余裕やろ。神戸からやったら、新神戸トンネル潜って、加東から西脇、養父抜けて豊岡ぐらいやな。後は但馬漁火ラインをひた走りや。

「次の日は是非入りたい温泉があるの。小屋原温泉って言うのだけど・・・」

 どこやねんそれ。なになに三瓶山の中腹みたいなとこか。海岸からかなり引っ込んどるから回り道になってまうな。ユッキーの希望やから泊まるのはかまへんが、浜坂からやったらさすがに遠いな。

「だけど考えようよ。鳥取も松江も観光いらないじゃない」

 そやな。鳥取砂丘も定番みたいに行っとるし、松江かってお城も城下町巡りもやってるし、足立美術館も何回行った事か。宍道湖も見るだけでエエわ。

「出雲大社も御利益なかったからパス」

 ひたすら駆け抜けたら、二百三十キロぐらいか。

「そしたらね石見銀山に行けるじゃない」

 そやねん。松江から外れ過ぎてるから行ったこと無いんよね。そうなると泊りは、

「やっと津和野に泊まれるのよ」

 なるほど津和野にも温泉があったんか。石見銀山に寄るにしても百七十キロぐらいやから周れそうやな。津和野まで来たら、新門司まで百三十キロぐらいやから余裕やな。問題はフェリーの乗船時刻やけど、ここまで三泊やから木曜日出発として、

「十八時四十分出航で、七時十分に神戸に着くで」

 仕事柄やたらと出張とか、視察が多いんやけど、国内やったら県庁所在地が殆どなんよね。あっちはエレギオン・グループの投資を期待しとるから、あれやこれやで歓待してくれるんやけど、どうしたって県庁所在地周辺の観光になってまうんよ。

 こっちかって忙しいから腰を据えての観光なんて出来へんから、定番のメジャーなところばかりになってまう。まあ仕事が目的やからしゃ~ないところがある。遊びに行ってるんやないからな。

「下手に希望なんか出したら大変なことになっちゃうし」

 そうやねん。エレギオン・グループの動向は、傍迷惑なことに、とにかく注目されとるから、新奇なとこに行ったりしたら、

「どっかのロイヤル・ファミリーの訪問みたいな状態にされちゃうものね」

 そうなんよ。首長クラスがコチコチになって雁首そろえて待ってるし、

「地上げ屋が殺到したこともあったものね」

 そこに投資するとでも思たんやろ。いや定番観光が悪いわけやない。メジャーな観光地はメジャーなだけの理由があるぐらいエエとこやねんけど、ユッキーがクレイエールの社長になってからでも六十年以上経ってるやん。何回も行かされるのに飽きてきてるんよ。

「出張や視察は旅行だけど旅じゃないものね」

 旅行いうよりモロ仕事やからな。ホンマはツーリングももっとラフに行きたいんよ。今回やったら但馬漁火ラインを走るだけ決めといて、後は日が暮れ来たら適当に宿を決めるみたいな感じや。

「休みもそうは取れないし、せっかくだから秘湯も行きたいじゃない」

 休みは取れるのはとれるんやが、二人そろって休むとミサキちゃんとシノブちゃんの負担が大きくなるんよね。今のところは笑って認めてくれてるけど、それに甘えて北海道ツーリング二週間はエエことないやろ。

「ツバル戦クラスでも任せるのはシンドイものね」

 まあそうやな。エラン宇宙船や怪鳥戦になると完全にお手上げやし、そのクラスに何故か見舞われるのが女神稼業や。秘湯言うたら津和野に凄いのがあったはず。

「塩井戸と赤井戸ね。あれはさすがに無理よ。冷泉だし、手入れもされていない水たまり」

 ユッキーに言わせると三瓶山の北側には秘湯が多いそうやけど、温泉巡りやってると一日終わるらしい。

「やっぱり中型にする」
「難しすぎるわ」

 これはバイクを買い替える話やのうて、原付からバイクの種別を変える話や。これも原付を一種から二種に変えるのは地域にもよるけど割と簡単らしい。原付って原動機付き自転車のことやから、言い方は悪いけど役所にしたら税金増えて嬉しいぐらいかもしれん。

「そうなのよね。一二五CCを越えるとメーカー並みの保安基準の証明が要求されるものね」

 フレームとかの強度計算とか、ブレーキの制動力のテストや。科技研なら出来るけんど申請書類の作成だけで辞書みたいになってまうからな。それにやで、まともにやったら、

「そうなのよね。中型じゃなく大型になっちゃうのよね」

 一二五CCの3ローターやから三七五CCやけどロータリー係数がかかるから五六二CCになってまうんよ。それにマッド・サイエンティストが悪魔の軽量化やってるから、あんなもん通そうと思たらエレギオンの法務部総動員せんと無理や。

「そんなことしたら」
「ミサキちゃんが怖い」

 それでも最低限の不正改造基準は守っとるねん。マフラーの騒音規制は余裕でクリアしとるから大人しいもんやし、ヘッドライトはちゃんと常時点灯やし、ウインカーの規制も守っとる。

「ハンドルの高さもね」

 見た目はガチのノーマルやからな。

「大きいバイクが欲しかったら買うた方が安上がりや」

 まあ高速走られへんのはデメリットやけど、みんな高速走ろうとしてくれるさかい、下道が空いてるのはあるんよ。とくに田舎はな。

「そう、飛ばすのが目的じゃないし」