始業式の日に二学期の委員長を決めるんだけど、担任の奴いきなり、
-
「木村で異議ある者は」
-
「異議なし」
-
「委員長が委員長じゃないと、委員長と呼べないじゃないの」
さっそく宿題考査が始まったけど、噂通りのものやった。ウチにはどうってことはないけど、結果を見たら予想通り実にクラスの七割ぐらいが追試。四人組はクリアしていて大喜びしてた。あの人はどうかと注目してたけど、キッチリ追試組。ホンマに冴えへん男やと思う。
うるさかった二組の坂元も静かになってくれた。というか完全に呆れられてた。入学以来、試験と言う試験は全部満点なんて開校以来とも言われてた。ウチに並ぶには満点を取るしかなく、満点を取っても並ぶだけで抜けない事がわかってくれたみたい。宿題考査も五百点満点になるけど、二番の坂元でさえ四百五十点ぐらいだったものね。
二学期のメインイベントは体育祭。そりゃ、こんな学校の体育祭だから、内容は推して知るべしだけど、春の文化祭とは違い一年も参加が必要。その中の目玉は仮装行列とデコレーション。これはセットで審査され各学年優勝とグランプリが選ばれる。どのクラスも一番力を入れる競技。
この学校でこの手の行事に『力を入れる』となればアホらしくほどレベルが高くなるのは春からたっぷり学習させられてるので、まずは情報収集が必要。図書館で家庭教師やってた時に過去の記録をチラチラ見てたんだけど、デコレーションについてはかなり規制が厳しい。
規制がある事自体がこの学校的には珍しいことなんだけど、たとえば高さ制限が始まったのは薬師寺の三重塔が作られた時。原寸大の三十三メートルだったみたいだけど、風に煽られて倒れグランドを塞いでしまったからになってる。長さについては、誰が思いついたのか万里の長城が作られ、これが校内の空き地と言う空地を埋め尽くしたので制限が始まっている。
まあ規模の規制がなかった頃は巨大な姫路城や壮大な規模のノイシュバンシュタイン城が作られ、規模がデカすぎて他の競技の支障になって困ったなんて記録が残ってる。様々な経緯の末に現在は縦横高さとも五メートルまでが現在の条件。そうそう気球系も禁止になってる。これも風に流されて校外に飛んで行ってエライ騒ぎになったみたい。
巨大さで勝負が出来なくなったためか、現在のトレンドは精密さとギミック勝負になってる。こんなものどうやって作ったかと思うんだけど、ドアの開け閉めが出来て、ハンドルで操縦出来て、メーター類もちゃんと動き、なおかつ自走するフェラーリとかランボルギーニ、F1カーが作られたりもしている。
その辺のギミック勝負の影響だと思うけど、バッテリーとかモーターの使用も禁じられてる。禁止項目には自家発電機やガソリン・エンジンも入ってるから、かつて使われたこともあったみたい。この辺の動力が使えなくなった影響か現在のギミックの動力はゴム動力が多いみたい。委員長は体育祭の実行委員も兼ねてるから会議にも出るんだけど、こんな質問が真顔で出てたものね。
-
「モーター、ガソリン・エンジンの使用は禁止となっていますが、蒸気機関はどうですか」
とにかくこの学校に毒されきった上級生とグランプリを競うのは無理そうだから、狙いはつつましく学年優勝。そうなると他のクラスの動向の情報は重要。とはいえ教室は横並びだし、秘密にするような情報でもないのですぐに入ってきた。
-
「委員長、三組は女神様のコスプレ仮装と女神像で来るみたいよ」
-
「木村さん、四組は天使で来るみたい」
たぶん三組だけじゃなく四組も天使像ぐらい使ってくるはず。天使だからキリスト像とか、マリア像かもしれん。受胎告知は・・・どうやろ。学年優勝のチャンスはコンセプトが被ってくれて票が割れる事やけど、それ以前に五組に票が入るかの問題がある。票が入ってくれないといくら三組と四組で票が割れても蚊帳の外やもの。
いずれにしてもモデルの差はどうしようもない。どう考えたって、明文館タイムズのトップ記事の写真は決まったようなものやもんな。そうなると別路線で勝負になるけど、なんも思いつかへん。とりあえずホームルームで討議にかけたら和田が手を挙げた、こいつはかなりお調子者だが、えらく緊張している感じがする。
-
「委員長、女神様と天使に対抗するには手段は一つしかありません」
-
「ところで委員長は五組の勝利を願っておられますか」
「当然です」
「そのためには協力は惜しまれませんか」
「もちろんです」
-
「五組の秘密兵器を出すしかありません」
-
「三組が女神様、四組が天使で来るなら、五組は氷姫で対抗するしかありません」
-
「私は委員長として五組の勝利を願いますが、私のコスプレが対抗できるとは思えませんが」
「委員長に出て頂いても勝利は確実とは言えませんが、出られないと勝負にすらなりません。どうかお願いします」
-
「氷姫だったら、デコレーションは氷の御殿だよな」
「それやったら、ビニールパイプで組んだ上にラップを貼り付けたら・・・」
「それに雪まつり風に、発泡スチロールで白い御殿を組み合わせたら・・・」
「衣裳は和風で決まりじゃない」
「コンセプトは雪女で」
「行列は吹雪を演出にして・・・」
-
「委員長、採決をお願いします」
-
「異議なし」
-
『打倒! 女神と天使』
衣裳は雪女コンセプトの白装束案で始まったんだけど、タダの白装束じゃインパクトに欠けるとされて、和服ベースのドレスに変更されてた。これが歩くと裾の前がひらりと開く感じで、恥しいから開かないように足元を見てしずしず歩くと、
-
『委員長、もっと胸を張って颯爽と歩いてください。どれだけ裾が翻るかが、この衣裳の決め手なんです』
ウチが一番困惑したのが生地。軽いのは良いとしてかなりスケスケ。そりゃ肝心なところは見えないようにしてあると説明されたけど、これじゃ裸で歩いているようなものと思ったもの。ウチにセクシー路線が似合うとは思えへんねんけど。
デコレーションは氷に囲まれた雪の神殿をテーマに製作が始まり、行列演出はとにかく冷たさと怖さを強調しながら、氷姫と神秘的な美しさをアピールするであれこれ作ってた。あの~、ウチは反対やねんと言いたかったけど、これだけクラスが盛り上がり一致団結してるのに委員長として水を差せないからあきらめざるを得なかった。
そんな時に小島と初めて話をした。小島は四組で天使を押し付けられて逃げ回っていたらしく、思い余ったのか五組まで逃げてきた。ちょうどその時にウチの衣裳の仮縫い中だったんやけど、それを見た小島が、
-
「木村さんも出るの?」
「決まったことだ」
「その衣裳は氷姫」
「そうだ」
「スケスケやけど恥しくないの?」
「恥しいに決まってるだろう」
-
「小島がいたぞ、捕まえろ」
「お願い、許して、あのコスチュームだけは堪忍」
「うるさい、クラスの決定に逆らうつもりか」
「連れてけ。それと体育祭当日まで監視は怠るな」
「おう」
「誰か、助けて・・・ヤダァァァ」