シャウスの道はハムノン高原とエルグ平原を結ぶ唯一に近い連絡路。とはいえ甘い道じゃないのよこれが。もとは、たぶんだけど、セトロンの断崖が崩れたところとも言われてる。コトリは崩れたというよりヒビが入ってるぐらいにも思ってる。
イスヘテから狭い谷間に入る感じになるのだけど、谷間の東側に道は付けられてるの。つまりエルグ平原から登って行くと左手が崖になる感じ。これがクネクネしてて、登るにつれて崖は深くなり、段々狭くなる感じかな。
とくに最後のところが狭くて急で、シジスの坂とも呼ばれてる。ここは左右が崖になってて、シャウスの城壁はシジスの急坂も囲むように作られてるの。攻め寄せれば左右の城壁から雨あられってことになっちゃうのよ。天険を利用した不落の要塞って感じがする。
シャウスの道の特徴は途中に五ヶ所の広場があるのよ。広場と言ってもたいした広さじゃないけど、平和な時代には茶店が出来てた。ちょっと一休みってところかな。ただ戦時となると防御施設が作られるのよね。
つまりシャウスを攻略するには、シャウスの道の五ヶ所の砦を順番に突破し、最後にシャウの城門に挑むってことになっちゃうの。広場と広場をつなぐ道は狭いし、左手は崖だから、シャウスの道の砦を一つ落とすだけでも大変ってところなの。これも高原側からなら上から下への攻撃になるからまだしもなんだけど、平原側からになると登らにゃあかんし、上から物を落とされるわで苦戦は必至ってところ。
こんなややこしいところを突破したくないから、迂回したいところだけど、これがないのよねぇ。シャラックも改めて調べてたけど、シャウスの道以外となると、ロープを使ってのロック。クライミング状態になっちゃうから、スパイや偵察部隊程度を送り込むことは出来ても、軍団規模での突破となると無理がアリアリすぎるのよ。
それとアングマール軍もガッチリ守ってくると思うの。ハマの戦いでマハム将軍の二個軍団が全滅しただけやなく、イスヘデの野で援軍をかなり叩いたから、大雑把に言って二個半ぐらいの規模の損害を出してるはずなのよ。それを補うのはアングマールも時間が欲しいはずなの。
このガッチリ守ってくるのも厄介な点で、攻めて来てくれれば、そこに駆け引きの余地が生じるんだけど、防御壁に貼り付きで守られたら、ひたすらゴリ押しする以外に手がなくなっちゃうのよ。
情報作戦本部はシャラックが出陣するから、四座の女神が再び担当してるけど、ちょっと相談してた。
-
「ゴリ押しで落ちる?」
「はい、次座の女神様。第三広場ぐらいまでなら可能かと」
-
「第三広場までの損害見積もりは?」
「一個軍団程度は覚悟する必要が」
「いるやろな」
「第二や第一広場は?」
「それぞれに一個軍団ぐらいは必要かもしれません」
-
「試作はどう?」
「見に行かれますか」
-
「ありゃ、可愛いサイズだね」
「ええ、道の狭さを考えると、これぐらいが精いっぱいです」
-
「テストは」
「やはり重いです」
-
「それと敵が巨大石弓を備えられると、さらに装甲を強化する必要があり、そうなると押し切れません」
-
「この破城槌は第四広場の攻略に使うぐらいが精いっぱいね」
「御意、第四広場までの道は割と広いですし、傾斜もまだ緩やかですから、装甲強化型にしても使えるかと」
「そうだね、ついでにもう少し幅も広げて、押す人数を増やすタイプを試作してくれる」
「かしこまりました」
あの道は百回以上は余裕で通ってるから良く知ってるけど、攻めるに難く、守りに易いのは間違いないの。なんかイイ知恵が浮かばんもんかいな。う~ん、う~ん、困った、困った。このままじゃ三座の女神の試算通りの大損害が出てまうやんか。
順番に考え直そ。まずやけど、敵は坂の上から巨大石弓で撃ってくるやんか。これを防がないと大損害が出るのよね。他にも矢や、投槍、石も放り投げてくるのも確実。狭い道を攻め登ったら、狙い撃ちやもん。
それを防ぐには盾が必要やねんけど、投槍を防ぐだけでもかなり大型の丈夫な楯が必要やんか。これはシャラックもあれこれ工夫はしてた。丈夫な大型の盾か、う~んと、う~んと何か思いつきそうなんだけど、
-
「次座の女神様」
「なに」
「破城槌の試作ですが、重量の軽減化のために側面の防御は無しにしようと思いますが」
「そうよねぇ、横からの攻撃はありえないし」
四座の女神に話したら、すぐに理解してくれた。要は壁みたいな大型の盾を台車に付けて押せばエエんやと。前面だけやったら、装甲をかなり強化しても十分に押せるはずやねん。
-
「そういう構造でしたら、簡単な組み立て式に出来ますから、持ち運びもラクになります」
-
「・・・だからね、巨大石弓も中型の組み立て式に改良して欲しいの。それでね、楯に穴を空けておいて、そこから敵の巨大石弓を撃ち壊しちゃうの」
「かしこまりました」
-
「四輪にしなかったの」
「ずり落ち防止のためです」
-
「前が重くなるけどバランスは?」
「登り坂専用ですから」
-
「最後の柵越えは?」
「梯子作戦は如何かと」
-
「火矢対策は?」
「濡らした皮革でとりあえず」