アングマール戦記:エレギオン軍(1)

 コトリにしたらとにかくエレギオン軍は弱いから不安がいっぱいやった。エレギオン軍も都市防衛ならかなり頑張れるんだけど、とにかく野外会戦には弱いの。これはハムノン高原制圧戦で思い知らされた。それに高原制圧戦時代はまだ戦を知っているものが多かった。エレギオンもよく攻められていたから。

 それと高原制圧戦ではエレギオン軍は弱かったけど、高原諸都市の兵は長年の覇権争いのために強かったのよ。だからエレギオン軍にザラス・マウサルム軍が加わっただけで、レッサウなんてすぐに降伏したぐらい。ただ高原諸都市の武力も二百年の平和で地に落ちてると思うのよねぇ。

 エレギオン兵は弱いんだけど、士官クラスの養成だけはやってた。これも実は大変で、食えない時の農民重視政策、カネがない時の職人重視政策のツケがたんまり出てて、士官養成所みたいなものを作ってはみたけど不人気の塊になってもてん。

 ちょっと話が長くなるねんけど、エレギオンにも貴族はおったんよ。ほいでもエレギオン貴族と言うても、国の成立からわかると思うけど、そんなゴッツイ門閥があった訳やないのよ。それに食糧事情がずっとギリギリやったもんで、貴族の私領を一切認めてなかったんよ。そんなんする余裕すらなかったってところ。貴族になったのは純粋に功績に応じたもの。

 国に対して大きな功績を挙げたものに対して爵位を授与し、年金みたいに爵位給を払っていたぐらい。これだって主女神が目覚めてるうちは全員永代だったけど、眠ってからの新たな貴族は子までに制限された上に、子が半分で打ち切り制にしてた。この辺はコトリが身分制を嫌いやったのが大きく影響してる。

 さらに永代貴族も二代貴族に移行させたった。そりゃ、もう反発喰らったけどコトリは譲る気はなかったのよ。ただねユッキーが言うのよね、

    「無駄飯食いの使い道はあるから、わたしに任せてくれない?」
 ユッキーはまず貴族の爵位給を三分の一まで削ることにしたのよ。こっちの方がコトリはビックリした。そうしておいて、削った予算を士官給に振り向けたの。そこでさらに条件を付けたのよ、
    『士官になった貴族は初代貴族として遇する』
 コトリの二代貴族制の骨抜きにも見えんこともなかったけど、見方を変えれば貴族が貴族でいたかったら、士官になる以外に道しか残さなかったってこと。もちろん反対は多かったけど、そこは女神政治、反対する者は災厄の呪いをかけて封じ込んじゃった。ユッキーの無駄飯食いの活用法とは貴族をもともとの貴族用予算で不人気の士官にしてしまうことだったの。

 最初はゴタゴタあったけど、年月とともに定着してくれた。とりあえず言うても貴族やから士官養成所の格が上がったの。それとあの頃はズオンやらリューオンやからの断続的な攻撃があり、そこで武勇を示すのは自然に国民から敬意をもって見てもらえるようになったの。

 そうなると貴族やからプライドがくすぐられたみたいで、士官であることに強い誇りを持ってくれるようになったの。戦場でもホンマに頼りになった。とにかく兵が弱いから、これを優秀な士官が支えるって感じかな。あの士官連中が支えてくれんかったら、エレギオンは滅んどったかもしれん。

 士官人気が上がったのは、これは特権やなくタマタマが多かってんけど、ユッキーもコトリも、さらに三座や四座の女神も士官貴族を自分の男に選ぶケースが多かってん。通商同盟が出来るまで断続的に戦争はあったし、そこで命を懸ける男に憧れてしもたってところ。やっぱり女って強い男に憧れるところがあるものね。

 この辺はユッキーの男には例外が多かったけど、ユッキーに選ばれた男は貴族でなくとも士官養成所に入ってた。これも士官養成所の特例みたいなみたいなもので、士官になれば世襲貴族でなくとも在任中は貴族に準じる扱いにするってのもあったから。

 なんちゅうかな、士官になるってのはエレギオンではイコールで貴族であり、女神の男に選ばれる予備軍みたいな位置づけになってた。そして誰もが女神に選ばれても恥しくない男になろうと自分を磨いてたと言えば格好良すぎるかな。そやから世襲貴族やなくても、誇りに燃えて士官養成所に応募して来るものも増えてた。もっとも単に女神狙いもおったけど養成所に入ると周囲に感化されてたぐらい。