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「いらっしゃいませ、結崎様。ご案内させて頂きます」
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「結崎君、来てくれてありがとう。まあ、座りたまえ」
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「あのぉ、私の顔になにか付いてますか」
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「たしかに」
「いや、これ程とは」
「結崎君であるのは間違いないが」
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「どうかされました」
「いや、高野常務から結崎君は変わったと聞かされていて、どれだけ変わったのか気になっていたのだが、正直な話、驚いている」
「いや、まったくです。高野常務を信用していなかったわけではありませんが、ここまでとは」
「いや、私だって、ほんの先日、会った時に較べても見違えるようです」
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「結崎君、じろじろ見て悪かった。とりあえず食事にしよう」
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「小島君が入社した時のことを思い出したよ」
「私も同感です。あの時は高野常務に持っていかれて、どれだけ悔しかったか」
「総務部では歓迎会というより祝勝会でしたからね」
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「いくらなんでも、小島課長との比較は言い過ぎかと」
「いや、単なるお世辞じゃない。君も知っていると思うが、小島君の美しさについては、今でも絶対なのだ。社内で美人を語る時に小島君はある意味、評価の外なんだよ。完全に別格扱いなのだ」
「だったら・・・」
「気を悪くしないで欲しいが、君の美しさの評価は、君に気に入ってもらって機嫌を取ろうとしたものじゃないのだ」
「と仰いますと」
「高野常務から聞いた、山本先生の影響を確認するためだったんだ」
「そうなんだ。正直な話、社長も私も高野常務の話については疑わしいと思っていたのだよ。いくらなんでも、そんな短期間に人が変われるものではないってな。そりゃ、恋する女が少しは綺麗になるのは知っているが、あれは容貌が変わったと言うより、恋する事で表情が明るくなるとか、オシャレに気を使うようになったとかで説明できる部分が多いんだ」
「そんなに変わりましたか」
「襖が開いた瞬間に魂消たよ。ウソでもなんでもない、目が眩んでしまったのだ。驚いたなんてものじゃないよ」
自分で言うのもなんですが、あの時にバーにいた男性客の視線は、私と加納さんで五分五分でした。そうなんです、あの加納さんがいても、私が無視されてしまうことは起らなかったのです。そうなると三人の私への評価は、お世辞でもなんでもなくて、本当にそうなのかもしれません。高野常務が、
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「それにしても、前に一緒に食事してからでも変わり過ぎてる気がするのだが」
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「会っただけで、これだけ変わってしまうのか。社長、これは」
「うむ、私もそう思う。綾瀬専務の意見はどうだ」
「いたしかたないと存じます」
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「結崎君、これまでご苦労だった。非公式ではあったが、我々の期待によく応えてくれたと思う。君への評価は必ず行うと約束する。君は、この件から下させて欲しいとの希望であったが、今日はなんとか妥協点を見つけるつもりだったのだ。だが、それもあきらめた。ただ、職場が同じだから、たまたま聞き知った情報があれば、せめて、それだけでも伝えてくれないか」
「無理を言って申し訳ないと思っています。御要望については、かならず行うと約束します。ただ・・・」
「ただ、なんだね、何か希望があれば言ってみなさい。出来る範囲のことなら、やってあげるが」
「希望ではなくて、もう手遅れかもしれないのです」
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「四回目になったからかね」
「はい。あの時はとくに話をしたわけではありませんが、傍にいただけで、もう・・・」
「どうなるのかね」
「小島課長から聞いたのですが、山本先生を好きになると言うのは大変な覚悟が必要と仰ってました」
「どういう意味かね」
「山本先生こそが世界一イイ男で、山本先生を好きになってしまったら、他の男では満足できないようになってしまうと」
「君もそうなってしまったのか」
「それだけではないと思います。山本先生を世界一イイ男と見抜ける女は、限られてるとも小島課長は仰いました。それを即座に見抜ける女ほど、山本先生の影響を多大に受けると」
「たった四回でそこまでなってる結崎君は・・・」
「そういうことです」
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「小島君もそうなのか」
「はい、間違いなく」
「君も辛いね」
「お気遣いありがとうございます」