アングマール戦記:会戦(2)

 会戦場に望むとアングマールの戦列が見えた。たしかにファランクスじゃないわ。重装歩兵戦列が間隔を取って横三列ってところ。一列の縦深はリュースやイッサの情報通りに五列として良さそう。ただ前方に展開するはずの散兵部隊がいないのよ。戦術を変えたのかなって思ったら、重装歩兵戦列から湧くように出てきたの。

 これを見てやっとコトリはアングマールの戦列の組み方がわかった気がした。ファランクスではせいぜい二分割か三分割、多くても四分割ぐらいで戦列を組むけど、アングマールはもっともっと小さな単位で戦列を組んでるんだと。散兵部隊はその小さな単位の隊と隊の間を通って前後に移動するんだろうって。にしても、これだけ鮮やかに移動させるには相当な訓練が必要なのはわかる。

 もう一つわかったのが、戦列を自在に展開できる理由。アングマールも基本は隊ごとに移動するのは間違いない。そりゃ、隊の戦列を崩したら力は一遍に落ちるから。ただ、その隊の単位が小さいのでファランクスに較べると桁違いの柔軟性があるんだろうって。たとえればファランクスが横に長い一本の棒なら、アングマールの戦術は小さなブロックを継ぎ合わせてる感じかな。

 隊列の基本単位が小さなブロックやから、組み方を変えれば色んな戦列を組めるんじゃなかろうかなの。もっとも、理屈はそうだけど、それをやるにはかなりの訓練が必要なのは間違いない。こりゃ、手強そう。でもだけど、やっぱりその分だけ正面の戦闘力は落ちているはず。そんなもの全部が優れていたらおかしいもの。ここはコトリの読みを信じるわ。


 会戦は散兵同士の前哨戦から始まったの。そうね、お互いに相手に投槍を投げ合うって感じかな。戦う時間は双方の重装歩兵戦列が接近するまでの間になるの。ある程度重装歩兵戦列が接近した時点で同盟軍は左右に別れて両翼に並び、アングマール軍は重装歩兵第一列の後ろに、吸い込まれるように鮮やかに引っ込みやがった。

 重装歩兵同士の戦いが始まったけど、ここは同盟軍が有利そう。そりゃ、槍対剣だから有利のはず。でもアングマール兵はさすがに強いわ。槍対剣の劣勢をものともせず踏ん張ってる。ここで厄介なのが敵の重装歩兵第一列の後ろに展開してる散兵部隊。投槍をバカスカ投げ込んでくるのよね。

 ファランクスだって投槍対策はあって、縦深後列の槍で払うんだけど、全部は払いきれないの。もちろん縦深後列も盾持ってるから、これでも防ぐんだけど、盾に投槍が刺さると厄介なのよ。投槍が刺さった盾は重くなって使えなくなっちゃうの。アングマールの投槍はそれも計算して作られてるみたい。

 それでもファランクスの正面圧力は強力だからジリジリ押してたんだけど、戦列交代も見せつけられた。ササッと第一列が退いて第二列が交代する感じ。あれは小さな隊単位でやってるんだろうけど、あれはよほど訓練してないと出来へんやろな。この戦列の入れ替わり時期はチャンスやねんけど、ファランクスの横一列は融通が利かへんは。どっと突き破るって感じになかなかならへんのよね。

 そんな感じで重装歩兵戦は同盟軍がやや優勢ぐらいで展開してたんやけど、どうにも押し切れんへん感じ。アングマールの戦列交代は戦力補充の意味もあるけど、後ろに下がった部隊は休憩取ってるのよね。それに対してファランクスは前から順番に戦う方式やから、時間が延びるにつれてくたびれてくるねんよ。

 そんな時にアングマール軍が動いたのよ。両翼から騎馬隊が突撃してきた。どうもテベスではこれにやられた部分が多そうやったけど、今回はこっちも騎馬隊がおるねん。数は同じぐらいでややアングマール軍が多いぐらいかな。コトリが長年手塩にかけた騎馬隊の成果を見ることになったわ。

 見たところアングマールの騎馬隊はアングマール人じゃないみたい。たぶん北方の騎馬民族からの傭兵みたいに思う。でもって、話に聞いた通り、足だけで馬の腹を挟んで乗り回してた。ホンマに出来るんかと疑問があったけど、ホンマやったんに感心したわ。馬術自体はアングマール軍の方が上手そうやった。

 でも騎馬戦自体はエレギオンが優勢に見えた。やっぱり槍対剣の差は大きそう。それとアングマールの騎馬隊が槍やなくて剣を揮う理由もわかった気がする。たしかに足だけで馬の腹を挟んで乗り回す技術は凄いけど、やっぱり限界がありそうなの。これはコトリの騎馬隊でテストした時にわかったんやけど、勢い付けて槍で刺した時の反動は強烈なのよね。

 コトリの騎馬隊が苦心惨憺して編み出した輪っかのぶら下げるタイプの踏台やけど、勢い付けて槍で突き刺す時には踏ん張るために、輪っかを後ろにグイッて感じで踏ん張らなあかんよね。それだけでなくて、馬上で武器を揮う時に踏み場があるととにかく踏ん張りやすいのよ。馬術ではアングマール側が優位やったけど、戦闘ではエレギオン優勢に展開してくれた。