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「結崎君、ラクにしてそこにかけ給え」
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「君にわざわざ来てもらったのは、又聞きの報告を聞くより、直接会った君の口から聞いた方が良いと判断したらなんだよ。正直に見たもの、聞いたもの、感じたものを話してくれたら良いからね」
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「まずなんだが、加納志織さんに実際に会ってみた感想はどうだったかね」
「それは綺麗な方でした。私が生きてきた中で、一番綺麗と自信を持って言えます。写真やテレビで見るより数倍は綺麗で、素敵な方です」
「小島君よりもかね」
「小島課長と加納さんはタイプが違います。それこそ女神様と天使でどちらが好まれるかは人によって変わるかと思います」
「やはりそれほど美しいのかね」
「すぐ近くに座らせてもらって見ていましたが、本当に息が止まるかと思いました」
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「お静かに。お二人の様子はいかがでしたか」
「それは仲睦まじそうで、事情を知らなければ恋人同士にしか見えませんでした」
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「お静かに。結崎君をあまり緊張させないように御協力お願いします。さてだが、その様子を聞いて小島君はなんと言っていたかな」
「はい、とくに感想は仰られませんでした」
「なにもか」
「仰られたのは、シオリちゃん、じゃなかった加納さんは綺麗だったでしょうと」
「小島君は加納志織さんをシオリちゃんと呼んでいたのか」
「そうです。私が見る限り、お二人は仲の良い友達に思えました」
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「お静かに。今は結崎君から情報を聞いている時間だ。討議はこの情報を基に行う予定だ。もし聞いておきたいことがあるのなら、ちゃんと質問して聞きなさい」
「社長、よろしいですか」
「どうぞ」
「結崎君と言ったね」
「はい」
「小島君は、加納志織さんとその男性が仲睦まじくしていても、そのことに関してとくに感想を漏らさなかったとのことだが、君の感じた範囲で理由がわかるかな」
「それは、おそらくですが、小島課長も同様に二人でお会いしているかだと思われます。つまりは、お互い様状態なので、その程度のことで感想がなかったんじゃないかと」
「なるほど。ではまだ負けた訳ではないのだな」
「恋の勝負でいえば、有利も不利もまだないかと」
「ありがとう」
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「相手の男性はどう思ったかね」
「はい、第一印象は正直なところイマイチでしたが、お話すればするほど魅かれてしまう方でした」
「どういうところに魅かれるのかな」
「たんなる優しさをこえた優しさを感じました。とにかく話していると、心が温かくなっていく感じです」
「魅力的かね」
「おそらく何度も会えば、多くの女性が魅かれてしまうのではないでしょうか」
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「小島君の様子はどうだったかな」
「はい、相手の男性の話をする時の目は間違いなくメラメラと燃えていました。ちなみに加納さんも同様です」
「そんな小島君の目を見たのは初めてかな」
「はい、初めて見ました」
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「最初に又聞きより、直接聞いた方が参考になると仰いましたね」
「そうだが」
「それなら、私ではなく小島課長をお呼びになればいかがでしょうか」
「それは、その・・・小島君には直接知って欲しくないのだよ」
「でも、こうやって小島課長に直接会った後に、長時間の質問を私が受けただけで勘付かれるのではないでしょうか」
「うむ。君の言うとおりかもしれん。我々も小島君の情報が欲しい余り、焦ってしまった点に配慮が足りなかった。次回からはもう少し考える」
「次回って・・・まだこんなスパイみたいな事を続けるのですか?」
「君の言いたいことはわかる。本来なら、いくら社員であっても個人の恋愛まで立ち入ることはないのだが、小島君だけは違うのだ。大げさではなく我が社の浮沈に関する大問題なのだ。悪いが業務命令に準ずるものとして協力してくれ。それ相応の報いは約束する」