流星セレナーデ:彗星接近

 いよいよ彗星は接近し、地球への衝突は不可避との予測が濃くなっています。国会でも連日彗星問題が審議され、政府も担当大臣を任命したり、特別対策室を作ったりしていますが、事実上のお手上げ。先日の国会審議でも総理が、

    「後は日本から遠くの海に衝突してくれるように神頼み」
 こう口をすべらしてしまい、総理の責任追及問題の方に熱中している始末です。総理の気持ちもわからないでもありません。全国民を安全に避難させる方法なんてあるわけありませんし。

 今日は例の料亭での密談。メンバーは四女神と佐竹本部長。この料亭も大繁盛してまして予約を取るのが大変でした。メンバーなんですがユッキー体制に移行した時に佐竹本部長を入れるかどうかはミサキはどうかと思ったのですがユッキー社長は、

    「女神の男だから資格はあるよ。マルコも入れてもイイぐらいだけど、マルコは日本語苦手だし、佐竹本部長はイタリア語が苦手だから外してる」

 コトリ副社長はもっとあからさまで、

    「女ばっかりやったらツマランやん」

 ごもっともです。

    「ユッキー、あの彗星やけどちょっと変やと思わへん」
    「コトリもそう思う?」

 どういうことか聞くと、尾を引きすぎてるんじゃないかってお話です。

    「そうなると」
    「可能性あると思うねん」

 これじゃわかりにくいのですが、彗星が宇宙船だとしてもなんらかのトラブルを起こしている可能性です。

    「でも、ああいう尾を引く構造って可能性は?」
    「そこを言いだすとキリがなくなるし、母星の宇宙船を見たことがあるのがユダだけだからあくまでも推測よ」
    「そやねん。ユダでさえ、母星の宇宙船を飛んでるところを見たことがあるかどうか怪しいしな」

 母星のテクノロジーは地球が原始時代と思われるぐらい発達しているで良さそうですが、宇宙開発熱はユダが知っている一万年前でも冷めていたようです。宇宙船の製造技術は保存されているとユダは言っていましたが、宇宙旅行も含めて細かなノウハウは失われている部分がある可能性はあります。

    「仮に故障してたら何が期待できますか」
    「故障の程度によるけど、運が良ければ地球を外れて宇宙の塵になる」

 ここでコトリ副社長が、

    「でもそれは甘そうに思うよ。もう地球への照準はバッチリみたいやから、地球に衝突するのは避けられへんと思うのよ」
    「えっ、着陸じゃなくて衝突」
    「故障してたらやけど。制御が利かんようになって衝突はありえる」

 それはそれで被害が出そう。ユッキー社長は、

    「色んな可能性はあるけど、母星に帰れなくなるかも」
    「そうなったら救援を呼ぶとか」
    「そこがわかんないのよねぇ。そもそも母星と通信できているかどうかもわかんないし」

 コトリ副社長が、

    「これも推測やで。あの宇宙船やけど、起きてる奴がいて操縦してるかどうかも疑問に思てるねん」
    「どういうことですか?」
    「テクノロジーが進んだら、大概の事は人よりコンピュターの方が優れるようになると思うねん」

 そういえば囲碁でも将棋でも人はコンピューターに勝てなくなってるものね。

    「それといくらテクノロジーが進んでも人がメシ食ったり、息吸ったりするのは制御できへんやんか」
    「そっか、生身の人を乗せてると生命維持装置が大がかりになっちゃうんですよね」
    「そういうこと、コールドスリープだって場所とるやん」
    「だったらやっぱり片道用の流刑船」

 ユッキー社長とコトリ副社長が顔を見合わせて、

    「ユッキーは決闘ショーの録画船の仮説立てとったけど、いくらテクノロジーが発達しても流刑囚を追っかけるのは大変やと思うんよ」
    「それはコトリに同意。意識を追っかける技術があったとしても、それは禁断の技術になってるはずなのよ」

 なるほど、母星では意識を分離し記憶を継承できるのはごく一部の指導者層だけで、この指導者層の動きを察知できる技術は封じられると考えるのが妥当だわ。

    「今のところで言えば、とにかく来てみないとわからへんのよね。宇宙飛んでるうちは地球の技術でも神の力でもどうしようもあらへんねん」

 たしかに、

    「あの宇宙船だって何万人もの流刑囚が乗ってるって前提で話を考えてるけど、単なる観測船かもしれへんやん」
    「そうなのよねぇ、仮に乗っていても無事着陸なり、降下できるかはこれかの問題だし。その連中が以前の神のように殺し合うかどうかも不明なのよ」

 コトリ副社長はビールを片手に、

    「実はなぁ、全然違うこと考えててん。一万年ってやっぱり長いやんか。ユダが覚えてる時代がそのまま続いてるかどうかも疑問やと思わへんか」
    「どういうことですか」
    「一万年前にかなり大規模なクーデター騒ぎがあったのは信じても良いと思うし、それが失敗したのも事実やと思ってる。でもな、母星の政府はそういうクーデター騒ぎが起り得る素地があったとも見れるやんか」

 なんとなくミサキにもコトリ副社長が言いたいことがわかってきました。

    「一万年の間に二度とクーデター騒ぎが起っていないと考えるのは不自然やし、それが常に失敗してたと考えるのも不自然と違う」

 たしかに、

    「だから今度は政府側の人間が星流しになっていると考えるのが一つ」
    「一つってまだあるのですが」
    「母星自体がなんらかの原因で行き詰まり、新天地を求めてる」
 一万年前に地球に神が連れて来られた宇宙船の大きさは不明ですが、運ばれてきたのは意識を詰め込んだカプセルだけだったとされます。これも実際の大きさは不明ですが、せいぜい一メートルぐらいだったと考えられています。

 その程度のものを運ぶには今回の宇宙船は大きすぎるのではないかがユッキーさんの指摘ですが、母星を脱出して新天地を地球に求めているのであれば、話の辻褄は合います。ユッキーさんが疑問としていた着陸しての往復機能だって不要になります。

    「でも一隻だけなのは」
    「推測やで、生き残ったのが一隻だけってのはありえるかもしれへんやん。宇宙技術自体はあっても使っていない技術やし、時空トンネルだって母星から五十年先のままやったら、その途中で脱落した可能性はあると思うよ」

 これもあくまでもコトリ副社長の推測ですが、一万年前の地球への星流しも地球にたどりついたのは一割ぐらいだった可能性があります。

    「だったら」
    「後は到着してみんとわからへんってこと。果たして鬼が出るか蛇が出るか」
    「それとも宇宙の塵になる」
 やっぱりコトリ副社長は知恵の女神だ。