怪鳥騒動記:怪鳥チーム

 ここは首相官邸にある会議室。怪鳥チームによる対策会議中です。

    「・・・これまでの情報から、現在ブラジルにいる怪鳥ですが、次はアルゼンチンに移動する公算が高いと見て良いかと考えます。既にアルゼンチンにも侵入している情報もあります」
    「鳥には国境はないからな」

 とりあえずの焦点は鳥がどこに動くかです。

    「南米諸国を潰して回る見方もあるが、再び北上して米本土を目指す見方も残っておる」
    「米大陸に執着があるとの見方もありましたが」
    「アテにはならんだろう。オーストラリアやアフリカを目指す見方もある。オーストラリアでも厳戒態勢に入っておる」

 ここはいくら議論を重ねても、とにかく相手は鳥。どこに飛んでいくかは鳥次第としか言いようがありません。

    「日本に来る公算は」
    「仮に南米からオーストラリアに移動したとしても、次は東南アジアからインド方面ではないかと」
    「中国方面に転じる可能性は」

 やはり鳥次第以上の結論が出ません。ここで井出委員長代行が、

    「鳥が来ない事を期待はするが、それをアテにしてはならない。ここで考えるのは来た時にどうするかだ。早田陸幕長、どうなのだ」
    「はい、メキシコ軍およびブラジル軍との戦闘記録を検討しましたが、容易ならない相手です」
    「はっきり言ったらどうなんだ。刃が立たないと。もっとも米軍でさえやられっぱなしだったが」

 ここで、

    「ところで平山博士、ブラジル行の件は中止となった。全空港は閉鎖になり、アルゼンチンからの陸路も大渋滞で移動は無理だ」
    「そうですか」

 ここで村松総理が登場、

    「遅くなって申し訳ない。会議はどこまで進んだかね・・・」

 説明を受けて、

    「平山博士、なにか新しい情報はないかね」
    「あります」

 会議室にちょっとしたざわめきが。

    「あの鳥は地球のものではありません」
    「なんと。ではどこの鳥かね」
    「エランです」

 ざわめく会議室。

    「証拠はあるのかね」
    「あります。しかし現段階でソースを申しあげることが出来ません」
    「我々にもかね」
    「はい」

 少し不快そうな村松総理でしたが、

    「まあいい。ではエランの鳥ならなにか対策があるのかね」
    「はい、エランの鳥なら宇宙船のデータベースを調べれば弱点がわかる可能性があります」
    「エランの宇宙船・・・」

 少し考えた村松総理は、

    「岩本君。あれは自衛隊管理だったはずだが」
    「え、ええ、ただ未だに開くことは出来ていません」
    「未だにとはあれから何年だね。つまりは開かないということか」
    「は、はい」
    「目途は?」
    「まったく」

 村松総理はウンザリするように、

    「平山博士、君のエランの鳥説はおもしろいが、調べようがないぞ」
    「そこなのですが・・・」
    「エレギオンHDの科技研なら開く可能性があるというのか」
    「可能性だけです」

 村松総理は少し考えた後に、

    「鳥対策は諸君もよくわかっておるように、正直なところお手上げ状態だ。せいぜい日本に来ない様に祈るぐらいしか手が残っていない体たらくだ。だからこそ、あらゆる可能性を追求せねばならない。平山博士がいうようにエランの鳥の可能性があるのなら、それは追及しておくべきだ」

 静まり返る会議室。

    「自衛隊がデータベースを開けず、科技研なら開く可能性があるのなら、そう手配したまえ」
    「待ってください総理。あれは自衛隊管理であって、民間に管理を移動することは・・・」
    「では開けたまえ。あれから三十八年だぞ。さっきも目途が立たないと言ったばかりだ」
    「それはそうですが、管理問題が・・・」
    「ここは何をしている会議なのだ。自衛隊の備品管理を検討しておる会議ではない。鳥対策を検討している会議だ。総理であり、この会議の委員長である村松が決めたことに、これ以上の異議があるのかね」

 夜になり平山博士は村松総理の会食に呼ばれ、

    「これは聞き流してくれたまえ。君はエレギオンの女神に関わったのだな」
    「えっ、あの、その」
    「答えんでも良い。女神が判断を誤った事は一度もない。だから口にしたことは必ず実行するし、逆らう者は決して許さない。我々政治家にとっては恐怖の存在だよ。岡川先生なんて二度も失禁どころか脱糞までさせられておるぐらいだからな。中田先生もそうだったと聞いておる」
    「・・・」
    「怖い女神ではあるが、必ず恵みをもたらす。エラン宇宙船事件で女神が日本に、いや地球にいなければどうなっていたかは想像するのも怖いぐらいだ。あの事件だけでも我々政治家は一生頭が上がらないよ」

 村松総理は盃を傾けながら、

    「女神が動くなら、我々の仕事はそれを邪魔しない事に尽きるで良いであろう。女神に関わった君にもだ」
    「総理・・・」
    「任せたぞ。人が出来ることは検討し尽くした。結論は君の知っての通りだ。我々の手に負える相手ではないのだ。可能性があるとすれば女神が動く時のみだ。データベース解読の指揮は君が執りたまえ。我々はその指揮に入る。これでも日本が滅びれば、もうどうしようもない」

 村松総理は苦笑いしながら、

    「それにしても君が羨ましい。女神の愛を受ける者は男の中の漢とも聞く。思い通りにやってくれたまえ。責任はこの村松がすべて取る」
    「御期待に沿うように頑張ります」
    「うむ」

 それから総理はため息をつきながら、

    「最後は神頼みとはまさにこの事だよ」