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「おかえり、コトリ。お疲れ様」
「なんとか勝てたわ」
「どうだった」
「通用したわ」
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「いくら魔王でもアングマールからハムノン高原まで力を及ぼさすのは無理やったみたい」
「そうだったのね。で、なにやったの」
「単純やけど投槍や矢の命中率を挙げといた。あれもあんまり使いすぎると補充が大変やし」
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「そうだ、ユッキー、全部切っちゃったんだね」
「あれもしかたなかったわ。置いといても切られちゃうだけだし」
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「アングマールも凄いのを作るね」
「動く塔っていうのかな。城壁より高かったっていうものね」
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「破城槌も大型で、屋根まで付いてたそうだもんね」
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「ユッキーなにかした?」
「とりあえずスロープ付けといた」
「空堀掘ったら?」
「空堀掘った土でスロープ付けといた」
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「これやったら、アングマール軍はまず空堀を埋めないといけないでしょ。それから城壁のスロープを平坦にしないといけないから時間がかかると思うの」
「それを乗り越えてきたら?」
「そうなったら大変ねぇ。でもね、空堀埋めるのも、スロープ崩すのも何カ所かに集中すると思うの」
「そうやろね。エレギオンの全城壁の空堀埋めて、スロープ崩そうと思ったら、どれだけの犠牲を払うかわからへんもんね」
「守る方もそこに集中できるってこと」
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「女神の力で水貯めたら」
「魔王相手だから通用しないと思ったの」
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「ところでユッキー、あのでっかい屋根付きの破城槌対策は?」
「石落とすぐらいかな」
「火つけたいけど、それぐらいは考えてるやろし」
「そうなのよね、門の前に空堀作るわけにはいかないし」
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「門はどれぐらい耐えられるかな」
「永遠には無理でしょうね」
「打って出て追い払うとかは」
「それは、それでアングマール軍の思う壺になりそう」
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「知恵の女神にアイデアない?」
「そない簡単に出てくるかいな」
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「ユッキー、その破城槌って縦長やろな」
「木は大きくて長いほど効果があるとおもうから、たぶんそうだと思う」
「でも幅はそれほどないんちゃう」
「あんまり幅を広くすると、動かしにくいし、台車が保たないと思う」
「高さはそこそこあるやろな」
「ぶら下げて揺するタイプならとくにね」
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「ひっくり返したらどうやろう」
「えっ、どうやって?」
「破城槌いうても屋根が鉄板で出来てる訳やないやろ」
「たぶんそうだと思うわ」
「だったらロープ引っ掛けて倒してもたらエエんちゃう」
「でもどうやってロープをかけるの? 敵軍もいっぱい破城槌の周りにいるはずよ」
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「巨大石弓試作しとったやん」
「ああ、あのお化けみたいな石弓のこと」
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「アレに返しに細工したデッカイ鏃を付けといて、さらにロープつけとくねん」
「なるほど! それを何本か打ちこんどいて引っ張るわけね」
「テストしてみよ」
「うん」
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「食糧は」
「食い延ばせば五年は持つと思う」
「燃料は」
「エルグ平原の木をかき集めたようなものだから、十年は余裕よ」
「そうなると後は」
「魔王の心理攻撃ね」
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「コトリ、魔王の心理攻撃って、女神の災厄の呪いと違うの?」
「ちょっと違う。根っ子は同質の気もするけど、やっぱり違う。ひたすら気が重くなって、やる気がなくなって、落ち込んじゃう感じかな。それと不注意になって余計なミスを繰り返すようになるって感じ」
「対抗法は」
「女神が駆けずり回って、士気を高める以外に思いつかへん」
「厄介ね・・・」
「ホンマにそうやった」