リンドウ先輩:初詣の決意

 ウチは野球に命を懸ける熱血少女、竜胆薫。コチコチのトラキチにして高校野球大好き。夢はウチの在学中に母校が甲子園に出場すること。本当は優勝して欲しいだけど、せめて県代表になって甲子園のアルプス席から応援したいんだ。

 だから受験の時には親とも、担任教師とも、もめた、もめた、大もめしたんだ。ウチの志望校は極楽大付属。極楽教という新興宗教がやってる高校だけど、いわゆる野球強豪私学。ここ十年で六回も甲子園に行ってるから、ここにさえ入学しとけばウチの甲子園の夢は叶ったも同然だったはずなんだよ。

 ところが親も担任教師も大反対どころか、話にさえ乗ってくれなかったんだよ。理由はわからなくもなくて、極楽大付属は野球こそ強いものの、入試は答案用紙を字で埋めたら合格すると噂されてるレベル。だから勧められたというか、無理やり押し付けられたのが県立の進学校の明文館高校。

 ウチはゴネまくって、せめてすべり止めに極楽大付属を受けさせてくれって頑張ったけどあえなく却下。あれは、もしそうすれば、明文館の方は白紙答案にされかねないと真剣に危惧されたからと思てる。つうか、その気マンマンだったんだけど。

 入ってしまったものはしょうがないから、母校の野球部に期待したいところやけど、これが情けないぐらいに弱い。旧制中学以来の伝統校やから野球部も歴史だけは長いんやけど、ウチが入学するまで夏の予選は八年連続初戦敗退。慢性的な部員不足で春秋季大会すらずっと出場できてないんだよ。

 ウチが一年の時も一回戦コールド負け、二年の時には夏さえ部員が足りなくなって助っ人を入れて出場したけどコールド負け。ちなみに初戦コールド負けは五年連続更新中なんだ。現在の部員は二年が一人、一年が三人の四人だけで、野球部の存続自体の危機が真剣に心配されてる。

 かくしてウチの甲子園の夢は果てしないものになってるけど、ウチはまだあきらめていないの。ウチはどうしても甲子園に行きたいの。見守ってるだけじゃ、どうしようもないからウチが直接乗り出すことに決めたんだ。

    「パンパン、今年こそ甲子園に行けますように」
 賽銭は奮発して五百円にした。もう五百円出して絵馬も書いといた。ただおみくじ引いたら凶だった。縁起が悪いから引きなおしたらまた凶だった。コンチクショウともう一回引いたら末吉だった。う〜ん、あまりにも前途多難の予感しかしないわ、こりゃ。でもこれぐらいじゃ、挫けないよ。今がどん底なら後は上がるしかないやんか。そう思おう、そう思おう。

 そうそう直接乗り出すってさっき言ったけど、ウチもマネージャーとして野球部に入ったんだ。マネージャーと言ってもユニフォーム洗ったりはしないよ。ガハハハ、あんなもんガラに合わへん。ウチがやるマネージャーはGMつまりジェネラル・マネージャーだよ。

 GMとして甲子園を目指すにはうちの野球部に足りないものを埋めていくこと。足りないものと言っても、全部足りないんだけど、とにかく一つずつ埋めていかないと話が進まないんだよねぇ。まともに考えたら絶望しかないんやけど、絶望するぐらいやったらGMなんかしないよ。甲子園はウチの夢、夢を実現させるのは今年の夏が最後だもん、このウチがどんな手段を使ってでも甲子園に連れて行くんだ。

 それでね、初詣の帰り道に思いついたんだ。まず足りないもののうちで監督を探そうって。だって監督のいないチームが甲子園なんかに行けるはずがないやんか。実はね、これだけはアテがあるの。アテはあるんだけど、引き受けてくれるかなぁ。アカン、アカン、弱気になったらアカン。うちの野球部を甲子園に連れていくために弱気はあかんの。なにがあっても『うん』と言わせなきゃ。いや、なにがあっても『うん』とこのウチが言わせてみせる。ここで転んだら、そこで甲子園の夢が終わってしまうんや。

今年の野球部のための初仕事はこれに決めた。まずちゃんとした監督を据えるの、そこに今年のスタートのすべてをかけよう。ウチをなめたらアカンで、この竜胆薫が監督にさせると言ったら絶対なんや。