目指せ! 写真甲子園:セカンド審査会

 ファースト審査会は農園風景だったから、セカンド審査会は街の風景になると思ってたら、やはり旭川だった。テーマは、

 『瞬間』

 さらにモノクロ限定で、撮影場所は旭山動物園。そのうえ天気は生憎の曇り空。今にも降りだしそう。それとファースト審査会では小刻みに撮影場所を移動したけど、今度はバッチリ二時間同じ場所。

 動物園で『瞬間』となると、動物の動きをどこも狙う作戦に出るのは当然だし、エミたちだってもちろん狙う。来園したお客さんからも狙いたいけど、顔出ししてもらおうと思えば予め了解を取らないといけないし、そこから撮るのは難しそう。こっちも狙うけどね。

 「すり合わせのための時間は取るの?」

 ファースト審査会の時は三十分の移動時間があったから、そこで作戦を練れたけど、今回はぶっ続け。集まる時間を取れば撮影時間が減るから、

 「取らずに写真に集中しよう」

 後は誰がどう撮るかだけ、撮るのはあくまでも組み写真。ここは賭けに出たいと思うの。

 「動物園で瞬間となれば躍動的な写真の組み合わせにどこもなると思うのよ」
 「そうだろうな。より決定的な写真の撮影合戦になるだろうけど」
 「そうした上で、あえてメヌエットで作り上げる」

 さすがの野川君も、

 「ちょっと冒険すぎないか」
 「いや保険でもあるの」

 決定的瞬間を撮れるかどうかは、はっきり言って運次第。とにかく動物相手だから、同じ動物相手に二時間粘っても撮れない時は撮れないのよね。アカネさんに聞いたことあるけど、オフォス加納でも弟子の修業段階にあるぐらいだそう。

 アカネさんなんて開園時間から閉園時間まで粘っただけじゃなく、休園の日まで頼み込んで撮ったそうなのよ。それぐらい動物相手は甘くないと見て良いと思うのよ。

 「なるほど。メヌエットにして組み合わせで確実に点を拾って、もし良いのが撮れたらプラス・アルファにするのだね」

 セカンド審査会で頑張ってくれたのはミサトさん。この日のミサトさんの写真はまさに神懸りだった気がする。セレクト会議で見せられて驚いたもの。そうなるとエミの組み合わせが大きなカギを握ることになる。いかにミサトさんの写真を活かすか、

 「野川君、それじゃ、ダメ。もっと抑えたの」
 「それじゃない、それじゃ抑え過ぎ、リズムが合わない」
 「違う、違う」

 またまた二時間フルタイム使い切り、

 「これで行く」

 公開審査会でも、

 『全体としては静かな基調だが、その中にこれだけの瞬間を取り込んだ構成は素晴らしい』

 ブロック審査会から見てるんだけど、ブロック審査会の時より決勝大会の方が写真の組み合わせがイマイチのところが多い気がする。今日の講評だって、

 『この写真は素晴らしいが、他の写真との組み合わせを考えたのか』
 『たしかに瞬間を集めたものだが、それだけの写真だ』

 やはり評価が高いのは組み合わせの妙を凝らしたところ。麻吹先生にも聞いたのだけど、

 「これが写真甲子園さ。写真部と言っても、本来は個人競技だ。日頃の練習は個人の技量のレベルアップしか行わない」

 言われてみれば、

 「目標だって、コンクールや写真展の入選になる。勢い、出てくる選手も写真部の中の一番上手な奴が三人選ばれることが多くなる。だがな、上手い奴ほど個性が強い。写真甲子園に向かってトレーニングもするだろうが、しょせんは付け焼刃だ」

 これも見ているとわかるもの。『1+1+1=3』になってないところが多いのよね。個々の写真は良くても、まとまると落ちるぐらいかな。そういえば、麻吹先生が就任以来、個人でのコンクールへの応募はゼロだもの。もっとも、部の降格問題もあったからだけど。

 「ブロック審査会の作品は製作期間が長いからまだ誤魔化せるだろうが、決勝大会となると条件がまったく違う。そこが出来るところが上位に来るのさ。お前らにもどこが上位かわかるだろう」

 なんとなくだけど。

 「それにしても今日の作戦は素晴らしかったぞ。あのテーマなら決定的瞬間を誰もが狙うだろうが、そちらに集中してしまうと組み合わせがお留守になりやすいのだ。そこがあのテーマの狙いとも言える」

 だからどこもあれだけ苦戦を、

 「それを最初から組み合わせに重点を置いた発想を褒めておく。それが出来るのがうちの強みだがな。ここに今日の尾崎の写真を取りこめれば文句の付けようがない」

 講評もそんな感じだった。それにしても勝負の機微に詳しいな。

 「そりゃ、そうだ。オフィスのプロ連中はみんなこれで泣いて写真甲子園に出れなかったのさ。わたしもそうだったしな。だから、そこを徹底的に鍛えておいた」

 加えて写真甲子園は特殊すぎる競技だって。いくら団体戦の能力を高めても、その後の写真人生にさしてプラスになるものじゃないとも言ってた。だよねぇ、団体戦の世界大会とかプロがある訳じゃないものね。

 そこにあの加工の制限の厳しさ。実質的にカメラで撮ったそのままの画像しか使えないのよね。今日のテーマもそうだけど、たった二時間で八枚の優れた写真を撮るだけでも厳し過ぎるものになってるから、どうしたって三人の協力が必要になるものね。

 今日もそうだけど、頻繁に作戦会議を行ってたところは撮影時間が短くなって苦労してたし、とにかく二時間撮りまくったところはセレクト会議で悪戦苦闘になってたものね。結果を見ればわかるけど、バラバラ過ぎて八枚の作品になれなかったぐらいでイイと思う。


 そうそう陸奥高校の雰囲気はちょっと暗いかな。昨日も今日もかなり講評で指摘されたもの。あそこもうちと同じで初出場だから、緊張もあるだろうし、大会の雰囲気に呑まれた部分もあるのかもしれないね。

 そしたらね、麻吹先生は陸奥高校の指導もやりだしたんだよ。いくら頼まれたからって人が良すぎる気がちょっとした。だってまだ大会中じゃない。やるならファイナル審査会が終わってからにしたらと思ったけど、

 「これも写真甲子園だよ。勝負は勝負だが、切磋琢磨して一緒に上を目指そうとする場でもあるのだ」

 指導された陸奥高校の生徒が嬉しそう。そりゃ、世界の麻吹つばさの直接指導だもの。それもいつものようにあるだけの写真を根こそぎだよ。もっとも、うちでやる時よりかなり甘いけど、きっと一生の思い出になると思う。

 「お前らも是非見てもらえ」

 これは陸奥高校の監督が尻込みしちゃった。そりゃ、あの麻吹先生の前で指導するとなれば誰だって怖いもの。でも強引にやらされて、

 「先生、さっきの指導だけど・・・」

 あは、指導のやり方まで指導してるのよ。でも麻吹先生楽しそう。頼まれればサインまでしてるものね。

 「いよいよ明日で最後だ。ここまではまずまずだが、まだ一日ある。少しでも油断すればすぐに追い落とされる」
 「勝負は下駄を履くまでわからないってことですね」
 「そうだ。下駄を履いても油断するな。勝ち切ると言うのは、そこまで頑張った者に与えられる」

 よし、もう一日。ここまで来たんだ。今までの集大成を見せてやる。