運命の恋(第12話):罰ゲーム

 陽キャグループが好きな遊びに罰ゲームがある。ある種の王様ゲームみたいなものだが、他愛もないゲーム、たとえばババ抜きで負けたら、予め約束されていた行動を強制される遊びだ。

 ボクが知っているのなら好きな異性を教えるもあるが、ああいうゲームはエスカレートしやすく、公開告白をさせられた者も知っている。この程度なら恋の後押しと言えない事もないけど、もっと酷いのもある。

 罰ゲームとして好きでもない異性に告白させられるのもあるのだ。ボクも何度かやられた。あれは公開で告白する方も恥しい思いをするが、もっと嫌な思いをさせられるのは告白された方になる。

 ボクも最初の時は何が自分に起こっているのかわからなかった。ボッチで陰キャのイジメられっ子が突然告白されるのだから。それも教室の中で堂々とだよ。で、どうしたかって大喜びでOKしたよ。そしたら、

『バ~カ、これは罰ゲームだよ』
『そんなこともわからないのか』
『お前なんかと付き合う女がいるとでも思ったか』

 こんな感じで罵倒されてさらし者にされた。だから次の時は断ったんだよ。でも結果は同じだった。

『断るって何様のつもりなんだよ』
『陰キャのクセにエラそうに』
『テメエなんて死んじまえ』

 おそらくだけど、騙されたアホ面を見損ねたので怒りを呼んだぐらいだと思ってる。そう、罰ゲーム告白を受けようが断ろうが、告白された方がロクな目に遭わないってことだ。

 もっと手の込んだのも横目だったが見たことがある。罰ゲーム告白からそれを受け入れるところまでは同じだけど、そのまま交際が始まるパターンだ。ボクもあれは罰ゲームじゃなかったんだと意外に思っていたら一か月後に、

『はい、お疲れさん。これで罰ゲームは終了です』
『やっとこんなブス男から解放される。嬉しい』

 こんな感じで告白された方はバカにされ、騙されたことをさんざん笑い者にされて、晒されるパターンだ。これは告白する方にも罰を与える趣旨だと思う。付き合っている間は、そう言う態度を見せないといけないらしい。

 具体的にはお昼ご飯を一緒に食べたり、帰り道を一緒に帰るとかだ。デートに行った証拠の写真まで残すのもあったりもするそうだ。そうやって嫌な思いをしている告白する方を笑って楽しむぐらいだろう。

 だから、告白する方に選ばれるのも、そのグループの中の下位の者が選ばれることが多い気がしてる。そう罰ゲームは、誰が罰を受けるかの段階からインチキがあるで良いと思う。決してカースト最上位の者は対象者にならないとしか見えない。


 これは聞いただけで見たことがないけど、もっと手の込んだものもあるようだ。罰ゲームの被害者に選ばれるのはボクのような陰キャでボッチが多い。そう、間違っても恋愛対象者にならず、それを嫌でも自覚している連中だ。

 これに対して告白して揶揄うのだが、告白する前に事前運動をやるんだ。好意的な素振りを見せ、なんだかんだと近づき、好意があると思わすぐらいで良いだろう。簡単に言うと口説くのだ。相手が完全に勘違いして夢中になった頃に告白。舞い上がって喜ぶ被害者に、

『なに舞い上がってるのよブス』
『勘違い女もここまで来ると世界遺産級ね』
『家に鏡がないんだろ。それとも怖くて見れないとか』

 寄って集って罵倒し倒すと言うのだ。いきなり告白する罰ゲームと較べて、被害者の騙され方のダメージがより強い残酷なものだと思う。


 今泉がそんな手の込んだ罰ゲームをするような男には見えないが、陽キャ連中の遊び感覚は、陰キャのボクの想像を超えているところがある。もし今泉が罰ゲームで歴研に入ったとしたら話の辻褄が合う部分が多すぎる。

 諏訪さんは罰ゲームのターゲットとしては、悪いけど最適だ。ボッチの陰キャで誰からも恋愛対象にされない。告白する方がイケメンの今泉なのも嵌り過ぎている。そう今泉が諏訪さんにお熱になるのはあり得ないのも誰もが知っている。

 ここも罰ゲームの嫌なところで、諏訪さんが勘違いすれば罰ゲームグループの笑い者にされるだけでなく、クラス全員の嘲笑の対象にもなってしまうのだ。いやそれこそが、罰ゲームの真の目的とも言えるかもしれない。

 陽キャにとって陰キャはそんな存在かもしれないが、その対象が諏訪さんになるのはさすがに腹が立つ。なんとかしたいの思いだけあるが、具体的にどうすれば良いかはサッパリ思いつかなった。

 今泉を直接問い詰めるのはすぐに思いついたが、今だけなら単に歴研の仲間であるだけだし、仲間同士のコミュニケーションだと言われれば、それで終わってしまう。そもそもボクが今泉を問い詰めたところで鼻で嗤われるだけだ。

 それとだが、駅から諏訪さんの家までの間は知らないが、ボクの知っている範囲でとくに積極的に口説こうとしている素振りはないんだよな。さらに言えば諏訪さんの今泉への態度も変わっている様子がない。もっともあの長すぎる前髪と、ドデカイ黒縁瓶底眼鏡で表情はわからない。

 それでも今泉が口説いて、諏訪さんがもし反応していれば、少しぐらいは変化が出るはずだ。ここもだが本当のところは自信がない。そんな微妙な女性の変化をボクが見抜けていないのは十分あり得るものな。


 そんなことを考えていたら、大穴の可能性があるのに気が付いた。今泉の行動をもっと素直に見たらどうなるかだ。ボクの大前提は今泉が諏訪さんを恋愛対象にするはずがないだが、その大前提が、

 ・今泉は諏訪さんに惚れている

 こうなれば話がまったく変わってくる。歴研に入ったのも諏訪さんに近づくためだし、諏訪さんに話しかけるのも好意を示し、距離を詰めようとしているだけの話になる。さらに言えば、あの二人は高校で初めてクラスメイトになったのではなく幼馴染だ。

 幼馴染の幼恋が、年数が経ってから再燃するパターンはこの世にあると聞いている。この辺はボクはオクテだったので知らない世界になるがゼロとは言えない。もし今泉が本気であるなら、ボクは邪魔をしてはいけない。

 でも、でもだよ。あの今泉が諏訪さんを本当に選ぶだろうか。今泉なら選べる相手は、それこそ幾らでもいる。陽キャ仲間の女子だってわんさか湧いて来そうなものだ。悔しいが五十鈴さんだって口説く資格はあるのが今泉だ。

 なにか答えのでないパズルを組み合わせている気分だが、悪い方のケースになれば諏訪さんが可哀想すぎる。なんとか出来ないものだろうか。友だちの少ないと言うか、殆どいないボクがこんな相談を出来るのは・・・