流星セレナーデ:ハワイの夜

 お二人は遊ぶ遊ぶ、というかお二人が遊ぶ手配にミサキは振りまされっぱなしです。勢いとして、たった三日間でハワイを遊びつくしたいぐらいですから、そりゃ大変です。こりゃ、普通の秘書じゃ勤まらないとしみじみ感じました。でもミサキは気になるので聞いてみました。

    「ユダの言葉は信じることが出来るのですか」
    「ミサキちゃんも神々の会話に少し慣れた方がイイよ」

 神々との会話と言っても、実質ユダだけだと思いましたが、よく考えればコトリ社長の言葉にも平気でウソが混じります。ユッキー社長はどうなんだろう。

    「まずね、ミサキちゃん、ユダが本気で用事があったのは信じて良いよ。ユダだってコトリとユッキーを同時に相手する気はないと思うから」
    「つまりはリスクを冒した」
    「そういうこと。そうやって騙すこともあるけど、ほら無事じゃない。ハワイに罠を仕掛けていたら、もうなにかされてるはずよ」

 まさか翌日の飛行機をキャンセルしたり、これだけ遊び狂っているのは罠の有無の確認のためとか、

    「それとあの彗星が神の母星の宇宙船とわかるのはユダしかいない。どうもだけど、流刑にされる時に意識だけにされただけではなく、眠らせもしなかったみたいだね」

 そっか、そっか、母星で意識が分離された時に眠らされていたら、時空トンネルの入口まで五十年とか、放射能防護シールドの欠陥なんて知りようがないんだ。

    「ミサキちゃん、神はね、余計な事を他の神には普通は教えないのよ。教える時は自らのメリットがある時のみ。ユダはコトリたちが原初の記憶がないのを知ってるから、あえて教える時はなんらかの目的があるとまず考えるの」
    「宇宙船の話からまるきりウソの可能性は」
    「無いとはいわないけど、そのウソでユダが得られる利益は考えにくいわ」

 そうやって考えるのか。たしかに彗星を宇宙船と騙したところでユダのメリットは考えにくいものね。

    「地球の神の原初は一万人ぐらいとユダは言ってたから、今度の宇宙船もそれぐらいか、下手するとそれ以上の規模の可能性はある。その一万人が新たな神になって暴れ出したら往生するだろうは同意や」
    「それがウソって可能性は」
    「宇宙船が本当は彗星であったらなにも起らないだけ」

 ホントに神同士の会話って疲れる。

    「じゃあ、宇宙船をインド洋に誘導して墜落させる事で意見は一致したのですね」
    「してないよ」

 ミサキはズッコケそうになりました。

    「ミサキちゃん、コトリでもユダでも無理な物は無理ってこと。神の力だって、遠くなれば落ちるのよ」
    「でも災厄の呪いはかなり遠くまで及ぶはずですが」
    「人相手なら、そんなに力はいらないの。でも宇宙船クラスを動かすとなると、いくら頑張っても目に見える範囲ぐらいが精いっぱい。それも最終軌道を少しずらせる程度ってところ」

 それだったらクレイエール本社への直撃を避けるぐらいになり、インド洋への誘導なんて不可能です。

    「ミサキちゃん、わからないかな。彗星は爆発しないのよ。宇宙船だから着陸するってこと」

 あっ、そうだった。

    「まず問題は原初の地球の神のように流刑船であるか、往復機能を持つ宇宙船かだね」
    「違いがあるのですか」
    「流刑船なら片道で済むから、流刑囚の意識を詰め込んだカプセルを地表に着陸させれば良いだけでしょ。これが海に落ちてくれたラッキーぐらいかな」

 浮く可能性もあるかもしれないとコトリ専務はしてたけど、流刑囚用にそこまでする可能性は低いとコトリ副社長はしています。付け加えて精密誘導のレベルも低い可能性もあるとしていました。

    「ユダは反乱の逮捕者は十万人以上はいたとしてたけど、地球で生き残ったのは一万人ぐらいとしてた。つまり、他の流刑船の神は着陸時か、それ以前に遭難して死んでいると考えられるよ」

 そうだユダは地球以外に母星が植民活動はしていなかったとも言ってた。母星とほぼ同様に暮らせる星なんて、そうそうは無いと考えるのは確かに合理的だもんね。

    「往復型だったら」
    「一万年前でも地球に植民活動していた時期があったから、地球の海も知ってる事になるじゃない。対策されてる可能性は十分にある」

 あの会話からここまで考えを巡らさないといけないのか、

    「わざわざユダが今回の情報を知らせた意味はなんなのですか」
    「素直に取ると敵の敵は味方の確認かな」

 母星からの新たな神の出現は、コトリ副社長にもユダにも脅威である点は共通として良さそうですが、

    「でも裏切って新たな母星の神とユダが手を組む可能性は」
    「ミサキちゃんもわかってきたね。それもゼロじゃないと心づもりはしておく必要はあるのよ」

 そっか、だから、

    「じゃあ、問題の焦点は」
    「そういうことになるかもしれない」

 ユッキー社長も、コトリ副社長も、ユダも強大な神であり、強大であるが故にここまで生き延びて来たとしても良いと思います。神の力に強弱があるのはわかっていますが、この神の力がどこから生じたかの問題が出てきます。ユダの情報では流刑囚の輸送中のアクシデントによる可能性があるとしています。それを信じるかどうかですが、

    「ユダの放射能説はどうお考えですか」
    「そこが問題なのよね。ユダの意図として考えられるのは、新たな神と敵対するか、協力するか、それとも・・・」
    「それともなんですか」
    「支配下に置くもあるで良いと思う」

 そうだユダにはそういう能力もあるんだった。

    「ではハワイ会談の目的は」
    「そうだねぇ、母星の神との全面戦争になった時に、お互いの足の引っ張り合いは避けようぐらいかな」
    「それだけですか」
    「コトリたちがどれだけ知ってるかの確認もあるよ」
    「それって」
    「ユダにも出来るけど、ユッキーだって神の取り込みは出来るのよ」

 なんちゅう難解な会話かと感じた次第です。

    「全面戦争になる可能性はどれぐらいあるのですか」

 そこにユッキー社長が顔を出されました。

    「コトリ、そろそろ行こうか」
    「そうね、最後の夜だから楽しまなくっちゃ」
    「ミサキもお供します」
    「既婚者はダメよ」
 あちゃ、男遊びか。毎晩毎晩ようやるわ。