怪鳥騒動記:鳥さんの動向

 どうも鳥はアルゼンチンとブラジルをベースに動いているで良さそう。両国の間にあるウルグアイ、パラグアイ、ボリビアはつまみ食いってところ。

    「ウルグアイの牛も美味しいらしいけど、パラグアイは豆かな。ボリビアはなんだろう」
    「チリにも時々行ってますね」
    「やっぱりサケが目当てやろ。時々、魚が食いたくなるんちゃうか」
    「では前にキューバに行ったのは?」
    「そりゃ、甘いもんが欲しなったんちゃうか」

 軍隊による抵抗もほとんどなくなったみたいで、

    「メキシコ、ブラジル、アルゼンチンが手もなくやられたから、無駄って悟ったんちゃうか」

 キューバの時は国を挙げての攻撃も行われたんだけど、結果は同じ。その結果だけど、

    「人は襲わんようになったな」
    「ええ、食い物ばっかり」

 どうもディスカルの戦略兵器としての機能みたいで、攻撃さえしなければ食う事に専念するみたい。

    「やっぱり人はあんまり美味しないんやろか」
    「痩せてますしね」

 南米諸国の惨状は酷いもので、鳥から直接の人への襲撃こそなくなったものの、食事の度にゴッソリ食糧が無くなり、これを援助しようにも輸送船ごと襲われる状態で手も足も出ないんだよね。

    「ゴッツイ数の難民がアメリカに向こうてるな」

 自分の国にいたって食べ物がないので、まだ南北大陸で襲われていないアメリカに、アメリカにと押し寄せてるものね。

    「あんだけ難民が通るもんやから、まだ襲われてへん、中南米諸国の食い物も乏しなってるわ」

 治安も当然のように悪化して、無政府状態になっている国も出て来てるんだよね。

    「そういや、キューバに来てた時にアメリカはやる気やったみたいやな」
    「やはりそう見ますか」
 キューバとアメリカの因縁は二十世紀以来だから、鳥退治を口実にキューバを核攻撃で叩く案がかなり検討されてたらしい。ところがだよ、キューバでたらふくサトウキビを食べた後に鳥の行方が分からなくったんだよね。

 そりゃ世界中が緊張したんだ・ついに中南米からどこかに移動したんだろうって。行くとしたら太平洋に出てオーストラリア方面か、大西洋を渡ってアフリカ、さらにヨーロッパも可能性があるなんて話が飛び交ってたもんね。

    「あれもビックリしたで」
    「アメリカも不意打ちだったみたいです」

 鳥は大西洋を北上してたんだ。それでもって、いきなりワシントンDCを襲撃したんだよ。ピンポイントでペンタゴンを握りつぶしたもんだから、アメリカも面子に懸けて攻撃したんだけど、

    「ほとんど当たらんかったらしいで」
    「ミサイル誘導装置が役に立たないですからね」

 それだけじゃなくて、鳥には逃げる時の奥の手があって、

    「メンドクサイって思たんかもしれんけど、いきなりザップーンやったみたいやな」

 つまり海に潜っちゃんだよね。ジェット戦闘機じゃ、海に潜られたらお手上げで、あわてて対潜哨戒機を飛ばしたみたいだけど、悠々と南米に帰還。

    「まあ公式発表では、
    『怪鳥のワシントンDC侵入を許したことは遺憾だが、帰路を追撃、かなりの打撃を与え撃退に成功した』
    こうなってるけどね」
    「あれは鳥からアメリカへの警告でしょうね」
    「それ以外に考えられんわ」

 そういえば前の国際怪鳥会議で、

    『怪鳥との平和的共存』

 これを主張したのがいたんよね。こちらから攻撃しなければエサやって飼おうぐらいの趣旨かな。でもだよ、あのサイズだから飼うといっても、南米ぐらい広さが必要だし、エサの量がとにかく莫大。失笑されて終わってた。

    「このまま南米に居つくのでしょうか」
    「そろそろ動くかもしれん。ボチボチ食い物も乏しなって来てるはずやし」

 食い物が乏しくなっているのは人間の方もそうで、日本でもスーパーに行っても陳列棚が相当寂しくなってるものね。それでも、まだ行けば買えるけど、

    「国会でも配給にするかどうかもめとるで」

 しても良さそうなものだけど、国会統制による配給は必ず地下マーケットが出来て横流しが横行するんだって。

    「そらそうやろ。お百姓さんかって、国家に安く売るより、ブローカーが高く買うならそっちに売るやろ」

 第二次大戦後の日本も、まさにそうだったって言うものね。どこかの独裁国家でさえそうだというもの。だったら農家の方を取り締まったらどうかの意見も出て来るけど

    「そんなんしたら、誰も真面目に作らんようになるだけや」

 でも村松総理はやる気だよ。元は野党側からの提案だったけど、村松総理が巧妙にそれに乗っちゃったから、なんでも反対の野党さえ賛成しにくい状況になってるみたい。地下マーケット対策として打ち出しているのが、

    『高く買って安く売る』

 さらに強制的な買い上げはしないとしてるんだ。平たく言うと国営会社がマーケットに参加して高値で買い集め配給する方針にしてる。

    「問題は財源やろ」

 歳入は世界的な大不況で落ち込んでるものね。だから村松総理は鳥対策で膨れ上がってる軍事費をバッサリ削るとしてる。これも一部野党が反対しにくいものだけど、

    「よく思い切りましたね」
    「エランのガトリング砲でも通用しなかったと知って割り切ったんやろ」

 目標はマーケットの三割程度を確保して、低収入層を中心に配給する計画で良さそう。

    「すんなりいかんやろけどな」
 そうみたいで、ここのところ、村松総理が打ち出している配給計画で国会も、マスコミも喧々諤々やってるよ。


 エレギオン・グループの経営も苦しくなってる。そりゃ、南米市場が壊滅状態で、世界的にも食糧危機がヒシヒシ迫ってる状態で商売にならないもの。どこの家庭も多かれ少なかれ食糧の買いだめをやってるよ。これは日本以外でもそう。核シェルターみたいな地下室作ってやってるのもいれば、せめて押入れとかに積み上げてるのもいる。

 カネの流れが食糧を始めとする、各種サバイバル・グッズにしか流れないからエレギオン・グループだけでなく、どこの会社も青息吐息。あれだって、いくら備蓄したって、鳥なら襲うし、一旦居着かれたら、食い尽くすまでいるから半分ぐらいは無駄なんだけどね。

 そうそうヨーロッパに避難するのも増えてる。今のところ、どう鳥が回っても、順番的にかなり後になりそうぐらいかな。たしかに鳥そのものの脅威はヨーロッパでは薄いんだけど、食糧危機は世界共通。どこに逃げても変わらないかも。

    「たまにはローマに行ってくれないかな」
    「そうなれば、しれっと聖ルチア教会の大司教でもやりよるで」
 ユダでもなんとかなると思えないのが鳥だものね。せめて日本に来なければイイけど。