塚本明広氏のピラミッド・テキスト:翻訳と注解(1)からのすべて引用です。
ゼーテの章分類 | ローマ字翻訳 | 邦訳 |
第1章 | Dd_mdw jn nw.t ;x.t wr.t | 恵み深く大いなるヌトによる呪文 |
z; pw smsw (ttj) | wp X.t | テティ王こそは長子、(我が)胎を開いた者 | |
mrj.j pw Htp.n.j Hr.f | 彼は私の愛する者 | |
第2章 | Dd_mdw jn gb | ゲブによる呪文 |
z; pw (ttj) | n X.t | テティ王こそは(我が)身の子 | |
第3章 | Dd_mdw jn nw.t c; Hr.t_jb Hw.t Xr.t | 下宮の中央の偉大なるヌトによる呪文 |
z; pw (ttj) | mrj.j | テティこそは私の愛する子 | |
wtjw Hr nz.t gb | ゲブの(玉)座の上の長子 | |
Htp.n.f Hr.f | 彼(ゲブ)は彼(テティ)を喜び | |
Dj.n.f n.f wc.t.f m_b;H psD.t c;t | 大いなる九神の前で彼に相続権を与えた | |
nTr.w ng.w m Hccw.t Ds.sn | 歓喜の中にある全ての神々は言う | |
nfr.wj (ttj) | | 素晴らしきかなテティ | |
Htp jt gb Hr.f | 父ゲブは彼を喜ぶ |
まず「Dd_mdw」はピラミッドテキストでは呪文だそうで、「jn」は唱えるになるそうです。ここでは「wr.t」と「;x.t」は大いなるぐらいの副詞にも形容詞にもなるのだそうです。たとえば
-
Dd_mdw jn nw.t ;x.t wr.t
ファラオは神ぐらいは私も知っていますが、問題なのは何故にファラオは神であるかです。王が神であるという思想は天皇家が現存する日本人なら、さして抵抗なく受け入れられるものではありますが、天皇が神である理由は遥か高天原の神の直系の子孫が天皇である点に基づいているぐらいで良いかと思います。言い換えれば天皇は神の血を受け継いだ末裔だから神であるです。ファラオもそうかというと少し違う感じがします。
-
z; pw smsw (ttj) | wp X.t
神が人間の女性と結ばれ神との合いの子を産む神話はギリシャ神話であったと思います。そんなゼウスの浮気を嫉妬したヘラが怒って、神との合いの子であるにもかかわらず数奇な運命をたどるパターンです。日本神話にあったかどうかは思い出せませんが、スサノオが櫛名田比売を妻にしたのがある意味該当するのかもしれません。しかしピラミッドテキストの世界はかなり様相が違うようです。テティはヌト女神から産まれ出たと書かれています。これが第1章なんですが第2章では
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Dd_mdw jn gb
-
z; pw (ttj) | n X.t
- ゲブの(玉)座の上の長子
- 大いなる九神の前で彼に相続権を与えた
- ゲブとヌトの子どもが母親に受胎した
- ゲブが人間の男親に、ヌトが人間の女親に同一化して子供を産んだ
ここに書いた神々のうち
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アトゥム、シュウ、テフネト、ゲブ、ヌト、オシリス、イシス、セト、ネフティス
無理やり解釈すれば、オシリスは冥界にいるのでその分身であるテティが現世にいるというか、テティがオシリスの分身(ないし化身の方がエエかも)であることを神々が認めているというぐらいです。というのもそうでも解釈しないと次の文章の解釈が難しくなります。
ゼーテの章分類 | ローマ字翻訳 | 邦訳 |
第4章 | Dd_mdw jn nw.t | ヌトによる呪文 |
(ttj) | rDj.n.j n.k sn/t.k ;s.t | テティよ私は汝に汝の妹のイシスを与えた | |
nDr.w.s jm.k | 彼女が汝を抱え | |
Dj.s n.k jb.k n D..t.k | 彼女が汝自身の心臓を汝に与える(ように) | |
第5章 | Dd_mdw jn nw.t | ヌトによる呪文 |
(ttj) | rDj.n.j n.k sn/t.k mb.t_Hw.t | テティよ私は汝に汝の妹のネフチェスを与えた | |
nDr.w.s jm.k | 彼女が汝を抱え | |
Dj.s n.k jb.k n D..t.k | 彼女が汝自身の心臓を汝に与える(ように) | |
第6章 | Dd_mdw jn nw.t nxb.t wr.t | 多産にして大いなるヌトによる呪文 |
mrj.j pw (ttj) | z;.j | テティは我が愛する者、我が子 | |
rDj.n.j n.f ;x.tj sxm.f jm.sn | 私は彼に彼が(そこで)支配する地平を与えた | |
Hrw ;x.tj js | 地平のホルスのように | |
nTr.w nb.w Dd.sn | 全ての神々は言う | |
bw m;c pw | これは真実である | |
mrj.T pw (ttj) | m_m ms.w.T | テティこそは汝の子らの中で汝の最愛の者 | |
stp_z; Hr.f D.t | 永久に彼を守れ | |
第7章 | Dd_mdw jn nw.t Hrt_jb Hw.t Snj.t | シェニト宮中央の偉大なヌートによる呪文 |
z; pw (ttj) | n jb.j | テティは我が心の子 | |
rDj.n.j n.f dw;.t xht.f jm.s | 私は彼に彼が(そこを)司るべき冥界を与えた | |
Hrw js xntj dw;t | 冥界を司るホルスのように | |
nTr.w nb.w Dd.sn | 全ての神々が言う | |
jw jt.T Sw rx | 汝の父シューは知る | |
mrr.T (ttj) | r mw.t.T tfnt | 汝がテティを汝の母テフヌトよりも愛することを |
ここも次回で考察を加えますが、とにかくピラミッドテキストの世界ではオシリス・イシス・ネフティスはある意味セットになります。ほいでもって地平とは現世世界であり、冥界はあの世ですが、オシリスの子であるホルスは父であるオシリスを暗殺したセトを倒し地上の王となり、さらに死後は冥界にも君臨するのが神話だったはずです。エジプト神話はその時々に崇拝される神によって神話での役割が変遷する気配がありますが、ここまで読んだピラミッドテキストでは「どうも」なんですが、
- ホルスは冥界の支配者
- オシリスは復活の神
たった7章読んだだけ(相当へばりました)で何か言うのは無理がアリアリなのですが、漠然と思い浮かべたのはイエスです。まず受胎ですがギリシャ神話系の神が人と交わるではなく、神が直接イエスをマリアの胎内に宿らせたとなっています。ここはチト強引ですが、ユダヤ教は一神教ですから夫婦神の存在がないので単為生殖になっていますが、古代エジプトは多神教であり夫婦神もその子どもの神も普通にいますから、有性生殖になっているだけと見れない事もありません。。
受胎のエピソードの類似性は強引かもしれませんが、死から復活のエピソード、さらには死後の神とイエスの関係はピラミッドテキストに似ている気がしています。まずまずイエスが復活できたのは神の子であったからで良いと思います。これは古代エジプトで復活できるのは神の分身であるファラオに限られていたのと類似しています。もっと気になるのは復活後で、イエスと神(と聖霊)の関係は三位一体説で定義されるとなっていますが、簡便にwikipediaより、
三位一体説は高校ぐらいの歴史教科書にも出てくるぐらい有名なものではありますが、その実態の説明は相当でないレベルで難しいとなっています。なにしろ
上述の諸教会において、三位一体は、「三神」(三つの神々)ではない。また「父と子と聖霊は、神の三つの様式でしかない」「神が三役をしている」といった考え(様態論)も否定される。
私のような多神教徒では神学的真意は永久に理解できないにしろ、姿形は違えどもすべては同じ神であるの考え方自体はそれほど抵抗なく受け入れられます。これは古代エジプトにおいても、ファラオはオシリスであり、オシリスは冥界に住み、ファラオは死後にオシリスと同一化すると説明されても「そんなもんだ」であんまり無理なく受け入れられた気がします。つうか三位一体説は唯一神は分割されない絶対の前提が神学としてあるため、単純に説明できる分身や化身を完全否定しているので話が難解になっている気がしないでもありません。
前にも書きましたが、聖書に出エジプト記が残されているぐらいユダヤ民族はエジプトに長期間住んでいたわけで、古代エジプトの宗教観に影響を受けなかったとする方が不自然です。完全な外野からすると、古代エジプトではファラオにのみ許されていたオシリスとの同一化、さらにはそこからの復活の宗教観を反映させていた気がどうしてもします。まあ宗教論を書くともめ事の火種になるので与太話はこの辺にしておきます。