大坂なおみ事件

 大坂選手の記者会見拒否宣言は賛否両論を巻き起こしています。プロであれば興行を盛り上げる役割があるとする意見も強かったですが、大坂選手の意見を支持するものもいます。うつ病の件はとりあえず置いておきますし、大坂選手が政治的な発言をされている事もあえて置いておきます。

 私の見解はプロとして興行を盛り上げるために記者会見をするべしです。プロ興行が成立するには、その種目が人気を集めなければなりません。つうか人気を集め続けるのがプロ興行のキモであり、すべてだからです。人気が集まれば収入も増え、選手への配当も多くなるのが興行です。逆は言うまでもありません。

 プロの興行ではスターは重宝されます。なぜ重宝されるかですが、必ずしもその選手の実力を評価している訳ではありません。スター選手として注目されることで観客が集まり、視聴権などを高く売る事ができるからです。

 身も蓋もない言い方ですが、良い成績を収めれば多額の賞金を手にすることが出来ますが、その代わりに興行の客寄せパンダとして働くことも同時に要求されているからです。そういう関係がプロ興行を成立させています。

 プロ興行が強いばっかりで人気のない選手ばかりでは成立しません。ここの人気とはベビー・フェースとは違います。ヒールであってもノー・プロブレムなのです。善玉であろうと悪玉であろうと人気が集まるのがプロ選手として求められることです。

 プロ興行においてスター選手の存在がどれほど重視されるかです。たとえばある欧米人気種目に日本人が活躍するとします。これが有力選手程度で、数も1人か2人程度なら歓迎されます。立ち位置は脇役のイロモノぐらいです。

 これが日本人選手が強くなって上位独占なんて事になれば排除のベクトルが速やかに起こります。これを人種問題と結びつけると話が複雑になりますが、純興行的に言えば日本人選手がいくら活躍しても観客や視聴者にそっぽを向かれるからです。

 覚えておられる方も多いと思いますが、日本人選手に不利なルール改定がドラステックに行われます。あれは興行として客を呼べない日本人選手が不要だからです。そう日本人選手では客を呼べるスターとして相応しくないの判断です。

 日本だって他人のことは言えません。わかりやすいのなら相撲です。外国人力士は異国の地で頑張っていると見られているうちはスター選手として重宝されますが、外国人力士が上位を席巻し優勝を独り占めしだすと排除のベクトルが働いています。

 異論もあるかと思いますが、相撲興行は典型的なスター・システムで、強い日本人スター関取が中心にいる必要があるとの判断です。とにかく商売ですからね。


 ですが大坂選手の意見も支持します。プロとして記者会見に臨むのは必要であっても、そこで何をされても良いとは間違っても思わないからです。大坂選手が記者会見を拒否したのは、記者会見などしたくないのワガママではなく、

    あんな記者会見はゴメンだ!
 この意思の表れだと考えています。欧米での記者会見の実態、また大坂選手にどんな質問をしたかは知る由もありませんが、日本の記者会見風景はあれが社会人かというぐらい程度の低い物がしばしば見られます。あまりにも無礼、不躾、傲岸てやつです。

 日本の記者の取材の常套手段にわざと相手を怒らせて本音を引き出すがあります。怒らすためには無礼、不躾、傲岸なんて当たり前で、外野から見ていると記者の態度に、

    あんた何様!

 こう感じざるを得ない者が多々あります。言ったら悪いですが被取材者を怒らせてこそ成功と確信している記者が多すぎるように感じてなりません。ですから大坂選手の事件の本質は、

    マナーのある記者会見
 これだと考えています。言っちゃ悪いですが、たかがテニス選手への記者会見です。疑惑まみれの政治家への記者会見ではありません。聞くのは試合内容、プレーの機微、感想などが中心のはずです。つうか記事を読む側が欲しい情報もそれだけです。

 そうですね。高校野球の記者会見ぐらいの慇懃さはあって良いと思います。あれだって全貌を知っている訳ではありませんが、まさかアマの高校生をわざわざ怒らせる取材を行っていると思えませんから。

 そういう記者会見であれば忌避しないと言うか、それさえ忌避すればプロ興行への参加者とは言えないと思います。それも嫌ならアマやっとれです。

 既製マスコミの問題点はネット時代になって暴露されていますが、それに対する反応は極めて乏しいと見ています。従来の手法は金科玉条であり、神聖不可侵としているとしか感じません。変えなければならないのは、取材する側の記者の意識だと考えています。

 大坂選手の場合はその他の諸々が付随していますから話が迷走しやすいですが、スター選手への記者会見はマスコミ側もメシのタネです。そう大元はwin-winなのです。そうですね、かつて情報を独占し、取材してやったからあの選手をスターにした、あの種目を興行として成立させてやったの意識が濃すぎる気がしています。

 時代は変わっています。かつての取材する側の立場が圧倒的に強い時代は終わりを告げつつあると考えています。そういう意味で興味深い事件でした。