謎のレポート(第30話)性被害者

 闇の委員会は第四の裁判所になるかもしれない。法の平等の下で裁判所で与えられた刑では不足していると判断され、

『死刑以上の刑』

 これが相応しいとされた囚人を選びゲシュティンアンナの下に送るぐらい。大道以外にどんな委員がいて、それが何人で、どこで会議を開いているかはまったく不明なんだよ。

「リモート会議かもしれへんな」

 そうかもしれない。大道だって歳だし、そんな危ない会議に定期的に顔を合わせるだけでもリスクがあるもの。それはそうと熊倉が選ばれた理由はわかりやすい。

「そうやけど、ひょっとしたらひょっとするで」
「可能性だけだけどね」

 歳の差がって一瞬思ったけど、神の性転換をされた女は歳を取らないで良いと思う。たとえ太郎が実年齢で六十歳であろうと問題なくターゲットにされる。別に太郎が関係なくとも熊倉は選ばれただろうけど。

 だけどゲシュティンアンナの餌食にされているのは死刑囚だけでないはず。死神法相が規定の六か月以内の死刑執行をかなりやったけど、それでも死刑囚って高齢者が多いんだよ。これは捕まった時にそうの場合もあり、死刑囚として執行を待っている間にそうなったのもいる。とにかく年間たった三人とは言え、死刑囚から調達するのは無理があるんだ。

「だから性被害者でしょ」
「強姦だけでも千件超えるで」

 強制わいせつも七千件以上だものね。強姦魔に対する刑だけど、五年以上の有期刑となってる。これに傷害が加わると無期または六年以上の懲役となり、致死も加わると無期または死刑。この辺はあれこれあるけど、大雑把にはこんな感じ。

「集団暴行でも単独犯でも一緒なんは納得できへんけどな」
「そうよ、やられる回数が全然違うじゃない」

 旧強姦罪と旧集団強姦罪は扱いが違って、旧集団強姦罪の方が重かったんだけど、強制性交罪に変わった時に、単独での強制性交罪が旧集団強姦罪より重くなったから吸収された格好になってるんだよね。

「被害者視線がないと思うよ」
「そうやで。一人が相手なんと、十人や二十人も相手するのはどれだけ違うか知らんやろ」

 ええ、普通は知りません。というかそんな経験を持っているのがコトリ社長です。

「あれってな、ホンマに休みなしにやられるんよ。男は一発やったら休みがあるけど、他がやってるうちに回復タイムが取れるし、場が盛り上がるから二周目なんて普通にあるし、三周目とか、四周目かってあるんやで」

 今日は力は入ってるな。

「十人相手で一発ずつでも男は一発やけど女は十発や。これが同じ被害ってなんでなるんよ。十発分を連帯責任で取るべっきゃんか。裁判官のカマを十人ぐらいで掘ったったらチイとは尻の痛みでわかるで」

 この辺は性被害でなくとも、犯罪被害者はやられ損の部分があるのは間違いないのよね。そりゃ、損害賠償請求はできるけど、相手に払う能力がなければ単なる空手形だもの。熊倉がやった大松銀行襲撃事件で殺された被害者もそうだけど、残された遺族もなにも受け取れないに等しいのが現実。

「女への性被害の理解がないのよね」
「そうや単に一発やられたぐらいにしか扱っとらへん」

 これはシノブも同意見。ある強盗強姦事件だけど、一人暮らしの若い女のアパートに侵入して縛り上げレイプしてるんだよ、それも何件も。この時のレイプの特徴は、とにかく長時間に及んでいる事。最長はなんと二〇時間にもなるって言うから驚かされる。

 それもレイプするだけじゃなく、おカネを盗ったのはまだしも、女のあられもない写真を撮り、

『バラシて欲しくなかったら・・・』

 こうやって口止めさせるだけなく、金銭をさらに脅し取ったり、さらなる性関係を結ぶように強要してるんだ。中には要求されたカネが払えずに売春までさせられたものもいる。それなのに下された刑はたったの懲役二十五年だし、これでも異例の重さって言うんだもの。

 レイプされるのはその場の屈辱はもちろんだけど、むしろレイプされた後の方が大きいと考えてる。女に取ってレイプをされた事実は大きすぎる黒歴史になってしまうんだ。だから犯行現場の写真さえ脅迫材料にされてしまうぐらい。

「熊倉レポートにあった委員長みたいなケースやな」
「救いが無さすぎて読むのも辛かった」

 シノブもそう思う。だから、たとえ犯人が捕まっても女にはレッテルどころか烙印を押されてしまうぐらいの被害に遭うのがレイプ。そう、

『レイプされた女』

 こうやって白い目で見られ続けるんだ。だから仕事だって辞めざるを得なくなるし、家だって住めなくなるから引っ越しを余儀なくされるぐらいは普通にあるのよね。でもまだこれでも済まない事も少なくない。

 レイプのトラウマで男性恐怖症になったり、引きこもりになったり、発狂するのだっている。さらにだよ妊娠なんてしちゃったら、これでもかの追い打ちだよ。

「そうやお嫁に行けない体にされて、一生が台無しにされるんや」

 一度ぐらいお嫁に行ってみろとコトリ社長には言いたいけど、ちょっと古臭いけどその通り。コトリ社長はエッチは大好きだし、さすが五千年の経験者だからアブなプレイだってなんでもござれなんだ。もっとも焦れった過ぎる程の純愛も大好きなのは神の多面性。

 だけどね性犯罪者への姿勢はムチャクチャ厳しい。論外に厳しいのは人さらいだけど、性被害者だって容赦なしだもの、

「当たり前や。災厄の呪いの糸で嬲り殺しにしたる」

 一種の死刑だけど、そんな甘いものじゃなくて、死より苦しい苦痛に間断なく襲われて、これが自分で死を選ぶまで永遠に続くっていう言う恐ろしいもの。どっちかというと無期拷問みたいな刑。次座の女神として古代エレギオン王国に君臨していた頃は、

『そちは永遠に苦しむべし』

 この判決を受けた罪人は大急ぎで自殺したとか。その自殺するまでのわずかの間でも発狂するぐらいの苦しみに襲われたそう。三千年以上も前の話だけどね。でもコトリ社長を怒らせたら、今でも災厄の呪いの糸を使えるのはシノブも知ってる。

 刑法って、色んなバランスで出来てるし、下される刑の判断も、これまでの前例の積み重ねでバランスを取るようになってるぐらいは知ってる。良く言う初犯だからだとか、前科があるとかの類。

 それぐらいはシノブだって知ってるし、裁判所だってそれなりに信用できるけど、性被害への刑は軽すぎると思うのよ。あれは男の感覚で決めてるとしか思えないもの。

「そうだと思うわ。自分がレイプされる感覚なんて、ホモにでも襲われない限りわかるはずないよ」

 被害者でなくとも女ならば、レイプ犯は問答無用でチンチン切り落としで良いと思ってるはず。それぐらい憎しみの対象でしかないし、そうしておけば再犯は起こらないもの。でもまだ足りないよ、切り落としたうえで死刑かな。そうはいかないのが法治国家だけど、

「話は横道にそれてもたけど、闇の委員会のメイン・ターゲットは強姦魔やと思う」
「わたしもそう思う。年間千件もいるから三人ぐらい病死で消えても目立たないよ」

 刑務所の年間病死者数が三百~四百人ぐらいのはずだから、統計上は出て来にくいだろうな。どっちにしてたったの三人だし。それに強姦魔ならゲシュティンアンナの条件である若さにも合うのが多いと思う。

「女からすればゲシュティンアンナの餌食にされる強姦魔の扱いに喝采を送るのも多いと思うよ」

 本音はね。チンチンこそ切り落とされないものの、根こそぎ消滅するだけでなく完全な女にされてしまう。熊倉のケースは例外的で、ゲシュティンアンナなら性転換直後のバリバリ男の心のままの餌食をレイプするはず。

 目には目を式だけど、強姦魔に同じ思いをさせてやりたいと願ってる被害者は殆どのはずだよ。末路は死ぬまで男の性欲処理をさせられる。女の姿になって男にヒーヒー言わされるのもカタルシスになるかも。

 もちろんそうなっても自分が失ったものは戻ってこないけど、心情として強姦魔がそうなるのに負の感情が生じる余地は無いのもわからないでもない。ここも誤解しないでね、そうなるべきと主張している訳じゃないし、そういう個人的な復讐を禁じたり、加害者である罪人への公平な裁きが必要なのは認めてるんだから。

「シノブちゃんの言う通りや。過剰な復讐は不毛や」

 やりまくってたクセに、

「あれは仕方ないよ。時代があまりにも違い過ぎるんだから」

 それはそうだけど、

「それでもゲシュティンアンナのやり方でも、元男とは言え、女が犠牲になってる点は気に入らんところはある」
「そうよね。いくら刑とか罰と言っても、その元男で楽しんでるのは男だし」

 そこは確実にある。レイプ魔が女に変えれて、男にレイプされる部分はカタルシスになるかもしれないけど、ここで一番楽しんでるのは男じゃない。熊倉みたいにわざと処女で調教して変態狒々親爺に売り飛ばされても、楽しんでいるのは男である変態狒々親爺。

「こんなものは誰もが満足するような方法はないのよ」
「性被害者だって、女になった強姦魔がヒーヒー言わされてイカされまくったら、今度は強姦魔がイクのが許せんようになる気がする」

 ちょっとコトリ社長。それはずれてるよ、

「たまたまかもしれんけど、ゲシュティンアンナが年間三人しか出来へんのも適当なブレーキになっとるんちゃうかな」
「そうよね、年間千人も量産されたら、世界の性産業がエライことになっちゃいそうだもの」

 ユッキー社長。見るところが違うでしょうが。だけど三人は絶妙かもしれない。熊倉がゲシュティンアンナに性転換されてマゾ奴隷にされてしまったのは正直なところ同情はする。最後の時点から熊倉に待ち受けてる運命は、女にされた夜に熊倉が恐れていた運命にしかなりようがないもの。

 だけど熊倉の犯した罪は、悪いと思うけど命でも償ったと言いにくいのよね。大松銀行事件の被害者や遺族がどうなったかのルポタージュを読んだことががあるけど、どれだけの家庭をぶち壊したことか。

 あのクラスになると逆の意味で法による処罰を越えてる存在の気がしないでもない。そのクラスを年間三人選んで復讐刑を与えるのは絶対否定できないところがあるもの。だってだよ、あの事件にシノブの家族が巻き込まれていたら、法廷で熊倉に一撃ぶっ放してやったよ。

「アカンて」
「そうよ当たらないから巻き添え被害しか出ないもの」

 ノーコンなのが無念だ。