部屋に帰るとコトリ部長は、
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「シャンパン飲みたい。ホント聖職者と飲む酒は愛想無いから嫌い」
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「今夜は教皇庁の奢りだからリッチしようね。じゃあ、カンパ〜イ」
「それとミサキちゃん、やっと仕事も終ったから帰国の手配しておいてくれる。明日はローマ観光したいから、明後日の便でよろしく」
「かしこまりましたと言いたいですが、ジュエリー・ブランドの発見は良いのですか」
「ミサキちゃん、聞いてなかったの。エレギオン・ブランドはうちの会社も使えるようになったじゃない」
「そりゃ、そうですけど」
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「どうしてムソリーニ失脚後に行方がわからなくなったのですか」
「行方が分からなくなったのではなくて、ほとんど死んじゃったの」
「ムソリーニ殺されたのですか」
「違うよ米軍だよ」
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「そこまで知ってたのに、イタリア中のジュエリー・ショップ見て回っていたのですか」
「あははは、ムソリーニが連行し損なっているのもいるかもしれないと思ったし、残った一人か二人の子孫からの広がりの可能性もあると思ってたの」
「そりゃ、そうですが」
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「じゃあ、ヴァチカンが密かに保護したお話は?」
「あれは生き残ったエレギオンに注文出しただけの話」
エレギオンも徒弟制度なんですが、かつてはエレギオンの血を引く者のみしか弟子入りは出来なかったそうです。とはいえ薄まって広がり尽くしていますから、今では自称でもOKになっているそうです。日本人でも弟子入りした者がいるそうですから、誰でもOKみたいです。
弟子入りして腕を磨いていくのですが、何段階かの試験があるようです。この段階試験も親方の流儀によって異なるそうですが、共通しているのは最高ランクの試験で認められない限り、エレギオンの金銀細工師は名乗れないだけでなく、エレギオンで修業したことを口にするのも禁じられているようです。
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「ではエレギオンの金銀細工師は、現在何人いるのですか」
「コトリが知る限り二人よ」
「たった二人だけ・・・」
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「アテはちゃんと付いてるから、だいじょうぶ」
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「コトリ部長、エレギオンの五人の女神が、わざわざ日本に逃げたのは理由があるのですか」
「それねぇ、たぶんエレギオン人にその頃に残っていた伝承に頼ったと考えてる」
「伝承?」
「うん、ベネデッティ神父はエレギオン人の祖先をシュメール人にしているけど、シュメール人は日本人の先祖って説もあるのよ」
「でも、それはちょっと怪しい説では」
「そうなんだけど、言語構造が膠着語である点や、幾つかの言葉が日本語と共通点があるのは否定できないところよ」
「でも、それもこじつけって説の方が・・・」
「考古学的な真否はここで論じても仕方ないのだけど、五人の女神が日本に逃げた頃に、メソポタミアから日本に渡ったシュメール人がいたとの伝承があったかもしれないぐらいに思ってる。だからこそ、日本から流れ着いた女性を保護したんじゃないかなぁ」
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「五人の女神はその日本人女性を同族と考えたので保護し、逃亡先として同族の住む日本を選んだってことですか?」
「そうでも考えないと、わざわざ日本まで行く理由がないのよね。これの記憶はおそらく首座の女神か、主女神なら残っているかもしれないけど、コトリじゃ、これ以上はわからないわ」
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「日本に渡った五人の女神は記憶を封印してるのですが、その封印を解くには主女神か首座の女神に会うのがカギってなってましたよね」
「そうだよ」
「コトリ部長の記憶の封印が解けたのはシノブ部長に会ったからですか」
「なに言ってるのよ、シノブちゃんに初めて会ったのはシノブちゃんが入社してからだし、シノブちゃんが天使になったのは二年ちょっと前なのよ」
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「じゃ、いつ主女神なり、首座の女神に会われたのですか」
「高校の時」
「えっ?」
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「シャンパンじゃ、ビールのあの苦みのパンチがないのよね」
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「コトリ部長、記憶の封印が解けるってどんな感じですか」
「う〜ん、段々に思い出しってくるって感じかな」
「エレギオンの歴史のすべてが甦るのですか」
「そうなるかもしれないけど、そうじゃない感じがする。覚えているのは女神としての能力とそれに関連するものが中心ってところじゃないかなぁ。何千年もすべて覚えていたら化物じゃない」
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「コトリ部長の人格はどうなるのですか?」
「コトリはコトリだよ。それを言えばシノブちゃんはシノブちゃん。そんなに人格変わってるように見える?」
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「でも天使になれるって羨ましいですね」
「そう?」
「だって、こんなに綺麗になれるし、いつまでも若々しいし、仕事だってあれだけ出来るのですから」
「ミサキちゃんもなりたい?」
「そりゃ、なれるものならなりたいです」
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「シノブちゃん、どう思う」
「使いようですけど、幸せになった天使は少ないのですよね」
「シノブ部長、そうなんですか」
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「わかっている範囲で天使は十一人確認できているの。もっとも一人は主女神だけど」
「そんなにいるのですか」
「明治からだけどね。そのうち現時点も含めて幸せと言える天使は、二人か、三人。存在だけで名前も経歴もわかんない人もいるけどね」
「そんなに少ないのですか」
「もちろん、何が幸せかは主観によって変わるけど、天使だからと言って誰もが人も羨むような幸せな人生を送れる訳じゃないの。コトリ先輩だって、あれだけ恋い焦がれた男とついに結ばれなかったもの」
「シノブちゃん、あれは相手が悪かった。もっとも、それは今となってわかったことだけど・・・」
「ミサキちゃん、天使にはあれこれ能力はあるけど、基本は普通の人なの。結婚が幸せのすべてと言う気はないけど、天使であっても自分の恋した男の正体とか、その行く末は見えないの」
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「ヒョットしてコトリ部長が敗れた相手は」
「そういうことなの。世の中、わかんないものね」