ミサトの旅:平田先輩とチサト先輩

 西宮学院二年のミサトだよ。去年は本当に大変な一年になり、家は全焼するわ、三億円の賠償裁判で破滅の淵まで追い込まれたりしたんだよ。コトリさんが助けてくれて、起死回生の逆転打を放ってくれたけど、進級試験は助けてくれなかった。当たり前か。

 前期試験も麻吹先生の特訓地獄で危なかったけど、後期試験はもっとやばかった。追試受けまくりで泣く泣くでクリア。ようやく二年に進級できた。追試対策には北斗星の先輩だけでなく、他の写真サークルの人も助けてくれたんだ。

 「写真サークルの救世主を留年させるわけにはいかんからな」

 新学期が始まったけど、フォト・サークル北斗星の最初の活動は新入会員の勧誘。去年まではとにかく苦戦してたみたいで、

 「とにかく十六個も写真サークルがあるから・・・」

 北斗星を作った加茂先輩、ケイコ先輩、ヒサヨ先輩は単なる写真好きの素人。要するにレベルも素人並ってこと。そういう写真サークルがあっても良いけど横並びがズラズラ。一昨年は三人しかいないのもネックだったみたいで、

 「サークルで友だちを作りたいぐらいの人でも、人数の多いところに流れちゃうでしょ」

 部活と違ってサークルに入る人の目的は様々。写真サークルでも、写真をある程度本気で上達したい人、写真をもうちょっと緩く楽しみたい人、写真に関係なくサークルで友だちを作りたい人ぐらいは確実にいる。

 とくに友だちを作りたいのは、この三種のタイプで共通して大きな部分を占めるから、小さいところは不利になるんだって。あんまり大きいところもどうかとは思うけど、たったの三人では敬遠されるぐらいかな。

 「そのうえ上達に関しては期待ゼロでしょ」

 よくまあ、そんなところに平田先輩は入ったものよね。

 「まあ、色々あったんだけど・・・」

 平田先輩はギャンブル好きで良さそう。麻雀もするけどパチンコも競馬もやるし、競輪やボートレースも好きで良さそう。ただしお世辞にも強いと言えないなのよね。たしかに写真サークル対抗親善麻雀大会で優勝してるけど、あれだって奇跡の一発が当たっただけ。

 とくに麻雀が好きみたいだけど、これも学生同士でやってる分には良かったみたい。麻雀って点数をやり取りゲームだそうだけど、賭ける時はルーレットならチップみたいな点棒を使うんだって。その最小単位が、

 「テンイチ言うて百点が一円やから親の役満振り込んでも四百八十円や」

 親の役満てのが、たぶん一番大きい負けみたいだから、それで負けても五百円足らずってことみたい。この程度なら負けても大したことないぐらいかな。ギャンブルって運も大きいから、入学した五月ぐらいに連戦連勝状態になったらしいのよね。調子に乗った平田先輩は雀荘に挑戦したんだって。

 「あいつらバイニンやったはずや・・・」

 コテンパンにされて、

 「ダブル・ハコテンを三発喰らった」

 ハコテンってゲームが始まる時の持ち点で二万五千点らしいけど、ダブル・ハコテンはその二倍だから五万点以上、それが三回だから十五万点以上かな。

 「オレはテンゴのつもりやったから、八千円ぐらいと思って万札出したら・・・」

 テンゴって百点あたり五円だそう。

 「デカピンやって言いだしたんや」

 デカピンって一点一円のことらしいけど、そうなれば十五万円以上になるし、そんなおカネ持ってるはずもなく立ち往生。平田先輩は隙を見つけて雀荘から逃げ出したそうなのよ。でも相手も追っかけて来て、

 「何を考えたのか、平田君はうちに逃げ込んできたのよ」

 うわぁ、こりゃ修羅場だよ。実際に修羅場になったそうだけど、

 「白木さんに助けを求めにケイコが走ったの」

 白木さんは近所の派出所のお巡りさん。独身でまだ若いけど気の優しい人。住んでいるのは喫茶北斗星の裏ぐらいにあるハイツなんだよね。近いせいか、喫茶北斗星にモーニングやランチを良く食べに来る常連さん。ミサトも何度か会ったことがある。

 その日は非番だったみたいで、喫茶北斗星でコーヒーを飲んで帰った後だったんだって。平田先輩が追い込まれてる状況なら警察呼んでも良かったようなものだけど、平田先輩が学生らしいとわかって、事を大きくしないためにケイコ先輩は白木さんを選んだみたい。

 白木さんはケイコ先輩の話を聞いて了解してくれて、すぐに駆けつけて来てくれたのだけど、その時には平田先輩は喫茶北斗星から拉致される寸前まで行ってたらしい。

 「白木さんが仲裁に入ったから平田君も助かったぐらいだよ」

 白木さんも私服だったから、最初は邪険に追い払われそうになったみたいだけど、お巡りさんだとわかって状況は一変。

 「賭けマージャンは違法だからね」

 賭博は法律で禁止されてるのだけど、それなりにお目こぼしの範囲はあるで良さそう。例えは悪いけど、ミサトだって友だちと賭けをして負けた方が缶ジュース一本奢るぐらいするものね。あれだって厳密には賭博になるらしいけど、そこまでは取り締まらないぐらいかな。

 賭け麻雀も平田先輩が学生同士でやってた百点が一円程度のものに警察も目くじら立てないそうだけど、デカピンとなるとお目こぼしの範囲を超えた完全な違法。今度は追っかけて来た連中が一目散に逃げ出したぐらいの展開。

 白木さんは平田先輩にコンコンと説教をして、二度と手を出さないと約束させたらしいのだけど、

 「それから平田君はうちに良く来るようになって、聞いてみたら写真も好きって言うから入ってもらった」

 こりゃ、大変な経緯だわ。平田先輩にとって命は大げさにしても大恩人だから、ケイコ先輩には頭が上がらない感じ。それ以前に慕ってる感じもあるよね。

 「チサト先輩は」

 チサト先輩は、まさにお嬢様って感じの人。身のこなしも優雅だし、話し方だって上品。端っこと言ってもさすがは三井の御令嬢って感じだもの。

 新田先生を思わすところがある人って言えばイイのかな。もっとも新田先生にまでなると、日本にも貴族階級があるかと思わせるぐらいになっちゃうから、もっと親しみやすい人。

 「チサトは小学校の頃にイジメに遭ってね」

 そのために少林寺拳法の道場に通いだしたんだって。

 「それって」
 「そういうこと。ケイコのお爺さんがやってる道場」

 ケイコ先輩も少林寺拳法やってたけど、そういう理由だったのか。少林寺拳法ってイメージしにくいのだけどカンフーみたいなものだよね。少林寺ってカンフーの総本山みたいなところだし。

 「少林寺の流れは汲んでるけど、中国の少林拳とはまったく別として良いわ。それとね、あんまり強くないの。同じ段位なら空手の方がずっと強いもの」

 少林寺拳法は第二次大戦後に成立したらしくて、出来た頃から精神の修養に重きを置いたぐらいかな。練習も演武が中心のところが多いらしくて、実戦空手なんかとは方向性が違うみたい。それでも素人相手なら十分通用するのは宗像に襲われた時に知ってる。

 それはともかくケイコ先輩とチサト先輩は兄弟弟子、女だから姉妹弟子って言うかもしれないけど、

 「その縁で北斗星に」
 「最後はね」

 というのも、ケイコ先輩とチサト先輩は小学校の校区も違い、ケイコ先輩は公立の中学、高校と進学したけど、チサト先輩は中学から海星。つまりは離れ離れ、中学になってからは会ったことがなかったんだって。

 チサト先輩は大学に入って最初はマンガ研究会に入ったそうなんだ。そのためかイラストは上手。でもマンガ研をやめて北斗星に移ってるけど、

 「チサトは小学校の頃にイジメに遭ったでしょう。それがどこかでトラウマになってる部分があるのよ」

 ケイコ先輩が言うには、ちょっとでもイジメられそうな気配を感じると過剰に反応してしまうことがあるんだって。

 「マンガ研も大きいでしょう。色んな先輩がいて」
 「トラブったのですか」

 男同士でもあるとは思うけど、女同士ってすぐにマウンティングをしたがる人は多い気がする。チサト先輩は端っこでも三井だし、イラストの才能もあったから絡まれたそう。

 「ケイコもマンガが好きだから、マンガ研の今の大木代表とは仲が良くて、よく遊びに行ってたの。行ってマンガ読んでただけどけどさ。そんな時に大喧嘩が起ったのよ」

 チサト先輩がマンガ研の先輩たちと大立ち回りになったって。

 「チサトは五人ぐらいを相手にしてたけど、もう部屋の中は大変な状態だったんだ」

 チサト先輩は有段者、相手は数こそいても素人。当身を喰らったり、投げ飛ばされたのもいたみたい。そこにケイコ先輩は仲裁に入ってチサト先輩を取り押さえたんだって。

 「この後が大変で、事を丸く収めるために、ケイコも走り回ったよ」

 この辺がケイコ先輩の人の好さというか、世話好きなところで、部外者なのに相手の親御さんのところまで頭を下げて回ったんだって。

 「チサト先輩だったから」
 「それがね、七年ぶりの再会じゃない。お互い忘れてて・・・」

 途中で思い出したそうで、

 「うちに誘ったら入ってくれた」

 これって新入会員の勧誘ってレベルの話じゃないよね。