駿介叔父さんが監督を引き受けるかどうかは、四月になってウチがどれだけ頭数をそろえられるかどうかなんだけど、せめて駿介叔父さんが監督になってくれるまで四人の現部員を鍛えたいんだよね。とはいえウチは野球ファンであって野球経験者じゃないのよ、そのうえ女。女はあんまり関係無いかもしれないけど、別にスポーツとかやってたわけじゃないからね。
とにかく監督不在だからどうすれば良いかわからないのよ。キャプテンもやる気はあっても、キャプテンも中学からの野球経験者じゃなくて、高校になって始めた人。実はって話じゃないけど、残りの一年も同様。長年の監督不在のツケは大きくて、練習というか練習方法もエエ加減と言うか、それ未満なのよね。普通の野球部なら監督が指導するだろうし、そういう指導を中学ぐらいから受けてたら、見よう見真似でもやれるんだろうが、うちの部員はヘッポコ野球部の純粋培養そのものなのよ。
だからヘッポコなんだけど、ホンマに言いたくないけど同好会レベル以下の情けなさ。校内球技大会でさえ期待されない戦力扱いなのよね。でしょ、でしょ、普通の野球部やったら、そういう時には審判とかで試合に参加しないとかになりそうなもんやのに、うちの部員はクラスの代表でさえ補欠扱いなのよ。ウチからみても、もっとマシというか上手そうなのが帰宅部にいるからね。
とりあえず去年の冬はどうしてたんだとキャプテンに聞いてみたら、
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「冬は基本的にお休みでした」
キャプテンと相談しても、
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「どうしたら良いかわからない」
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「野球の練習は無理やろな」
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「基礎体力作りぐらいやろな」
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「とりあえず、これやらさせてみ」
さっそく次の日からやらせてみたんだけど、二割も満足に出来へんのよね。四人ともそれぐらいで悲鳴を上げて倒れちゃった。とはいえ、他に練習方針がある訳でもなく、駿介叔父しか頼れる人がいないから、ハッパかけてひたすらやらせたんだ。でも続ければなんとかなるもので、一か月ぐらいしたら半分ぐらい出来るようになって、一か月半ぐらいでなんとか、かんとかこなせるようになったんだ。もう三月だけどね。ウチは得意気に駿介叔父に報告に行ったんだけど、
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「やっとか」
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「リンドウさん、まだ練習増えるんですか?」
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「よっしゃ、やるぞ」
ただ次のメモの練習量をこなせるようになる頃には桜が咲き始めてた。駿介叔父の反応からして、この程度は基礎体力作りでも初歩段階もエエとこぐらいの気がするんやけど、こんな進み方で大丈夫かの不安はテンコモリやった。ほいでも、今のウチではこれぐらいが精一杯なのが残念無念。ウチはGMであっても監督じゃないからね。うちのヘッポコが野球部らしくなるには、やっぱり監督は絶対に必要やと、練習やらせながらホンマに痛感したわ。
とにかく春だ、四月だ、桜だ、新入生が入ってきた。ここが部員をそろえるラストチャンスなんだ。ここでウチがなんとかしないと、監督も来ないし、監督が来なければ甲子園への道は終ってまうかもしれへんやんか。頭数九人のために新入生から五人も引っ張り込むのだけでもハードル高いけど、そのうえピッチャーか。どっかに転がってたら拾いにいくけど、そうはいかへんし。アマゾンや楽天にも売ってないやろし、売ってても高いやろし。ヤフオクにも出てへんやろな。
とにかく頑張るしかない、いやなんとかするのがGMのウチの仕事やし、ウチの夢のためや。この関門を乗り越えるためには手段は選ばへんぞ。