心身ともにズタボロ状態のコトリはエレギオンに帰国したら寝付いてしまったの。食事も喉を通らなかったし、頭の中にはゲラスでの惨敗の記憶がグルグルまわるだけだったわ。どうして生き残ってしまったんだろう、どうしてあそこで死ななかったのかって、そればっかり考えてた。
半月ほどしてユッキーが来た。コトリの部屋は面会謝絶にしてたんだけど、ユッキーは構わず入って来た。
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「あらコトリ、やつれちゃって。そんな顔してたら男に嫌われるよ」
「ユッキー、ごめん。イッサは、イッサは・・・」
「リュースはコトリの男であることの証を立派に立てたよ」
「でも、でも・・・」
「コトリはこれが好きだよね。さあ、食べて」
「いらない」
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「美味しいのに。でも、床に落ちちゃったからわたしが食べるわ。じゃあ、こっちはいかが」
「いらないったら、放っといてよ。面会謝絶の札が読めないの」
「読めないよ。だってわたしは首座の女神だから」
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「一人じゃ支えきれないの。コトリがゲラスでいっぱいの物を背負わされたのは知ってる。でも背負わなければならないのが、わたしとコトリなの。もうコトリが背負うのがイヤならわたしも終わりにする。でもね、まだわたしたちに背負ってもらいたい人が、いっぱい、いっぱい、いるのよね」
「・・・」
「イッサの最後はわたしも聞いた。アングマール王に何度も切られながらも、血まみれになって立ち向かったって。イッサは悔しかったろうな。あれだけ戦って、かすり傷ぐらいしかアングマール王に付けられなかったみたい」
「・・・」
「だからイッサは最後にこう絶叫したそうよ、
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『首座の女神様、申し訳ありません。イッサは女神の男として相応しくありませんでした』
その直後にアングマール王のトドメが入ったみたい」
「ユッキー、イッサは立派だった。まちがいなく女神の男だよ」
「リュースも格好良いね。コトリが必ずアングマールへの雪辱を果たすって信じて疑わなかったみたいやん」
「リュース・・・」
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「イッサも、リュースもコトリに託したんだよ。このエレギオンの未来を。ウレだってそう、他の連中もそう。コトリさえ生き延びてくれたら、エレギオンは必ず最後に勝つって信じてたんだよ。そしてね、その願いは叶ったの。だからコトリがここにいる」
「でも、ユッキー・・・」
「応えてもイイんじゃない。わたしはどっちでも付き合う。終りにするならそれでヨシ、託された願いに応えるなら全力を尽くす」
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「守るべき者、頼ってくれる人がいる限り、女神稼業は続くと思うんだ。ちょっとこっちにおいでよ」
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「次座の女神様だ」
「次座の女神様がお戻りになったぞ」
「次座の女神様がおられる限りエレギオンは滅びない」
「次座の女神様・・・ばんざい」
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「みんなコトリを待ってるよ」
「ユッキー・・・」
「さあ、ご飯食べよ」
「わかった。でもその前に」
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「エレギオンに女神がいる限り、エレギオンは不滅なり。ゲラスの雪辱は必ず果たすと宣言する」
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「ユッキー・・・ゴメン」
「いいのよコトリ。お互い因果な商売やらされてるし、コトリがイヤなのも知ってるもの」
「それはユッキーだって」
「ホントに参るわよねぇ。こういう時はとくに」
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『首座の女神の男に相応しい働きであった』
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「ユッキー、今晩からはコトリも働く」
「そうしてくれる。寝不足はお肌に良くないから。でも、もうちょっとしてからね。ちゃんとコトリが食べてくれるようになるまで働かせないわよ」