女神伝説第2部:最終作戦会議

 偽カエサルが魔王型の武神であり、ベルモンド社長から誰かに乗り換えて再び襲ってくる懸念が強いので、これへの対策を話し合いたいとの事で、ミサキの家に集まろうとコトリ部長は提案されました。いつもシノブ部長の家ばかり相談場所に使っているので、本当はそうしたかったのですが、うちには誰か人を呼ぶのに偽カエサル並の脅威があります。

 どんなに警戒してもマルコが料理に手を出す懸念が払拭できないのです。マルコが料理に手を出したら、大変な事になりますから、シノブ部長のところにまだ小さいお子様がおられるのを理由にシノブ部長の家に変更してもらいました、あれを食べさせるわけにはいきません。ウッカリ食べて悶絶するか、空腹に耐える羽目になるかの二択になるからです。

    「やあ、いらっしゃい」
 佐竹次長が出迎えてくれましたが、いつも、いつも、すみません。これも申し訳ないと思いましたが夕食も頂きました。もちろんマルコも来ています。コトリ部長は偽カエサルの現在の状況の見方の説明を始められたのですが、
    「偽カエサルの組織は資金繰りに困ってると見ている。理由としては・・・」
 ダメだってコトリ部長。こんなところでラブホのミックスランチ定食の話を持ちだしたら。もうミサキは必死になって頑張って、魔王型の組織なら引き続きマルコを狙って来る結論だけの話に強引にしました。当然ですが前回の誘拐事件の悪夢がよみがえり、皆さんに緊張感が走ります。
    「ただね、前回とは変わってくると思うの」
    「どこがですか」
 また何かトンデモ観測が出て来ないかヒヤヒヤしましたが、
    「まずだけど前回の失敗で偽カエサルの戦力はかなり落ちてるはずよ」
 あれだけの逮捕者が出ましたから納得です。
    「でも新たな応援を呼び寄せるとか」
    「そこまでの組織かって問題と、おそらくだけど前回に逮捕された連中はかなりの精鋭部隊だったと見て良いと思うの」
 ここでマルコが、
    「山本先生も手強かったと言ってました」
 そうなんだ。
    「もう一つ、違いがあって、今はコトリがいるのよ。この差は小さくないわ」
    「どんな出方をすると見ますか」
    「一番厄介なコトリを排除してくると思うの」
 考えてみれば前回もコトリ部長がまずターゲットにされたと見て良いと思います。佐竹次長も頑張ってくれましたが、ああいう場にコトリ部長が居るか居ないかは大きな差になります。
    「結局のところ、魔王戦の再現になると考えてる」
 悔しいですがミサキはもちろんですが、シノブ部長でも戦うとなれば不慣れなのは確かです。申し訳ないですが、矢面にコトリ部長が立ってもらわないと致し方ないところがありますが、ここで強烈な不安が、
    「まさかコトリ部長、前に話していた新戦術を使うつもりとか」
    「あれ? あれはやめた」
    「やはり巻き添えリスクを」
    「あっ、それもあったんや。ミサキちゃんイイこと言ってくれた。下手すりゃ、偽カエサルと心中になってまうものね」
 やっぱり気づいてなかったんだ。あんな状態から一撃を繰り出したら、そうなるに決まってるやんか。ミサキはあきれ返ってましたが、皆さんは単に魔王戦で使われた密着状態からの一撃のリスクについての話と思ってくれたみたいです。それは、それで良かったのですが、これでは新戦術を中止にした理由がわかりません。
    「では気絶した後の姿の問題ですか」
    「ああ、言われてみれば。素っ裸で見つけられるのはイヤだななぁ。ミサキちゃん、よくそんなところまで気が回るね」
 回らいでかい。つうか、せっかく『気絶した後の姿』って遠まわしに言ってるのに、どうしてモロに『素っ裸』っていうのよ。皆さんが疑問を持ち始めている気配をヒシヒシと感じます。ここで誰かが素っ裸である理由を聞いたりすれば、コトリ部長は一週間連泊による絞り尽くし作戦を嬉々として話し出すに違いありません。そんな隙を作っては絶対にならないので畳み込むように、
    「では、どうして」
    「熱中しすぎて、一撃食らわすのを忘れるリスクがあると思ただけ」
 アカン・・・皆さんの頭の中で『素っ裸』と『熱中』の二つの言葉が結びつこうとしてる。そんなコトリ部長の話を何があっても聞かせてはいけません。だって、コトリ部長の新戦術のキモは、魔王戦の時のような服越しの密着じゃなくて、お互い素っ裸で完全すぎるほどの超密着状態からの一撃狙いなんです。急いで話題を変えなくては、
    「ミサキたちに手伝えることはないですか」
    「子持ちと妊婦には無理な仕事よ。コトリが一人でカタを付けてくる。どうせ呼び出されるのはコトリだし」
 ここで佐竹次長がついにやってしまいました。この質問は出て欲しくなかった。
    「小島本部長、偽カエサルは魔王より強いのですか」
    「ミサキちゃんにも聞かれたのやけど、偽カエサルはバ・・・」
    「バ、バイエルン・ミュンヘンのファンなんですってね。なんかビックリしました」
 コトリ部長の口から『バ』が出た瞬間にミサキは必死になって誤魔化しました。そのままにしておくとベッドの上の強弱を言い出すに決まってるからです。皆さんからも、コトリ部長からも『ミサキは何を言い出すの?』って顔されてしまい。佐竹次長が再び、
    「へぇぇ、偽カエサルはバイエルン・ミュンヘンのファンだったんだ。それはともかく偽カエサルと魔王ではどちらが強いと思われますか」
 佐竹次長しつこい。そんなに偽カエサルと魔王でどっちがベッドで強いかのコトリ部長の講釈が聞きたいのですか。ここはなんとしてもコトリ部長がバイアグラの話題を出す前に封じ込めないと。
    「コトリ部長、武神の戦闘力としてはどちらが上ですか」
    「そうねぇ、基本能力が互角の力の女神と武神がまともに戦ったら一〇〇%武神が勝つわ。女神は戦いにホントに向いてないの。だから女神は武神との戦いは避けるの。でもね、工夫次第で勝てないこともないの。だってクソエロ魔王にも勝ったじゃない。今度だってきっと何とかなるわよ。コトリには必勝の新たな秘策があるの」
 偽カエサルは脅威だ。もちろん再び誘拐騒動に巻き込まれる現実的な脅威が一番なのですが、頼りにしているコトリ部長からトンデモ発想の偽カエサル分析や、偽カエサル対策が飛び出ないようにするだけで、くたびれ果てました。あんなものシノブ部長や佐竹次長が聞いたら、コトリ部長への信頼や信用が失われてしまいます。マルコだってそう感じるはずです。

 コトリ部長は、格好良くて、スマートで、知的で、仕事が良く出来て、姉御肌で面倒見が良くて、それでいて綺麗で、エレガントで、可愛気もふんだんにあって・・・女としての理想像なのです。そんなコトリ部長の素敵なイメージをミサキは守る義務があります。本当は無いかもしれませんが、ある事にしてます。

 コトリ部長だって男とアレしたって構いませんし、アレしたからと言ってコトリ部長の評価は傷一つ、つきませんが、さすがに偽カエサルとのアレを暴露してもらうと困ります。ましてやアレからの連想の話や、アレを利用しての新戦術なんてもっての他です。ミサキが守らなくて誰が守ってくれると言うのですか。そうやって内心で息まいていたら、

    「今日のミサキちゃんおかしいよ。コトリの話を遮ってる気がする。まあ、肝心なことは話せたからイイけど」
 どこが肝心か知っておられるのなら、どうして余計なトンデモ発想の部分を話したがるのですか。今日だってミサキがいたから良かったようなものだけど、まるでマルコが料理に手を出すのを見張ってるぐらい疲れ果てました。ヒョットして、だからコトリ部長とマルコは恋人状態にまでなったのかなぁ。キャラが合ってるとか。それでもなんとかコトリ部長のイメージは守り通せた気がします。誰も褒めてくれないけどミサキは満足です。皆さんも対偽カエサル戦をコトリ部長に一任する結果に申し訳ないと思っているようですが、戦うとなれば他に良策も無く、
    「知恵の女神がそういうのなら・・・」
 そうやって納得してくれましたが、ミサキにはわかってしまいました。コトリ部長はまたデタトコの土壇場勝負に賭けるつもりだって。コトリ部長の結論にまで持っていく思考過程はトンデモですが、結論は常に正しいの不思議さがあります。さすがに知恵の女神と呼ばれるだけの女です。デタトコの土壇場勝負だって数えきれないぐらいしていて、そのすべてに勝ち抜いてきたから今のコトリ部長がおられるはずです。それはわかっているつもりですが、ミサキは猛烈に不安。なにやらかすんだろう。