コトリちゃんの仮説部分もあるけど浦島伝説は、
- 丹波の国宰として派遣されていた伊預部馬養が丹後の伝承として聞いたもの
- 馬養は六八九年に撰善言司に選ばれた時に教訓的な説話としてまとめ上げた
- 馬養の浦島本は貴族の教育テキストとしてかなり広範囲に使われた
- 馬養の浦島本と丹後国風土記逸文は内容が近いはず
これぐらいに考えて良さそう。
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「でもねシオリちゃん、丹後国風土記逸文は馬養の浦島本のそのまま引き写しではないと思てるねん。それは逸文の方を読み下すと、
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『是、舊宰の伊預部馬養連が記す所と相乖れたること無し』
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こうなってるやんか。これも見方考えようやけど、風土記書く時に既に有名やった馬養の浦島伝説を取り上げようとしたと思てるねん。それでもう一遍調べてみたら、ほぼ同じやったってとも読めるやんか」
「じゃあ、丹後国風土記逸文の方がより丹後の伝承に近いかもってこと」
「どれが正しいかわからへんけど、馬養の浦島本と別系統の話も入ってると思うねん。そやから、筒川嶼子と水江浦島子は同一人物ってしてるんやと思う」
「そっか当時の丹後の伝承は水江浦島子じゃなくて筒川嶼子が主人公だったかもね」
なんかワクワクしてきた。丹後国逸文にはなにが書いてあるのだろう。まずは書き出しだけど、
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『嶼子獨乘小船汎出海中爲釣。經三日三夜不得一魚。乃得五色龜。心思奇異。置于船中。即寐。忽爲婦人。其容美麗更不可比』
日本書紀と同様に漁に出て亀を捕まえたら絶世の美女に変わってる話になってる。
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「ここからもオモロイんやけど、
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『嶼子問曰。人宅遥遠。海庭人乏。詎人忽來。女娘微咲。對曰風流之士獨汎蒼海。不勝近談。就風雲來』
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その女やけど『就風雲來』つまり雲に乗って飛んで来たって言うてるねん。さらにやけど
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『嶼子復問曰。風雲何處來。女娘答曰。天上仙家之人也』
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どこから雲に乗って飛んできたと聞かれた女は『天上仙家』って答えてるんよ」
あれっ、竜宮城はどうなったの、
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「それはやな、
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『女娘曰。君冝廻棹赴于蓬山。嶼子従往。女娘教令眠目。即不意之間。至海中博大之嶋。其地如玉敷。闕臺晻映。樓堂玲瓏。目所不見。耳所不聞』
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蓬山は蓬莱山でエエと思てるけど、女は蓬莱山に漕いで行けって言うとるねん」
「たどり着いたのが『海中博大之嶋』で海の中の竜宮城ってことね」
「コトリは違うと考えてる」
海中を海の中と解釈するのはオカシイって言うのよ。
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「だってやな海中が海の中やったら、
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『嶼子獨乘小船汎出海中爲釣』
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『嶼子語竪子等事。女娘曰。其七竪子者昴星也。其八竪子者畢星也』
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ここは御殿に着いた時の描写けど、おった子どもが昴星と畢星の化身ってしてるやんか」
なるほど、女は天上仙家から雲に乗って来てるし、子どもが星の化身なら海の中に御殿があるのはおかしいかも。
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「それと御殿に着いた時に女の両親が歓迎してくれてるんやけど、
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『于斯稱説人間仙都之別。談議人神偶曾之嘉』
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ここはたぶんぐらいで悪いけど、人の住むところと仙人の住むところの違いの説明と、人と神が巡り合えて嬉しいぐらいになると思うねん」
大歓迎されてるのはわるわね。
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「ここはポイントかもしれへんけど御殿に行くときに、
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『女娘教令眠目。即不意之間』
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要は、浦島は女に眠らされて、気が付いたら御殿に来てたってなってるのよねぇ」
オリジナルの浦島伝説は現代のものと相当違っているのがわかるわ。女は雲に乗って天空から舞い降りてるし、竜宮城に行くのだって舟で眠らせてる間に到着してるじゃないの。
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「コトリは浦島が海の中の竜宮城へも、蓬莱山の近くの大きな島にも行ってないって考えてるんや」
「じゃあ、浦島はどこへ行ったの」
「女は天上仙家から雲に乗って来た言うてるんよ」
そう書いてあった、
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「浦島が着いた御殿には娘の両親とか姉妹みたいなのがおるんよ」
そうとも書いてある。
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「それやったら浦島が行ったのは女の家である天上仙家しかあらへんやん」
そうなるよね。
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「それもやで、日本からその御殿まで行くのに眠らされとってんで」
「見ようによっては誘拐拉致みたいなものね」
「さすがはシオリちゃんやエエとこ見てる」