アカネ奮戦記:市長

    「そろそろ市長も飽きたな・・・」

 七選を目指した前市長に、

    『停滞打破』
    『市政改革』
 これを掲げて挑戦し、三十歳の異例の若さで当選しています。それから十五年、四期目に突入しています。
市長になって二年目に転機が訪れます。映画のロケ地になり、その映画が大ヒットを記録します。映画に描かれた印象的な古い街並みを見ようと観光客が増えたのです。

 市長はこれをチャンスと見ました。これを活かして観光都市化を目指さそうでした。しかし、市の財政に余裕はまったくなく、観光都市化に予算を割けば他の予算が圧迫されます。ここは観光に赤壁市の将来を託すべきだの市長の主張に、

    「社会福祉予算を削って市民を殺す気か」
    「教育予算を削って子どもの将来を閉ざす気か」
    「当地区の公民館建て替えは十年来の悲願だ」
    「この補助金で・・・」

 削られる予算には市議の利権がびっしり貼り付いており、議会は市長の方針に反対。それならば商工会議所の協力を得ようとしても、

    「どうせ一過性のブーム。投資する方がバカを見る」
    「それは市の仕事」

 そこで市長はブームへの便乗を狙う市外の業者を引き入れます。

    「あれが正解だった」

 市長は市外の業者を引き込むにあたって、ある種の利権を与える政策を行います。特定範囲の独占権与える代わりに、観光への大きな投資を約束させたのです。初期に参入した業者は市長の期待に良く応え、一過性のブームから定着化に成功したのです。

    「物事は流れが出来るとラクなものだ」

 観光赤壁の名前が広がるにつれて、今度は売込みにくる業者が増えて行きます。市長は次々に利権を設定して参入させます。その頃には地元業者も投資に動こうとしましたが、

    「あははは、今さらだ。あんな田舎者にさせると馬鹿みるだけだ」
 表向きは競争入札にしましたが、巧妙な設定により地元業者を排除していったのです。もちろん裏もあり、市長は利権を与える代わりに市長への裏金の還流ルートを構築していきました。

 豊富な政治資金を得た市長は市議会の市長派の多数派形成にも成功。赤壁市の絶対権力者として君臨することになります。市の予算を自由に使えるようになった市長は赤壁市の観光都市化をさらに大規模に展開することになります。

 地味な地方都市を観光都市化させた市長の手腕は高く評価され、各地からの視察団も押し寄せるようになり、

    『地方活性化の旗手』
 こうもてはやされ、県どころか国の諮問委員に招かれたり、テレビ出演であちこちに呼ばれたりも増えて行きました。

 その人気と政治手腕に注目が集まると市長は、次の政治家としてのステップを考えだしています。県知事選に担ぎ出す動きもありましたが、

    「こんな県の知事じゃ役不足だ」

 まだ四十代ですから国政進出を考えています。四期目の出馬の前にも考えたのですが、現職があまりに強く自重しています。その現職ですが、高齢のため次回の総選挙には出馬しないとしています。県連では後継候補の選択に動いていますが、その有力候補に市長の名前も挙がっています。

    「なんとかあの娘婿を叩き落とさないと」

 市長の前に立ち塞がるのは現職の娘婿。市長は公認を得るために、県連の有力者との関係構築に懸命になっています。

    「とにかく政治はカネだ」

 関係構築にも多額の政治資金が必要です。

    「築田は役に立った」
 市長に接触してきたのはシンエー・スタジオの築田光男。その築田が提案したのが観光写真の利権化です。さすがの市長もそんなものまで利権化するのか驚いたのですが、これを認めています。

 観光写真利権自体はたいした額ではないのですが、築田はアイデアマンで、次々に思いもよらない物の利権化を提案したのです。国政進出のためにカネが必要な市長はチリも積もれば山となるとばかりに築田の提案に飛びついていきます。

 築田と市長の関係は深まり、築田は市長のブレイン役に位置することになります。ただ利権化を進め過ぎた反動はあり、観光客が落とすカネの多くの部分が市外に流れる結果を招き、それに対する市民の反発の声も出て来ています。

    「次の総選挙の時期との兼ね合いだな」

 与党の公認工作の方はある程度進み、ほぼ内定に近いところまで漕ぎ着けています。現職の娘婿の方は党の公認が得られなくとも出馬の姿勢を示しているのが頭の痛いところですが、

    「そうなれば、またカネが必要だ。いずれにしてもこの一年ぐらいが勝負だ」

 市長の頭の中には大臣の椅子への計画があれこれ浮かんでいます。十年ぐらい議員の椅子を守れれば大臣の椅子は回って来るだろうし、それまでに与党での地位を築けば総理の椅子だって夢じゃないぐらいです。

    「とにかく今のうちに稼いでおくのが将来のためにも必要だ」

 ただカネは使えばなくなります。赤壁市で営々と築いた政治資金調達ルートの確保も必要です。

    「後継市長はやはり築田だな。あいつも野心家だが、器は小さい。赤壁市長ぐらいが上がりだ。同じ蜜を啜っているから、そういう意味で信用できる」

 市長の計算はドライです。築田を後継市長にしても裏切る可能性は十分に計算しています。

    「築田操縦のためには国会議員になり睨みを利かせることだ」

 もちろん国会議員になればより広範囲からの政治資金調達計画もあれこれ思い描いていますが、

    「国政で影響力を発揮するのもカネだし、そのために地元を金庫にするのは誰でもやってることだ。赤壁はオレの打ち出の小槌みたいなものだ」

 市長は窓から赤壁市街を見下ろしながら、

    「赤壁なんぞ、オレの出世のための踏み台に過ぎん。四百年の怨みを思い知れば良いわ。骨の髄までしゃぶり尽くさせてもらう」