アングマール戦記:第二次包囲戦(2)

    「ユッキー、あれなんやろ」
    「ううん、前回やらなかったから妙と思ってたけど、今回はやる気ね」
 アングマール軍は穴を掘り始めたの。つまり城壁の下を潜る穴を掘って城内に乱入しようって作戦。城攻めではポピュラーな戦術やけど、とにかく人手がいるのと、坑道が長くなると落盤も起りやすい点がポイントかな。
    「あそこまで計算して掘ってるかしら」
    「さあ?」
 ユッキーは大城壁を作る時に土塁で土台を作ってるけど、その土は城壁の内側から掘り出しているの。それもわざと幅を狭くして深く掘り、そこを石と粘土でがっちり固めて水を入れて内堀にしてるの。見た目は幅が五メートルもないし、普段は蓋をしてるから、そんなに深そうに見えないけど、深さは四十メートルぐらいあるの。もちろんトンネル対策だけどね。

 アングマール陣地の土の山は見る見る大きくなったわ。その間も巨大投石機同士の撃ちあいとか、巨大な塔の設置の戦いが続いていたし、わんさか出てくる埋め立て車の破壊戦も続いてた。包囲戦が始まって三ヶ月もしないうちに、

    『ズシッ』
 来たのよ魔王の心理攻撃が、四女神は城内を走り回ったわ。その頃には幾つかの巨大な塔も完成してたから、
    「コトリ、来るわよ」
 アングマール軍は空堀に橋をかけて渡って来たの。上から石を落としたり、巨大石弓で壊したけど、とにかく数が多いし、他にも攻撃目標が多くて壊しきれなかったの。そして現われたのが巨大梯子。これまた百個ぐらい一斉にかけて登ってきた。
    『せぇーの』
 例の棒で押し出す作戦はそれなりに有効やった。ただあれも登る人数が少ないうちは押し出しやすかったけど、ビッチリ並ばれると重すぎて押し出しきれんかった。もうちょっと機械仕掛けにしとくべきやったかもしれへん。ただ城壁上の屋根は有効やった。これのお蔭で巨大な塔からの矢の攻撃をかなり防げてた。もっとも敵の巨大投石機の石が当たるとぶっ壊れるから、修理に追っかけまわされてた。

 梯子作戦は連日続いたの。でも前回に比べると巨大な塔の数も少ないし、城壁の屋根のお蔭で優勢に展開してくれた。巨大投石機は夜もフル回転させた。とにかく数撃たないと命中数が増えないし、別に夜だからって命中率が下がる訳じゃなから、バンバン撃たせたの。そしたらね、

    『ズシッ』
強くなったの。
    「魔王は最初からフル回転やね」
    「どうしてだろう」
 ユッキーは魔王の意図が読み切れなかったみたいだけど、まだ二段、前回は三段まで喰らってるから経験済みってところ。
    「コトリ、二段目だけど前より軽くない。前の時は『ズシン』って感じだったけど」
    「慣れたんちゃうん」
    「そうかもね」
 翌日の梯子攻撃の攻防戦もすさまじかったけど、魔王が二段目の心理攻撃をやった意味がわかったの。内堀の水位が少しだけ下がったの。
    「かわいそうに、溺れたんじゃないかしら」
    「たぶんね」
 坑道の先から水がドバッと流れ込んだら、逃げ道無いからまず助からへんと思うわ。この二週間ほどが第二次包囲戦のヤマ場だったみたい。以後も動く塔や埋め立て車の妨害戦。さらには巨大投石機同士の撃ちあいは続いたけど、エレギオン優位に推移してくれた。それだけやなくて、魔王の心理攻撃も弱まっているとしか感じてしかたなかったの。

 その後も散発的に梯子攻撃があったけど、前の時ほど危機的な状況に陥ることなく春にはアングマール軍は引き上げて行っちゃった。

    「もう終わりなんだ」
    「半年ぐらいで済んで助かったわ。また三年もやられたら食糧なくなっちゃうし」
 アングマール軍が退却した後に休暇を頂きました。もう燃えまくっちゃった。