そうそうミサキもクリスチャンになってます。マルコとイタリアで結婚式を挙げた時に入信したぐらいです。その方が波風立たないとも思ったのは白状しておきます。日本人にとって仏教からキリスト教に改宗したからと言って『あ、そう』ぐらいの反応しかなく、ミサキ自身もそんな感じですが、それでも一応クリスチャンです。
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「コトリ専務、イエスとは何者だったのでしょう」
「キリストはんか、そうやなぁ、新興宗教の教祖ぐらいかな」
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「やはり神だったのでしょうか」
「そうだって、聖書に書いてあるやん」
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「やはり神のような奇跡を起こされたのでしょうか」
「会うてへんから、その辺はよう知らん。それにキリストはんが生きとった時代はマイナーやったし」
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「でもコトリの一族みたいな神やったら、かなり特殊なタイプやと思う」
「かなりとは?」
「とりあえず武神とは思えん。考えられるとすれば男の恵みの神の生き残りになる」
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「これは自信があらへんけど、女の恵みの神もほぼ絶滅状態で、他に会ったことが無いぐらいやねん。下手したらアラッタの時の主女神が最後の生き残りに近かったかもしれへん」
「そんなに少なかったのですか」
「そうやねん。ただ生き残ってる可能性だけはあるねん。とにかく武神は覇権を目指すから表に出てくるし、出会えば必ず殺し合いになるんやけど、恵みの神は静かにしとったら、そうそう見つからへんのよ」
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「恵みの神にとって武神は天敵みたいなものやけど、非常に強大な力を持つ恵みの神なら、ほとんどの武神の目から逃げることが出来たとも言われてる」
「だったらイエスが男の恵みの神の可能性は残ると言う事ですね」
「まあゼロではない。聖書に書いてあることがある程度事実やったら、イエスが起こした奇跡は恵みの神の能力でほぼほぼ説明可能やねん。たとえばやで、マタイ伝の十七章一節の
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『かくて彼らの前にてその状かはり、其の顏は日のごとく輝き、その衣は光のごとく白くなりぬ。』
こうなっとるけど。これぐらいシノブちゃんでも出来るやんか」
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「これもマタイ伝やけど二十一章十九節の、
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『路の傍なる一もとの無花果の樹を見て、その下に到り給ひしに、葉のほかに何をも見出さず、之に對ひて「今より後いつまでも果を結ばざれ」と言ひ給へば、無花果の樹たちどころに枯れたり』
これぐらいコトリでも出来るやんか」
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「もう一個、これもマタイ伝で悪いけど十四章十四節の、
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『イエス出でて大なる群衆を見、これを憫みて、その病める者を醫し給へり。』
これはミサキちゃんでも出来るで」
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「それにマリヤの受胎告知の話やけど、これはルカ伝一章二十八節からやけど、
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『御使、處女の許にきたりて言ふ「めでたし、惠まるる者よ、主なんぢと偕に在せり」』
いっつもそうしてる訳やないけど、出産前の胎児に宿る事も可能やねん。もっともそれしたら、出産の時に死んでもたら共倒れになりかねへんから、あんまりせえへんかったけど」
「それじゃあ、死後の復活なんて、女神にとっては普通というか、恒例行事みたいなものになりますね」
「そういうこと。復活の予言だって出来るやん。もちろんやけど、女神だって出来るというだけで、同じ種類の神とは断定はできへん。なにせ会うたことないし」
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「でもイエスの生まれ変わりはどうなったのでしょう」
「いっぱいおるやんか」
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「とりあえず男の恵みの神は知らんから推測になるけど、アラッタの時の主女神はイエスぐらい慈悲深かったと思うねん。そやけど、そこから千年ぐらい主女神の生まれ変わりと付き合ったけど、正直なところ殆どハズレやった。イエスの生まれ変わりもそうやったんちゃうかな」
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「イエスが恵みの神の傍証として使徒の祓魔師の存在があるやんか。あれはユッキーと似た能力で、相手の神を自分に取り込んでしまうんや。これはユッキーだって、たぶんやけど女神相手にしか使えへん」
「使徒の祓魔師も女神には使えなかったみたいですものね」
「そういうこと、なんか取り込もうとしてたみたいやけど、あれじゃ、通用せえへんよ。でも性懲りもなく何度も来たんは、女神相手にやったことなかったんやろな」
「でもどうしてイエスは使徒たちにそんな能力を授けたんでしょう」
「護身用やろ。恵みの神は武神に弱いし、目の仇にされるところがあるからな」
「イエスが自分でやれば良かったのじゃ」
「これも『そんなもの』ぐらいしか言いようがあらへんねんけど、アラッタの主女神の事からわかるのは、人に与えられても自分では使えない能力があるみたいやねん。たぶんやけど、種類の違う能力の共存の限界みたいな感じかな。とにかくイエスもかなり力を持った神であったのは間違いないけど、記憶の引き継ぎ能力だけは欠いてみたいやし、それを他の神に与えることも出来んかったんやと思うで」
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「ところで使徒の祓魔師と女神の仲が悪かったのは聞きましたが、恵みの神同士で争うのでしょうか」
「そこもわからへんとこやねんけど、とりあえず使徒の祓魔師もキリスト教徒になる率は高いやんか。これは時代が下るほどそうなるやん」
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「神を宿す人より劣るけど、使徒の祓魔師を宿してる人も出来がエエわけやねん。そういう出来の良い奴はキリスト教の坊さんになる率が高かったみたいやねん。でもって出世もするんよね」
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「これも『たぶん』ぐらいの話やけど、使徒の祓魔師の究極目標がエレギオンの女神を倒すことになってた感じがするねんよ」
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「全部返り討ちにしたけど、余計に恨みを買ったのかもしれへん」
「抱えていた武神を式神として使われたんじゃないのですか」
「ビックリするぐらい雑魚ばっかりやった」
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「もう一つ聞いてもイイですか」
「な〜に?」
「ベネデッティ神父にしろ、教皇にしろ富への執着が強いですが、使徒の祓魔師に共通するものでしょうか」
「ちゃうと思うで。だいたい聖職者も上に行くほどカネに執着するのは多いのよ。これは聖職者に限らずやけどな。その性格が強調されて反映してるだけ」