相本君が小島専務から聞いてくるエレギオン情報は興味深過ぎるものがあります。ボクもゆっくり聞きたいのですが、外で会食するにもおカネがありません。そりゃ、外食するぐらいのおカネはありますが、クレイエールの専務を接待するだけのおカネがないというか、どのランクの店なら失礼がないか見当がつかないと言うところです。
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「相本君、小島専務をお招きして話を聞きたいのだが、どれぐらいの接待をすれば良いのかわかるか」
「小島専務はあまりそういう点にこだわるタイプと思いませんが、まさかいつもの居酒屋って訳にも行かないかと思います」
「そうだよな。まだ個人的に親しいとも言えないし」
「教授、いっそご自宅に招かれては如何ですか。接待じゃなくて、発掘計画の検討みたいな名目で」
「えっ、うちか。まあ、名目がそれであれば、接待の質はあまりこだわらなくて良いのは確かだが・・・」
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「そんなおエライさんを家に招くなんて、かえって失礼じゃありませんか」
「おエライさんと言うだけならボクだって特任だけど教授だし」
「そりゃ、そうですが、その方はパトロンみたいな方でしょ。なにか御機嫌を損じるようなことがあれば大変です」
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「学生さんを招く時みたいにいかないし・・・」
「あれよりグレード・アップしないと」
「困ったわ」
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「ピンポ〜ン」
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「本日は私のようなものを、わざわざお招き頂き感謝の言葉もありません」
「いえいえ、むさくるしい所ですが、どうぞお上がりください」
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「天城教授、つまらないものですがお子様にでも」
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「さすがに細かい点まで自信がありませんが、現在の地形に照らし合わせての滅亡時のエレギオンの地図を作ってみました」
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「皆さまがこの地図の信憑性を疑いになられるのは当然ですが、今回に限っては私の指示に従って頂きたく存じます」
「その点は了承しているが、女神の神殿の地下室とは大きいものですか」
「残っていればお話ですが、かなり大きなものです」
「なにが入っているのですか」
「残念ながら金銀財宝の類は期待されない方が良いかと存じます。これも可能性としてゼロではありませんが、まず残っていないと思います」
「他は?」
「それも掘り当ててからのお楽しみにされる方がよろしいかと。きっと皆さまはそちらでも満足されるかと思います」
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「プロジェクトの準備の方は香坂に担当させておりますが、何か不備な点などございますか」
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「あなた、あの人が小島専務?」
「そうだよ」
「随分どころじゃなくお若いですねぇ」
「いや、君より年上だ」
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「ところでエレギオンは女神の神政であったとしてだが、実権は女神に仕える神官の政治の理解で良いかな」
「いいえ違います。女神による直接統治です」
「それは女神になったというか、選ばれた者による統治かね」
「いえ違います。女神そのものによる統治です」
「一種の巫女みたいなものとか」
「違います。女神の能力をもつ者による統治です」
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「その神は人かね神かね」
「人である神です」
「その神は死ぬのかね」
「人ですから死にます」
「死ねば入れ替わるだよね」
「人は入れ替わっても神は変わりません」
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「わかりにくいかもしれませんが、神は人に宿り、宿られた人は女神になります。人が死ねば神は宿る人を替えます」
「それは宗教的概念としてありえるが、死んだ神と新たな神は同じ宗教を奉じるとしても別人だろう」
「違います。神は記憶を受け継いで宿主たる人を移ります」
「記憶を受け継ぐとは?」
「何十代、何百代に渡ってのすべての記憶を受け継ぎ覚えているのです」
「そんなことが・・・」
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「お信じになって頂けるとは思っておりません。皆様方は私のオツムをお疑いになっているのも存じております」
「いや、そんなことは決して・・・」
「別に構いません。信じろと言うのが無理なことです。ただ、お願いがあります。今回の発掘調査が終わるまで無理やりでも信じて頂きたいのです。調査後に私の言葉が間違いであれば、存分にご批判ください」
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「ボクも相本君も、いや古橋教授だってそうなんだが、小島専務のお話はあまりにもリアリティというか臨場感がありすぎると感じてる。どう聞いたって、その場に居合わせた人ではないと出来ない話なんだよ」
「それで」
「笑わないで聞いて欲しいが、ボクはタイムトラベラーじゃないかとまで考えたんだ。タイムトラベラー自体が荒唐無稽も良いところなのだが、小島専務の話になるとタイムトラベラーと仮定しても説明しきれないぐらいなんだ」
「あら、答えは先ほど申し上げましたのに。女神は永遠の記憶を受け継ぐのです。ある種のタイムトラベラーかもしれませんが、SFのように行ったり戻ったりはできません」
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「小島専務はエレギオンのすべてを覚えておられるのか」
「さあ、本当に覚えているかどうかは発掘成果でご確認ください」
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「では今月中にも出発の準備を完成させるように香坂に申し渡しておきます。出発日は来月中旬目途で手配させます」
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「それと相本さん」
「なんでしょうか小島専務」
「貴女には今回の発掘プロジェクトで私の秘書役みたいな役目になって頂きます」
「具体的には」
「あははは、今と同じようなものです。大学側との連絡役みたいなお仕事です。天城教授も了解頂けますか」
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「了解しました」
「では、今からそうだとさせて頂いて宜しいですか」
「それも了解だが、具体的には」
「とりあえず準備も追い込みですから、弊社にいてもらう時間が長くなります」
「すべて了解した。では相本君頼むぞ」