恵梨香の幸せ:恵梨香の煩悩

 帰りの飛行機でも話は続いた。康太は六道の上にさらに世界があるとしてた。六道は欲界に属していて、その上に色界、さらにその上に無色界があるそう。六道は欲界に属しているんだけど、このうちで天上道からのみ色界さらには無色界に行けるそう。

 人は六道と三界を巡り歩くそうだけど、仏教的には無色界が最高で、無色界のさらに最高のところが有頂天だって。有頂天の語源がそんなところにあるって初めて知ったよ。でも無色界ってつまらなそうなところなのよね。

 とにかく宗教は人間の欲望を否定しがるって康太は言ってた。とくに淫欲は敵視するって。でもさぁ、淫欲がなければ子どもは出来ないし、子どもが出来なきゃ人類は滅亡しちゃうじゃない。

 無色界の下の色界だって、淫欲の位置づけは清らかな恋みたいな感じじゃない。中坊じゃあるまいにって思っちゃうよ。無色界になると淫欲も無くなっちゃうのよ。マンションに帰ってからも康太と話してんだけど。

「あははは、だから人は三界と六道を巡り歩くのじゃないかな」

 恵梨香もそう思う。だってさ、つまんないじゃない。人はね、欲望を持ってこそ楽しいのよ。仏教的価値観は言い切ってしまえば、欲望が薄い人ほど良い世界に住むとなってるのよね。無色界になると物質さえ存在しなくなって受想行識って呼ぶ心の働きしかなくなっちゃてるのよ。

「欲望の薄さによるヒエラルキーみたいなものだね。無欲の人間が住む世界が理想郷みたいな感じかな」

 だけどね、三界にしろ六道にしろステップ・アップによる一方通行じゃなく、人は移り歩くってなってるのよ。だから無色界の有頂天まで行っても、また欲界の六道に戻ることもあるのよね。

「久米の仙人みたいなものかな」

 久米の仙人は神通力を得て空を飛べたそうだけど、久米川で洗濯していた女の白い脛を見て神通力を失って墜落したってなってるのよね。ここでだけど、久米の仙人の神通力は淫欲を断つことによって得たで良いと思う。

 ところが女の白い脛に淫欲を感じた途端に神通力を失ったで良いと思う。女から見れば失礼な話だよ。でもね、久米の仙人はその女を妻にしてるのよ。再び淫欲を断って神通力を得るより、妻と淫欲を楽しむ方を選んでるの。


 康太は笑いながら現実的な話をしてくれたけど、大昔で衣食住が満たされた人間的な暮らしをしていたのは貴族階級だけだろうって。これを人間道とすると、庶民は修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道で暮らしているイメージかな。

 天上道に住むのは僧侶だろうって。僧侶は貴族の屋敷さえ凌ぐ大伽藍に住み、衣食住は保証され、地位も名誉もあったぐらいかな。

「ここも見ようだけど大昔は貴族階級からじゃないと僧侶になれなかったんだ」

 貴族と僧侶の差は色々あるけど、やはり淫欲の抑制は確実にある。今は僧侶の妻帯なんて宗派にもよるけど珍しくもないけど、昔の仏教は妻帯なんて論外だったはず。つまり僧侶は地位と名誉と富はあっても、女への欲望は禁じられてたのよね。

「色界や無色界に行くには天上道からになるけど・・・・」

 僧侶もヒエラルキーがあるけど、そのトップ階級が無色界だろうって。でもね、やはり男だから女が欲しいじゃない。それを満たすためには僧侶の身分を捨てなきゃならないじゃない。捨てて女を選ぶとそこは欲界の六道世界になるぐらいかな。

「まあな。仏教の理想世界は全員が坊主になるような物だものな」

 そんな世界が楽しいとか、喜ばしいと感じる人間は限られてるよ。恵梨香に言わせると変人とか変態だよ。だってだよ異性を見てもなんにも感じないのが理想の世界だもの。仏教思想に輪廻転生はあるうけど、あれって無色界まで行った人間が、その世界に懲りて次は欲界を目指すのもあると思ってる。

 それと無色界だけど、ここも理想世界の一つみたいだけど、極楽とはちょっと違うで良さそう。極楽も阿弥陀如来が作った阿弥陀浄土と、薬師如来が作った浄瑠璃浄土があるけど、概念的には似たようなもの。

 ここへの行き方論も色々あるけど、とりあえず置いとく。極楽とはこの世の苦が一切なく、楽のみが存在するところなってる。だから楽を極めるから極楽で良いはず。ただね失礼も良いところだと思うけど、極楽には女はそのまま行けないのよ。

 仏教が成立した時にはそもそも行けないとなってて、あれこれ理屈を捻くり倒した末に、転女成男とか変成男子言って男に生まれ変わって、やっとこさ行かしてくれるってさ。要は性転換しないとお断りなんだよ。あほらし。

 そこまで女を嫌がったのはやはり極楽は浄土であるからだろ。浄土に女は不要で、極楽の描写は宗派で変わる部分もあるけど、女はいないのよ。そう、男ばっかりの世界。女がいるとしても、元女の性転換男子だけ。恵梨香に言わせるとホモ天国じゃない。

「仏教が生まれたインドは女性蔑視が強い世界だし、インドじゃなくとも昔は男尊女卑は強かったからな」

 極楽は楽しか無い世界となってるけど、女がいないからエッチは存在しないことになる。男同士でホモに耽ってるかどうかは誰も知らないけど気色悪い世界だよ。

 それはともかく極楽に行くにしろ、無色界を目指すにしろ基本は煩悩を断つこと。ここも極楽に行くのは、阿弥陀さんなり薬師如来さんに煩悩除去光線みたいなものを浴びせられるで良さそうで、一方の無色界は個人の努力で行くぐらいかな。そうそう六道の人間界から仏教に出会って仏になるのも個人の努力。

 その煩悩だけど山ほどあるわけで、除夜の鐘の百八も煩悩の数の一つ。煩悩はまず大きく分けて貪欲、瞋恚、愚痴が三大煩悩だそうだけど、貪欲のうちでとくに強いのを五欲としてる。

・食欲
・財欲
・色欲
・名誉欲
・睡眠欲

 恵梨香は全部あるし捨てようとも思わない。美味しい物は食べたいし、おカネはあって困るものじゃないし、康太と燃えまくりたいし、人には良く思われたいし、寝不足はお肌に良くないし。これを全部無くさないと行けない極楽が楽しいとは思えないじゃない。

「そうだね、食欲と色欲の無い世界じゃ、ボクと恵梨香の楽しみがなくなるものね」

 五欲だって他人に迷惑をかけなきゃ良いじゃないの。恵梨香の住む世界は欲界で満足よ。食欲も色欲も極めてやるんだ。康太と美味しい物を食べたって誰も迷惑する訳じゃないし、康太と、どんなに燃え上がろうが夫婦だから何の遠慮もいらないよ。

「恵梨香の今の極楽は?」
「康太とのベッドの上」

 そりゃ浄土じゃないけど、あれこそ極楽だもの。あれ以上の極楽がこの世にあるものか。恵梨香の極楽はピンクに染まってるの。でもちょっと不安が、

「康太は満足してくれてる?」
「満足してなきゃ、恵梨香をあれだけ求めないよ」

 恵梨香もそう。毎晩だってウエルカム。夢は恵梨香の極楽が果てしなく続くこと。家に着いてから、

「ところで康太は、恵梨香がどうなれば本当に満足してくれる」

 康太はニッコリ笑って、

「満足したらダメだと思うんだ。満足と思ってしまえば退屈になる。恵梨香の可能性は無限だと思ってるし、無限の恵梨香をさらに満足させて行くのがボクの願いだよ」
「じゃあ、もっとがあるの」
「ああ、あると思ってる。お互い浄土には行けないね」

 康太が恵梨香を愛してくれる時にそう感じる。今の恵梨香の反応に満足しつつも、恵梨香を次にどうしようかを常に見ている感じがあるのよ。そう、もっともっと高いところに恵梨香を連れて行こうしてる。

「どうして恵梨香だったの」
「またぁ、誰が恵梨香を選んだと思ってるんだよ」

 康太が恵梨香の後ろに回ってくる。康太の好きな姿勢だよ。康太の左腕が恵梨香を抱きかかえるようにして立たせるんだ。そこから恵梨香を振り向かせて熱すぎる口づけ。それだけで恵梨香は体に力が入らなくなっちゃうのよ。

 それとパジャマ越しでも雄々しい康太を背中に感じちゃうんだよ。そうされるのが恵梨香が弱いって知り抜かれてるのよね。でも今夜はダメだって、朝もあれだけ恵梨香を堪能させてくれたんだから、たまには休まないと。

「ホントに休みたい?」

 だからダメだって。恵梨香は康太の体が心配なの。康太がスタンバイOKなのは恵梨香の背中が教えてくれるけど、たまには休養日を取らないと康太だって若くないじゃない。あえて休みを取らせるのも、妻である恵梨香の務めだよ。

 だから右手の指をそこに動かしたらダメだって。もうブラも付けてないからダイレクトだよ。そこは弱いんだから、そっちもだよ、そこも、そこも・・・・・・ああん、そこだけは、そこだけは絶対ダメ。恵梨香もOKなのがバレちゃったじゃない。

 あれっ、なんてこと、恵梨香の体はどうなってるの。今までと全然違う。たった、これだけで、恵梨香は、まさか、まさか、いやまさかじゃない。これは、いくらなんでも止めなきゃ、我慢しなくちゃ。でも止まらないよ、我慢なんてできないよ。康太が耳元で、

「恵梨香、愛してるよ」

 ダメェェェ・・・蕩けた。ウソでしょ、ウソでしょ、でも康太の指は止まらない、ヤバイよ次がもう来ちゃうよ。これ以上は、いくら恵梨香でも恥しすぎるじゃない、

「康太、ちょっと待って!」

 遅かった、さっきより大きく蕩けた。ヤバイもう次がそこまで来てる・・・・・・こんなものどうしようもないじゃない。ああダメ、このままじゃ、ウンと言うまで蕩けさせ続けられる。声が止められない、

「ダメェェェ」

 さっきよりさらに大きいのが蕩けた。次が、次が、いくらでも押し寄せてくる。それも、どんどん大きくなってる。もう膝がガクガクで立ってられない。恵梨香は新たな段階に確実に進んでる。康太は恵梨香にこうなって欲しかったの?

「恵梨香はまた可愛くなったよ」

 恵梨香は康太の期待を裏切ってない。康太になって欲しい女にまたなったんだ。嬉しい。でもこれで康太が入ってきたら・・・・・・もう素直になろう。今夜も欲しかったんだ。どんな世界でも恵梨香は康太となら怖くない。

「さあ、行こうか」
「うん」

 色欲最高、恵梨香の煩悩極楽世界に突撃。さすがに明日の朝はないよね。あっても、もちろん受けるけど。どうせ目覚めた時にはフルコースが待ってるだけだし。