そこからはミサキは夜叉になった。クリスチャンに夜叉はおかしいけど、他に適当なのが思いつかいから、それでイイことにする。服と靴が見つかったのはラッキー。なけりゃ裸足に浴衣で戦わなきゃいけなかったし。第四の門からの戦いは、もう問答無用のものになった。門に着けば、
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「エレギオンの三座の女神が成敗に参った。覚悟しろ」
七つ目の門を突破し洞窟を潜り抜けると見えてきたのが、イヤ~な雰囲気がプンプン漂う建物。あれが冥界の宮殿で良さそう、つまりは最終目的地。とにかく着かないと始まらないから近づいて行ったら、やっぱり出てきた、これが半端じゃなく強そう。
手下も五十人ばかりいるんだけど、たぶんラス前のナンバー・ツーぐらいじゃないかと思う。ミサキの方も七つの門で、そこにいた冥界の神を根こそぎって感じで泡にしてきたから、さすがに肩で息してる。
広場の真ん中で取り囲まれて、ワッて言う感じで一斉に襲ってきやがった。ミサキが疲れてる分を差し引いても、この連中はかなり強い。第三の門のガチレズ・レイプ集団の時みたいに一斉に泡になってくれないの。それなりに組みあって、
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「死にやがれ」
これぐらいの気合をかけないと泡になってくれいのよ。それでも一人だったらイイのだけど相手は集団。ミサキが一人と組み合ってる間に、まとわりついて来やがるんだ。そいつらはミサキを押し倒そうとしているだけじゃなく、服も引きちぎろうとするんだよ。倒されたらまずいから踏ん張ってたんだけど、
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「ありゃ」
ついに倒されて馬乗り状態に。もうミサキは必死。馬乗りにされるのは屈辱だけど、乗ってくれれば組みやすいから、
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「クタバレ」
それでも次から次に乗ってくるし、手や足は抑えにかかられるから、なにがなにやらわからない状態がしばらく続き、ふと気が付くと最後の準ボスみたいなのが一人。気力を振り絞って、
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「クタバリやがれ」
宮殿前広場の乱闘でミサキは、体は冥界の神が溶けた泡でずぶ濡れ、髪なんて振り乱してるどころじゃなかった。服の方は結局のところイナンナ状態。冥界の神の戦い方も変質的で、掟か何か知らないけど、執拗なぐらいミサキの服を狙うのよね。それこそところ構わず服をつかんで、
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『ビリッ』
それでもここまで来た。最後はあの宮殿だけ。扉を開けて入ったところはホールみたいだけど。いたのは椅子に座ってるのが一人だけ、こいつこそラスボスのナルメルのはず。
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「お前がナルメルか」
男も当然のように神。陰険そうな笑いを浮かべながら、
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「ここまで来るとはな」
「来たものはしょうがないでしょ。でナルメルなの」
「ここに来るまでに仕上がってると思っていたが、これほどとはな」
仕上がるってなんなのよ。
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「でもそこまでだ」
「どういうこと」
「ここは冥界だ、地上世界とは違う。生きた神はここで過ごすだけで変わる」
薄ら笑いを浮かべながら、
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「エレギオンの三座の女神とか名乗ってたようだが、冥界は過ごすだけで軛が掛けられる」
「それってエレシュキガルの軛」
「良く知ってるな。一度かかると二度と外せない。お前は二度と冥界から出ることはない」
「でも、出ていった神がいたぞ。お前もそうではないのか」
男は高笑いし、
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「今の冥界の支配者はオレだ。オレは冥界の神を外に連れ出すことが可能だ」
なるほど、その力で冥界の神を支配したってことか、
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「その代りオレの下僕だ。忠実な下僕だ。お前も下僕になるしか他に道は無い」
「お前を倒せば」
「お前は冥界の支配者になるかもしれんが、二度と冥界から出ることはない」
「えっ」
「お前は地上に帰りたくないのか。旦那や娘、息子たちに会いたくないのか。冥界でそれが出来るのはオレだけだ」
マルコ、サラ、ケイ、会いたい。そしたら追い討ちのような言葉が襲ってきた。
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「お前は騙されてるのだ。エレギオンHDの社長も副社長も、オレを封じたいだけだ。オレを倒し封じれば目的は達成できるからな」
「社長も、副社長もそんな人ではない」
「どうかな。ではなぜ、自分たちで来ない、なぜお前だけを送り込んで地上に留まっておる」
そ、それはなぜだろう。
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「エレシュキガルの復活の秘術は二つ。一つはイナンナにドゥムジが行ったもの。だがそれをやるには身代わりがいる。社長や副社長が身代りになると思っているのか」
やってくれると言いたいけど、死者復活の秘術も知らないって言ってたっけ、
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「もう一つはエンキドゥに対して行われたもの。ただあれでは完全な復活は出来ない。そもそも、あの秘術は既に失われている」
それも聞いてる。
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「地上界に帰りたければ、オレに跪き、下僕になるしかない」
エレシュキガルの軛は
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『すべてを見つけ、
すべてを捕え、
すべてを冥界に繋ぎとめる』
その力は社長や副社長の力さえ遠く及ばないとしてた。ミサキは帰れないの。ミサキはエレシュキガルの軛に捕らわれたまま、ずっと冥界で過ごさないといけないの。この男の言葉を言い返せない。
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「それとお前がオレの下僕になれば、同盟の代表にしてやろう」
「アレクサンドラは誰だったの」
「ニンフルサグだ。あれだけの神でさえ、地上に出るためにオレに跪いた」
「ギルマンを殺したのは」
「エンキドゥだ」
それとだよ、こいつを倒したとしても、今度はずっと冥界のままかもしれない。冥界がどれほど辛い場所かは、ニンフルサグやエンキドゥでさえナルメルの下僕になってしまったことだけでも十分わかるもの。
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「何を迷っておる。お前に他の道は無いのだ」
こんな世界で永遠に暮らすのはイヤだ。地上界に帰りたい。それにしても地上界の同盟代表にいきなりってのは、条件が良すぎる気がするけど、
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「下僕になるには?」
「まず冥界の掟に従ってもらう」
「靴は脱いでるぞ」
「服も脱ぐのだ」
「服ってこんだけだぞ」
「それも脱げ」
まあ、ほとんど裸みたいな状態だけど、
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「それでわたしは同盟の地上界の代表になれるのか」
「それだけはなれない。お前が同盟の代表になるのはニンフルサグが果たしてきた役割も課せられる」
「役割? それはなんだ」
「簡単なことだ、オレの愛人になり、神聖娼婦となることだ」
やはりこいつも冥界の神か。まったくどいつもこいつも、
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「さあ脱げ、そして跪け」
屈辱極まりない条件だけど、冥界から出れるのはたしかに超が付く魅力的。こんな短期間しかいないミサキですらそう思うんだから、ニンフルサグが屈した気持ちがわかる気がする。
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「ニンフルサグは屈したのか」
「ああ、それはもう懸命になってたよ。神聖娼婦だって精魂込めてやっていた」
「神聖娼婦とはなんだ」
「冥界での意味は、神々の娼婦となり、オレが欲しいもののために人の娼婦も勤める事だ」
「それをニンフルサグが・・・」
「大喜びだった」
でもそのためには、ナムメルの愛人になり神聖娼婦にならなければならない。そこまでの屈辱に耐え抜かないといけないなんて。でも、それを耐え抜かないとマルコにも、サラにも、ケイにも二度と会えない。そうなると選ぶ道は一つしかない。ミサキの心は決まったわ。
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「わかったわ」
「それは良い分別だ」
「イイもの見せてあげる」
そういうと残骸のように最後まで腰のあたりにまとわりついていた服を脱ぎ捨てた。
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「素晴らしい、ニンフルサグさえしのぐ」
「それはありがとう。これは、わたしの決心を示したもの」
「良い心がけだ、では跪け」
「これはわたしの心が揺らいでしまった事への自戒のしるし。あなたへの冥土の土産よ」
「どういう意味だ」
「わたしは冥界の女王になるわ」
「待て、考え直せ、二度と冥界から出られなくなるのだぞ」
「わたしはエレギオンの女神。エレギオンの女神は必要とあれば、いつでも命を差し出す。たかが冥界に留まる程度の事を怖れるはずもない」
それとナルメルにすべてを見せたのは、最後の戦いに気合を入れるため。それぐらい疲れてる。我ながら下策と思うけど、疲れ切った自分を鞭打つために羞恥を使ったの。ミサキの裸を見て良い男はマルコだけ、そのミサキの裸を見た男を許してなるものかの闘志を極限にまで燃え上がらせるために、あえてすべてを晒したの。
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「死ね、ナルメル」
「待て、きっと後悔するぞ。二度と冥界から出られないんだぞ」