エラン人との会見が終えたユッキー社長は、その足で各国代表団が待ち受ける国際会議場に向かいます。会見の模様は中継されていますが、とにかく話の内容が不明ですから、ユッキー社長の報告を待つしかないのです。ユッキー社長は、
- 二十六年前の宇宙船は侵略意図があったが、エラン政府とは無関係の犯罪者であり、迷惑をかけたことについての謝罪があり、これを受け入れた。
- 現在のエランには深刻な伝染病が蔓延し滅亡の危険性さえある。そのための治療協力要請が、今回の訪問の目的である。
- エランが望むのは地球人の血液で、この提供を了承した。各国の協力を要請する。
伝染病については宇宙船の乗組員からの伝染を懸念する声があがりました。当然出て来るものです。ユッキー社長はどう答えるかと思っていましたが、
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「伝染病であるのは間違いないが、強いて例えるとある種の性病のようなもので、通常の接触で感染する懸念はない。また乗組員たちは感染していないことが確認されている」
血液提供については、量が問題になりました。ただかなりの量であるのは間違いありませんが、地球人口からすると、たいした量でなく、
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「両星の親善のために協力するべきだ」
次の問題は、エラン側への協力をどう具体的に行うかになりました。放っておけばまたぞろ米中露の主導権争いで泥沼化しかねません。ユッキー社長はまず対エラン交渉の窓口の一本化を提案し承認されます。そのうえで、
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「エラン交渉にはエラン語が話せるものが必要であり、引き続いて担当する用意がある」
この機関はエラン協力機構(ECO)と名付けられ、本部は宇宙船がいる神戸に置かれる事も決定しました。ここでユッキー社長は、
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「とりあえず本部として、クレイエール・ビルを提供し、職員についても、当面は弊社が提供します」
建物とスタッフは早急に整える必要があり、この提案は歓迎されました。ジョーカー大統領も、
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「小山全権代表の提案を歓迎する。アメリカも最大限の協力を行う」
夕方の五時から始まった会議は夜明けまで続いたことになります。何度も意見が割れ、持ち越しになりそうな状態になりましたが、ユッキー社長は疲れも見せず粘り強く説得した成果と言えます。まあ、かなりどころでない脅しやすかしもありましたが、交渉とはそんなものです。
会議終了後も各国首脳の表敬訪問が相次ぎ、ユッキー社長もミサキもこれに対応。次々と各国代表団は帰国の途につきます。そんな中でローマ教皇の表敬訪問と、それに引き続きユダとの密談もありました。
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「さすがは首座の女神だな」
「ユダに褒められても皮肉にしか聞こえん」
「そう言うな。私だって地球の危機となれば乗り出すために神戸に来ていたのだ」
「どうだか」
翌々日にはエラン代表と二回目の会見。地球側の協力体制が出来上った事を報告し、エランとの協力体制の細かい点を検討します。とにかく地球側にエラン語が話せる人間が限られているために、
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技術部門担当・・・コトリ副社長
事務部門担当・・・,ミサキ
この上にユッキー社長が立つ組織構成になっています。コトリ社長も副代表に名を連ねています。エラン側の担当者は、
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「あなたもこれほど話せるとは・・・」
エランとの一回目の会見以来、目の回るような仕事が続いているのですが、世間は一大エラン・ブームに沸いています。もう歓迎一色ってところで、定番のエラン饅頭とかエラン煎餅もありましたが、今回はちょっと違う方向にもブームが広がっています。
エラン式美容法、エラン式ダイエット、エラン式エクササイズ、エラン式健康法、エラン式マッサージ・・・たく誰もエランに行った事どころか、エラン人にも会ったことがないはずなのに、まさに百花撩乱状態。これまた結構な人気です。
それどころかエラン式株式投資法とか、エラン式貯蓄法、エラン式勉強法みたいなものまで現れ、エラン式競馬必勝法まであるのはさすがに苦笑しました。なんでも頭にエランを付ければ人々は飛びつくみたいな感じです。
ファッションにも影響がありまして、エラン人の服装を真似るの大人気になっています。正直なところ、地球人とは文明と常識が違いますからどうかと思っているのですが、エラン風と名付けただけで飛ぶような売れ行きです。そうそうエラン風ヘアスタイルってのも街を席巻しています。
各国代表が去った後も、神戸には宇宙船を一目見ようと押し寄せる観光客の大群が押し寄せています。そりゃ、エラン式の総元締めみたいなものですからね。空港使用問題もあったのですが、
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『宇宙船がいる方が経済効果が遥かに高い』
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「ミサキちゃん、バッチリ儲けてるから心配ないで」
やっぱりやってました。暴落した株式市場から証券の買い取り、自粛不況や海外での世情不安で下落していた資産をゴッソリ買い集めており、これがトンデモない資産価値に膨れ上がっています。あれだけ儲かってるなら、エランへの協力費用なんて微々たるものです。
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「うちはエラン・ブームに乗らないのですか」
「ああいうチャラチャラしたものには乗らん」
「そうよ、女神の矜持があるもの」
だ か ら、さっそく買い込んだエラン風ビールとエラン風チップスをつまみながら、エラン風グラスで飲んでたら説得力がないって。
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「あれミサキちゃん、そのブローチは?」
「ネオ・エラン風だそうです」
「コトリ、買わなきゃ」
「ネオが出たとは不意打ちやった」
ミサキも他人のことを言えません。そりゃ、あれだけ街にエラン風が溢れてたら買いたくなるじゃないですか。エラン風チーズをつまみながら、
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「ユッキー社長、なにかおつまみがありますか」
「あるわよ、ちょっと待ってて」
あれ、裂きイカだけど、
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「エラン風裂きイカだって」
「へぇぇ、なんかエランの味がする」
「ホントですね」
ECOの仕事が猛烈に忙しいのですが、三人ともいつの間に買い込んでいることやたら。そういえば、エラン風豆腐が売り切れになったのは惜しかった。代わりにエラン風厚揚げを買って来てるから、
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「エラン風厚揚げのエラン焼き作ります」
「それやったら、コトリも鶏のエラン揚作るわ」
「だったらエラン風醤油と特製エラン風ソースを・・・」