アングマール戦記:アングマール軍の侵入(1)

 アングマール軍がズダン要塞を突破した報せにはコトリも茫然としてしもた。リメラの野郎、ズダン要塞の守備隊までゴッソリ引き抜いてハムノン平原に出て来たに違いあらへん。ホンマなんちゅうことしてくれるんや。コトリが処刑してやりたいけど、ユッキーがあんじょうやりやるやろ。

 リメラのことをボヤイてもしゃあないんやけど、どうしよう。コトリは司令官やし、次座の女神やんか、なんかここでリアクションせんとあかんのよ。幕僚たちを動揺させたらアカンけど、コトリだって考える時間が必要だから、当面の指示だしとこ。

    「投降兵を再編して軍勢に組み込んでちょうだい」
    「負傷者はマウサルムに急いで送って」
    「エレギオンの首座の女神にも急報を、他の都市にも同様に」
    「食事の手配も急いでね」
    「傷んだ武装のチェックと補充急いで」
 アングマールがエレギオンに執着してるんは良く知ってるのよねぇ。そやから間違ってもズダン要塞を占領したぐらいで満足するはずないのは大前提。戦わんとアカンのやけど、エレギオン軍も同盟軍も備えとしては最悪の状態になってるのよ。まあ、それも読んでチャンスと見てズダン要塞突破してるってことやろ。同盟軍を立て直さないといけなんだけど、同盟軍の精鋭部隊はズダン要塞におってんよ。これに勝ったんは良かったど、今度は投降兵を戦力に大急ぎで再編せんとあかんわ。

 とはいえ合戦は終ったばっかりやから、右から左に編入して決戦に挑むのは無理がアリアリなのよねぇ。だいたい武装も十分とはいえん。合戦って、一回やると兵力も消耗するけど、投槍や矢も使っちゃうし、甲胄や盾も傷むのよ。これを補充せんと戦えへんのよ。ゲラスにもそれなりに持ってきてるけど、投降兵まで再編するには足りへんのよ。兵糧だってそう。投降兵まで食べさすと、そんなにあらへん。これもリメラの奴が戦況が不利になった時点で焼き捨てやがった。

 武装と兵糧のアテやけど、クラナリスにあるかどうかは疑問。十分にはないと見るのが妥当やろ。そうなるとマウサルムになるんやけど、ここで退いちゃうのはどうかの問題で頭が痛い。アングマールはズダン要塞を突破したら山岳三都市を攻めるのは確実やもんな。とりあえずモスランやろ。

 モスランにしろ、次に狙われるカレムも、ウノスも同盟都市なのよ。でもって盟主はエレギオン。当然やけど援軍を求めるわな。これを援けに行くかどうかやけど、今じゃ無理そう。でもポーズだけでも援軍の姿勢を示すのも必要やん。そやからマウサルムに全軍退いちゃうと見捨てたと思われてまう。

 実際のところ山岳三都市は同盟軍が戦力を再編するための時間稼ぎの捨て石になってもらわなしゃあないねんけど、あんまりミエミエにやると時間稼ぎもしてくれへんよねぇ。だから援軍を送る姿勢は見せとかなあかんねん。そうなるとやっぱりクラナリスか。どっちにしても、山岳三都市が落ちれば次はクラナリスやから、ここにポイントは必要と考えんとアカンやろ。なんかスッキリせえへん案やけど、

    「アルガンティア将軍はエレギオン同盟軍の使える戦力を率いてクラナリスに向かえ。武器食糧はココにあるものを出来るだけ持って行くこと。次座の女神はマウサルムまで戻り、不足分は出来るだけ早く送らせる。リメラの投降兵はマウサルムで再編する」
 なんだかんだと言って、同盟軍でまともな戦力は、今コトリが率いている分しかおらへんのよ。ユッキーも増援軍の編成に走り回ってくれてるはずやけど、すぐには間にあわへん。その唯一の戦力をクラナリスに送りこんどいたら、山岳三都市への援軍の姿勢に見えるやろ。
    「アルガンティア将軍、クラナリスでは固く守っておくこと。決戦は次座の女神の軍勢が合流してからと心得よ」
 どうにも兵力を分割しちゃう点が気に入らないし、アルガンティア将軍の手腕もイマイチ信用が置けないけど、アングマールだってそんなに早く動け無いだろうから、たぶんだいじょうぶやろ。この決定に従ってアルガンティア将軍はコトリが率いていた軍勢を率いてクラナリスに、コトリはリメラの投降兵を率いてマウサルムに向かったの。