アングマール戦記:会戦(1)

 会戦前夜は結局一睡も出来へんかった。リュースとイッサが調べてくれたアングマールの戦術がどんなものかを頭にグルグル回ってたの。どんなものか想像はしきれないけど、真正面から四つに組んだらファランクスが有利だと思う。だって相手は剣だっていうじゃない、密集した槍衾に勝てると思えないもの。

 たぶんだけどアングマールの戦術はファランクスの機動性の低さ、戦術の使いにくさを解消しようとしたものだと思うの。その結果として戦列の機動性の柔軟性が高まってると思うけど、その代り正面の攻撃力は落ちてると思うのよ。そうねぇ、重装歩兵戦列がファランクスを受け止めている間に、戦列をコチョコチョ操作して、ファランクスの弱点である側背部を衝こうって戦術。

 コトリの推測が合ってるかどうかに自信がイマイチないけど、会戦は自分が有利な点を活かすのが重要。ファランクスが有利そうなのは正面の攻撃力だからこれを最大限に活かす方法を考えないといけないわ。

 数はこっちの方が多いと見て良さそうだから、やはり正攻法が良いと思う。ゴリゴリと押していく感じかな。そう、戦列が動かない状況に持って行くのがポイントかもしれない。芸がなさそうだけど、相手がファランクスじゃないのなら、正面戦闘では絶対有利だし、ゴリゴリ押し出せばアングマールの小細工は通用しないはずよ。

 だけど、たとえ横一列でゴリ押しするにしても幅に限界があるのよね。そりゃ、相手の十倍ぐらい、こっちがいれば可能かもしれないけど、横隊にはどうしたって端が出来るわけ。ファランクス同士の会戦でも、この端っこをどう守るか、どう攻めるかはポイントなのよね。これはアングマールの新戦術だって同じだと思うの。

 そうなると両翼の散兵戦は重要になりそう。通常なら相手の散兵の侵入を阻止する程度の役割だけど、アングマールはこの散兵戦を重視しているのかもしれない。コトリも厚く配備して対抗するつもりだけど、散兵戦では兵の個々の強さがモロに出るから同盟軍の不安なところ。そうだリュースとイッサはアングマールの騎馬隊の情報も持ってきてたわ。

    「・・・アングマールの騎馬隊の数は多くはなさそうです」
    「そりゃ、良かった。で、テベスではどれぐらいだったみたい」
    「二百は超えないかと」
 それでもエレギオンより多そうか。でもってアングマールの騎馬隊も剣を使うみたい。かなり長い剣で、馬上から振り下ろすって感じかな。テベスでは初めて対戦するアングマールの騎馬隊に同盟軍はかなり動揺したみたいだけど、今度はこっちもいるもんね。騎馬隊同士なら数は劣勢でも槍対剣でエレギオン優位と見たいわ。いや、そうあって欲しい。騎馬隊が押しまくられたら、両翼の散兵部隊の戦いは圧倒的に不利になるものね。

 後は気になるのはアングマールの重装歩兵戦列がやるという戦列の交代ね。どうやって交代するかは見てみないとわからないけど、交代する時期はきっとチャンスのはず。どんなにうまくやったって混乱はでるはずだもの。というか、混乱するように圧力をかけるのもポイントだと思うわ。

    「次座の女神様、おはようございます。戦列の指示をお願いします」
 あれこれ考えたけどやっぱり横一列のゴリ押し戦術にすると指示したの。両翼の散兵部隊は思い切って厚くしたんだけど、その代わりに通常ならファランクス重装歩兵戦列の後方に展開させる散兵部隊は薄くなった。まあ、全部厚く出来へんからこんなもの。それとファランクス戦列の整列は念を押しといた。凹凸が出来るとアングマールに付けこまれると思ったから。