アングマール戦記:会戦(3)

 ここまではコトリの読み通りにだいたい展開したんやけど、後から考えれば騎馬戦で優位に展開したのを除いてアングマールの作戦通りやったかもしれへん。アングマールは第一列の後ろに並んでいた散兵部隊を一挙に両翼に押し出してきたの。それも散開突撃みたいな感じ。あっという間に乱戦の白兵戦になっちゃったのよ。

 でもって白兵戦になるとアングマール軍は断然強いのよ。コトリもそうなるのを予想して厚めに配置してたんだけど、押しまくられて、ついに総崩れ。両翼が崩れると真ん中のファランクス隊にも動揺が走っちゃったの。そりゃ、側面だけじゃなく背後に回りかけたから。

 コトリも背後に回られたら終わりだから、本営から援軍を送ったけど背後に回られないようにするのがやっとだった。でもってファランクス隊が側面から崩され始めちゃったの。そうしたらね、アングマールの重装歩兵隊の第三列が側面に展開しだすのよね。これがリュースやイッサが言っていた戦列が伸びるって奴だと思い知らされた。

 後からわかったぐらいやけど、アングマール軍はファランクスの重装歩兵部隊に関しては受け止めて流すつもりやったみたい。アングマールの重装歩兵ではファランクスを突き破れないから。だから徐々に後退してたんだけど、あれは同盟軍のファランクスを会戦場の奥深くに引っ張りこむのも目的でイイと思う。そうしておいてサイド攻撃。

 アングマールの重装歩兵隊がサイドに回り込んでくるのをどうしようもなかった。コトリの打てる手はもう残ってなかったの。同盟軍のファランクス隊の崩れはどうしようもない段階になっており、一部では敗走もはじまっていたのよ。その時にアングマールは新たな騎馬隊を出してきた。まだおったんかいと思ったものよ。

 先頭の一際大きな馬にまたがった黒づくめの甲胄に身を固めた者が見えた時に、コトリに戦慄が走ったわ。コトリにははっきり見えた。あれは神だ、それも強大すぎるほどの神だって。だから女神の戦術が通じなかっただけではなく、逆にこちらが心理的圧迫を受けた理由も全部わかった。

 あいつこそがアングマール王に間違いない。アングマール王が率いる騎馬隊はムチャクチャ強かった。左右からの圧迫で崩れていた同盟軍のファランクス隊を蹴散らし、突き破りコトリの本営に進んでくるのよ。そうはさせまいと立ち塞がる同盟兵もいたけど、それこそ次々と薙ぎ払われて、蹴散らされてしまった。まさに完敗、それも完膚無きほどの完敗。コトリは本営に迫ってくるアングマール王を見つめたまま立ち尽くしていの。

 コトリはここで死ぬって。たぶん女だから、死ぬ前にさんざん嬲り者にされた上で殺されるか、さらにさらし者にされて、かくだけの生き恥をさらされて死ぬんだろうって。コトリは剣を抜いたの。この体はあきらめようって。ただ死んで宿主を移るにも女がいないのよね。どうしようもない状況に茫然としてた。