運命の恋(第11話):時季外れの新入会員

 文化祭の準備を除けば歴研の活動はルーズ。とりあえず月・水・金は活動日になってるが、出席義務があるわけでなく、火曜や木曜でも気が向けば図書室に通っているぐらい。活動と言っても机で好きな本を読むだけだし。

 ボクは月・水・金の活動日だけ出席して後は道場通い。これも正確じゃないな。月・・水・金は道場の稽古が遅れて始まり、遅く終わる日になっている。香取代表に、

「三年生の引退はいつなのですか?」

 こう聞いたら、

「卒業したらいなくなるだけ」

 まあ在籍しても、していなくても実質と言うか、実態として変わらないのはわかる。ちなみに香取代表が先輩たちを送った時は、

「卒業式の前の日にお茶して帰ったわ」

 そんな歴研に、時季外れの新入会員が入ってきた。ボクと同じクラスの今泉健太郎。仲間からはイマケンと呼ばれてるやつだ。単にケンタロウでも良さそうなものだが、これは高橋賢太郎が同じクラスにいるため。

 話したことはないが、クラスの中心にいる陽キャグループの一人。中学ではテニスをやっていたそうで、なかなかのイケメンと認めざるを得ない。憧れている女子多数って噂だ。悔しいがスポーツが出来て、イケメンで、成績も優秀の三拍子がそろっている。

 陽キャと陰キャは対立関係によくとらえられるが、これも実相は少し違う。まあ陰キャ連中は陽キャを避けるし、陽キャも陰キャとは積極的に関わろうとはしないのはある。これは陰キャが避けるから自然にそうなってるとも言える。

 今泉は陰キャをイジッたりはしない。むしろそういうのを嫌がるし、それだけでなく止めに入るタイプに見える。平たく言えばイイやつだ。なにかあればクラスで孤立している陰キャ連中の事を気にかけてくれるぐらいだからな。

 それは良いのだが何故に歴研かはある。陽キャ連中の放課後の過ごし方は、部活がある連中は部活に行くのだが、そうでない連中は教室に居残ってダベっていたり、帰りにカラオケやゲームセンターに行くとか、どこかでお茶したり、さらに合コンまでしてると聞いたことがある。

 いわゆる青春を謳歌してるで良いと思うが、なぜに歴研かは不思議過ぎる。歴研は暗い。香取代表はまだしも、ボクも諏訪さんも陰キャだ。暗いオーラ漂う歴研に陽キャの典型みたいな今泉が今さら入会するかな。今泉は入会の挨拶で、

「今度入らせてもうた今泉健太郎です。みんなイマケンと呼んでな」

 なにか場違い的な明るさを感じてしまった。場違いなのはそれだけじゃない。歴研の日常活動は静かに本を読むだけなのだが、今泉はしきり話しかけてくる。新入会員なのでコミュニケーションを取ろうとするのはわかるが、陰キャのボクや諏訪さんにとっては読書を邪魔されてちょっと迷惑だ。

 さらに不思議ってわけではないが、今泉は陽キャグループから抜けたわけではない、相変わらず楽しそうにつるんでいる。それなのにキッチリと活動日には参加してくる。それだけでなく、

「な~んや、火曜と木曜もやっとったんや。それやったら、教えてえな」

 そこも顔を出すようになった。歴研の日常活動はルーズだから、活動日に誰も集まらない時もあれば、逆にそうでない日に集まったりするのだが、今泉は妙に熱心に参加してくる。

 今泉の入会はボクの行動パターンを少し変えた。今泉も電車通学で上り利用なのだ。今までは駅で香取代表と別れたら、諏訪さんと二人になっていたのだが、そこに今泉が加わるようになったってこと。

 そうなるのは必然だが、今泉はしゃべるしゃべる。しゃべると言っても陽キャが普通に話しているだけだが、陰キャにとっては言葉の洪水みたいなもの。諏訪さんはボクと話す時でも口がすこぶる重い。今泉が加わっても変わらないのだが、とにかく今泉がしゃべるから、ボクと諏訪さんが話す余地がなくなってしまった。

 とにかく今泉が独演会の様にしゃべるので、あれこれわかった事がある。諏訪さんと今泉は同じ中学なだけではなく小学校も同じのようだ。家も近所の様で降りる駅も同じ。駅からは諏訪さんの家まで今泉が送っているで良さそう。

 そうなると諏訪さんは駅から家までも今泉のおしゃべりに付き合わされている事になる。ご愁傷さまだと思ったよ。それと、それだけ近いところで暮らしているので幼馴染で良さそうだ。

 幼馴染同士が高校でクラスメイトになり、同じ同好会の仲間だから話をしたって悪いとは言えないが、それでもがあり過ぎる。言うまでもなくクラスの立ち位置が違い過ぎる。典型的陽キャ男とそれと対極の陰キャ女の組み合わせが不自然過ぎるんだよ。

 陰キャ同士もなかなかつるまないが、陽キャと陰キャがつるむなんてあり得る事じゃない。それもだぞ、こんなちっぽけな歴研にわざわざ入会してまで陽キャが陰キャと話がしたいなんて理解を超える。


 これはボクの気にしすぎかもしれないが、今泉が歴研に参加するのは諏訪さんが出席した日だけではないかと思い出した。同じクラスにいるのだから、ボクや諏訪さんが歴研に出席するかどうかはわかるし、今泉は開けっぴろげに、

「諏訪さんや氷室君は今日は出る?」

 ボクにも声をかけるが、これはついでで諏訪さんの出席を確認してる気がしてきた。歴研の出席はとにかくルーズだから、諏訪さんだって参加しない日はある。そういう時には今泉は出てこない。この辺は諏訪さんが欠席する日の方が珍しいから穿ち過ぎかもしれないけど、そう思い出したら気になって仕方がない。


 今泉は優等生だけあって歴史知識もそこそこあるが、間違っても歴史オタクではない。本も読むだろうが読書家には見えない。つまり歴研に入る資格云々は言い過ぎとしても、入る理由がないんだよな。

 どこに入ろうが自由とは言え、歴研なんて入ったところで価値のあるところではない。むしろボクと諏訪さんがいるから陰キャの仲間と見られるデメリットさえあるところだ。この辺は考えるまでもないが、今泉は歴研の活動目当てに入会しているはずがない。

 そうなると他の目的を持って入会している事になる。よくあるのは、歴研の誰かとお近づきになりたいだ。だが歴研は今泉も含めてもたったの四人。ボッチのボクと友だちになりたいなんて考えられない。

 消去法で香取代表か諏訪さん目当てになるが、今泉の入会後の態度や行動から諏訪さんと考えられる。だがすべての推理や推測はそこで停止する。いくら幼馴染であっても諏訪さんだけはありえない。

 とはいえ今泉が歴研に邪悪な意図、たとえば潰してしまおうなんて考えで入っているとも思えない。そんな素振りもないし、わざわざこんなドが付くマイナーな歴研に手を出される理由も思いつかない。

 とにかく今泉の意図が気になって仕方がない。たった四人しかいないから、今泉の言動や行動が嫌でも目に入るが、出てくる答えは諏訪さんを目標にしているとしか見えない。それだけじゃなく、ボクと諏訪さんの間に割って入ろうとしている感じさえある。

 さすがにそれは考え過ぎだと思うが、諏訪さんを中心に考えると、そう見えてしまう部分は否定しきれなくなる。歴研は小さいとはいえボクの大事な居場所だし、諏訪さんは校内で唯一のお友達。これを邪魔されるのは防ぎたい。

 あれこれ考えあぐねた末に、嫌なことが頭に浮かんできた。この問題のポイントを単純化すると、

 ・今泉は諏訪さんへの接近を行っている
 ・今泉が諏訪さんを恋愛対象にするのはあり得ない

 強引として良いほどの諏訪さんへの接近が恋愛目的でないとすれば、この二つの矛盾した今泉の行動を説明出来るものがあるんだよ。それは、

『罰ゲーム』

 これなら今泉の不可解な行動が全部説明出来てしまえるじゃないか。嫌な事を思い出したものだ。まさかこの歴研を舞台にそんなことが行われるとは。