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『カランカラン』
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「コトリ専務、今日はおかしいですよ」
「うん、まあ、ね」
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「行きたいんじゃないですか」
「うん、まあ、ね」
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「行けば良いじゃ、ありませんか。ミサキはもちろんですが、きっとシノブ常務も応援してくれます」
「うん、まあ、ね」
それでもコトリ専務にとってエレギオンの地は特別です。そうそう行くチャンスもあるわけじゃありません。そりゃ、パック旅行で気楽に行けるようなところじゃないからです。今回のチャンスを逃すと次がいつになるか、わからないぐらいのところです。
それにしても変です。コトリ専務は知恵の女神であり、もし本当に行きたければ、行けるように知恵を巡らすはずです。今夜だって、天城教授や相本准教授の目的を見透かすようにエレギオンの地図まで用意されていました。そこまで予測していて、他に何もせずに悩んでいるのは妙過ぎます。
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「どうして行かれないのですが」
「うん、まあ、ね」
「さっきから、そればっかりじゃないですか」
「ああ、うん、そうだね」
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「お仕事が休みにくのは承知していますが、エレギオンに行くチャンスなんて、そうそうはないじゃありませんか。何をそんなに悩まれているのですか」
「うん、まあ、ね」
「もう、コトリ専務、ホントらしくないですよ」
「ああ、うん、そうだね」
「コトリ専務!」
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「あれっ、あそこにイイ男が」
「えっ、えっ、どこどこ♪」
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『カランカラン』
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「あれっ、香坂さん。お久しぶり」
「御無沙汰してました。加納さんは」
「シオは台湾行ってるわ」
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「カズ君、エエとこに来てくれたわ。ちょっと悩みごとがあるんやけど、相談に乗ってくれる」
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「えっと、えっと、山本先生、こちらは立花小鳥さんです」
「香坂さんの同僚?」
「いえ、大先輩です」
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「大先輩ってどういうこと?」
「いえ、その、新入社員です」
「香坂さんの部下?」
「えっと、えっと・・・」
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「相談に乗ってあげるよコトリ」
「あれ、ユッキーの方が都合がエエわ」
「ところで今回もコトリでイイの」
「うん、立花小鳥になったから、今回もコトリよ」
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「エレギオンに行ける話が出てきてん」
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「う〜ん、それは問題ね」
「そう思うやろ、悩んでんねん」
「次は私も自信ないわ」
「コトリも・・・でも行きたい」
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「冷静に考えれば避けるべきかもしれないけど、割り切れないんでしょ」
「そうやねん」
「わかるよ、その気持ち。私だって飛んでいきたいぐらい」
「そうなるよね・・・」
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「コトリ、未練はないんでしょ」
「そんなもの、何千年も前になくなってるよ」
「ウソばっかり。未練がなければ、クレイエールになんかに戻るはずないじゃないの」
「そこ言われると辛いけど、それでも長くて五十年ぐらいやんか」
「そこまで待つ?」
「冷静に考えればね」
「でも、出来ないんでしょ」
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「ユッキーと一緒じゃないと意味がない」
「イイよ、私が面倒見るから」
「そうはいかない。一人になんかにさせるものか」
「コトリは、そう言いながら、命を弄ぶんだから信用できないわ」
「ゴメン、でもあの時は・・・」
「わかってるって、これでも心配してたんだから。ちゃんと次の宿主に乗り移るかどうかも含めてね。毎度毎度ハラハラさせられるんだもの」
「それもゴメン。でも終りにするなら・・・」
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「つらい、寂しい、ユッキーお願い」
「毎回毎回、もう数えきれないわ。私たち女神は宿主の体を借りて生きさせてもらってるのよ。だから、借りた体は大事大事に使うことで恩返しするのが義務よ」
「わかってる。わかってるけど・・・」
「こうなると知恵の女神も形無しね。さがしといて。私の好みは知ってるでしょ」
「さがしとく」
「それと帰りなさい。今日のコトリじゃカズ坊と話をしない方が良いわ」
「わかった」
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「香坂さん、悪いけど払っといてね。それと今夜はコトリを一人にしてあげて。ああなるのは持病みたいなものだけど、選りによってエレギオンとはねぇ。そりゃ、私だって誘惑に負けそうになるもの」