診療所数統計

元ソースは医療施設調査です。まずは全国の動向です。指標は人口10万人対の診療所数で表しています。つまりは人口10万人当たり何ヵ所の診療所があるかです。


確認できる範囲では1970年代半ばから1990年ぐらいまでは横這い傾向であったのが、1990年ぐらいから増加傾向に転じているのがわかります。これが2007年まで一本調子で増えた後に再び頭打ち傾向を示しています。色んな要因はあるんでしょうが、どうも現研修制度導入後に表面化した医師不足現象、さらに勤務医の負担増大などとはあんまり関連性が見られそうにないぐらいとしても良さそうです。ちなみに10万人当たりの診療所数は2012年で78.5ですが、ごくごく単純に平均すると1ヵ所当たり1273.9人になります。もちろん診療科特性、開業地域の年齢構成などにより一概に言えませんので「そんなもんだ」ぐらいでお願いします。

次は定番の都道府県ランキングです。

人口10万人対診療所数
平均以上 平均以下
和歌山 108.8 群 馬 78.4
島 根 103.1 秋 田 77.2
長 崎 101.1 岐 阜 76.6
徳 島 98.3 高 知 76.3
東 京 96.1 石 川 75.5
京 都 94.6 福 井 73.7
大 阪 93.2 長 野 72.9
広 島 91.0 静 岡 72.7
山 口 89.4 滋 賀 71.9
兵 庫 89.2 神奈川 71.7
福 岡 89.1 栃 木 71.4
鳥 取 89.0 富 山 71.3
愛 媛 88.4 新 潟 71.2
奈 良 85.5 福 島 71.2
岡 山 84.2 岩 手 70.5
鹿児島 83.7 宮 城 69.5
香 川 83.2 愛 知 68.8
三 重 82.8 青 森 66.1
大 分 82.3 北海道 62.0
佐 賀 82.2 沖 縄 59.7
熊 本 82.0 千 葉 59.5
山 形 81.0 茨 城 58.2
宮 崎 80.2 埼 玉 57.0
全国平均 78.5
へぇぇ、和歌山が1番多いんだ! てっきり徳島か東京あたりが来ると思ってましたが、徳島は島根、長崎に次いで4位です。最下位は診療所数でも埼玉で、後は茨城、千葉と医師数でも下位に来る県が並びます。意外だったのは愛知と滋賀が少なく平均以下だった事です。見にくいですが全国マップも作ってみました。
当たり前と言えば当たり前ですが、医師数の分布と同様に診療所数も西高東低になっているのが判ります。次は伸びを見たいのですが、なかなか一覧で示すのが難しいので、過去15年間を5年毎に区切ってソートしてみます。黄色背景は平均未満の都道府県です。
1997→2002 2002→2007 2007→2012 1997→2012
全 国 3.60 全 国 3.50 全 国 0.60 全 国 7.70
香 川 7.60 奈 良 8.80 山 梨 5.00 奈 良 20.30
鹿児島 7.20 鹿児島 6.90 奈 良 4.60 岐 阜 14.40
奈 良 6.90 岐 阜 6.10 滋 賀 4.50 鹿児島 14.20
鳥 取 6.30 長 野 5.60 秋 田 4.30 秋 田 14.10
佐 賀 6.20 岩 手 5.60 三 重 3.60 山 形 14.10
大 阪 6.10 三 重 5.40 山 形 3.40 和歌山 12.60
沖 縄 5.80 徳 島 5.40 岐 阜 3.30 三 重 12.40
群 馬 5.60 山 形 5.30 愛 媛 2.60 山 梨 12.40
福 島 5.60 和歌山 5.10 福 井 2.40 滋 賀 12.30
宮 崎 5.40 福 島 5.00 和歌山 2.40 沖 縄 12.30
山 形 5.40 宮 崎 4.80 石 川 2.30 香 川 12.00
徳 島 5.40 山 梨 4.80 佐 賀 2.30 愛 媛 11.90
栃 木 5.30 群 馬 4.70 岩 手 2.20 佐 賀 11.70
秋 田 5.20 秋 田 4.60 静 岡 2.20 群 馬 11.30
愛 媛 5.10 沖 縄 4.50 高 知 2.10 長 崎 11.30
和歌山 5.10 兵 庫 4.50 熊 本 2.00 岩 手 11.10
岐 阜 5.00 栃 木 4.50 沖 縄 2.00 福 島 10.70
長 崎 5.00 神奈川 4.40 長 崎 2.00 栃 木 10.50
宮 城 4.80 長 崎 4.30 宮 城 1.80 宮 崎 10.40
千 葉 4.70 愛 媛 4.20 愛 知 1.80 兵 庫 10.30
茨 城 4.50 福 井 4.20 兵 庫 1.70 長 野 10.00
滋 賀 4.40 茨 城 4.20 長 野 1.60 宮 城 9.30
兵 庫 4.10 埼 玉 4.10 埼 玉 1.60 大 分 9.20
島 根 4.10 大 分 4.00 大 分 1.40 茨 城 9.20
新 潟 4.00 大 阪 3.90 富 山 1.30 大 阪 9.10
京 都 3.90 滋 賀 3.40 北海道 1.30 徳 島 9.10
大 分 3.80 福 岡 3.30 香 川 1.20 石 川 8.90
福 岡 3.80 佐 賀 3.20 群 馬 1.00 神奈川 8.70
神奈川 3.80 香 川 3.20 岡 山 1.00 埼 玉 8.40
石 川 3.60 愛 知 3.00 福 岡 0.90 福 井 8.40
三 重 3.40 静 岡 3.00 栃 木 0.70 静 岡 8.30
岩 手 3.30 石 川 3.00 島 根 0.60 福 岡 8.00
静 岡 3.10 広 島 2.80 茨 城 0.50 愛 知 7.70
熊 本 3.00 宮 城 2.70 神奈川 0.50 島 根 6.90
愛 知 2.90 青 森 2.60 宮 崎 0.20 熊 本 6.10
長 野 2.80 山 口 2.50 鹿児島 0.10 高 知 5.30
埼 玉 2.70 島 根 2.20 福 島 0.10 新 潟 5.20
山 梨 2.60 東 京 2.10 山 口 0.00 千 葉 5.20
高 知 2.30 北海道 1.70 新 潟 -0.20 北海道 5.20
北海道 2.20 京 都 1.70 広 島 -0.80 鳥 取 4.60
富 山 2.10 岡 山 1.70 大 阪 -0.90 富 山 4.40
福 井 1.80 千 葉 1.60 千 葉 -1.10 京 都 4.20
青 森 1.40 新 潟 1.40 鳥 取 -1.20 山 口 3.70
山 口 1.20 熊 本 1.10 京 都 -1.40 岡 山 3.60
岡 山 0.90 富 山 1.00 徳 島 -1.70 広 島 2.90
広 島 0.90 高 知 0.90 青 森 -2.80 青 森 1.20
東 京 0.40 鳥 取 -0.50 東 京 -3.00 東 京 -0.50
過去15年間の伸びNo.1はブッチギリで奈良。逆に伸び率が低いのが東京。15年間で唯一診療所数が減少しています。これもマップを作ってみました。
上の既存の診療所数のマップと様相がやや異なるのがわかってもらえるかと思います。診療所がもともと多いところにさらに増える傾向があると言うより、もともと少ないところに増える傾向も窺える感じもします。たったこれだけのデータで云々するのは難しいのですが、勤務医の動きとは少し違うものがある気がします。勤務医の指向が明らかに都市部にあるのに比べて、開業医は必ずしもそうではなさそうぐらいの感想です。私も当然開業経験があるのですが、開業場所の選択は悩ましいものです。ごくごく簡単に条件を並べると、
  1. 患者対象人口はどれぐらい見込めるか
  2. 開業適地はあるか
  3. 近隣の競合医療機関はどうか
  4. 後方支援病院はあるか
これぐらいは誰でも考えるところです。さらに手持ち資金の問題もあります。テンコモリの資金があれば良いのですが、殆どは借金で返済計画の展望も必要です。上記の条件をすべて満たすところがタマタマあれば良いのですが、どれかに目を瞑る必要が出てきます。個々の都道府県毎に言及していたらキリがないので伸びがトップの奈良と最下位の東京を比較してみます。

東京の診療所数は1970年代から殆ど変わっていないとしても良さそうな気がします。もちろん1990年から2007年ぐらいまで続いた診療所増加傾向の影響は東京にもありますが、2000年頃には頭打ち傾向を示し、全国的には増加傾向が頭打ちになった2007年頃からは減少傾向を示しています。これをどう解釈するですが、東京の診療所数のキャパシティが限界を超えていたと見ます。東京は言うまでもなく日本一の大都会で医師でなくとも憧れる人間は多いですが、大都会であるが故に住んで仕事をするには条件が悪い面があります。

医療は皆保険体制により料金は全国一律です。診療所で言えば、同じ診療科の同じ診療規模の診療所が同じ人数の患者を診察すれば全国同じだけの収入しかありません。東京だからプレミアが付くわけではありません。同じ収入に対し基本経費は東京の方が高くなります。具体的には人件費、家賃等々です。土地でも買おうものなら土地代だけでなく固定資産税も違います。経費が押しあがれば損益分岐点も高くなります。東京よりも診療所数が多いところは何故にそれだけ診療所が出来たかの理由はともかく、それだけの診療所が経営として成立できる損益分岐点が低いんじゃなかろうかです。同じ収入でも東京では赤字経営でニッチもサッチもいかなくなるのが、地方ではクリアしてしまうです。

伸びがNo.1の奈良が興味深いのですが、地理的に奈良は東京に次ぐ大都市の大阪に隣接しています。大阪も東京より安いでしょうが経費が高くなるところと見て良いでしょう。まず大阪で開業を考えたが、大阪であれこれ試算してもかなり厳しいの結果が出たとします。そこで少しだけ視野を広げると「奈良は格安のフロンティアだ!」てな見え方がするんじゃないでしょうか。奈良と大阪は生駒山が隔てているとは言うものの、交通圏的には近所ですから妥協の範囲内ぐらいの考え方です。だからドンドン流入が進んだぐらいの見方です。奈良が和歌山並みの基本経費だと仮定すればまだまだ余裕があるぐらいです。だから今でも伸びているです。

それでも岐阜、鹿児島、秋田、山形となると説明は難しくなります。開業時には故郷に戻りたいのエッセンスも大きいのか? それとももっと広域的に考えて食える可能性のあるところに乗り込んでいるのか? これはわかりません。なぜそこに開業したかの理由はタマタマの要素が大きすぎて一概に言えないからです。ただ一概には言えませんが、開業は事業ですから食えないところに乗り込むのは基本的に冒険です。乗り込んで成功しても限界的なパイの奪い合い状態ですから、一つ成功すれば一つ潰れる(下手すると一つ以上)ぐらいのサバイバル状態と見る事も出来ます。

そういうサバイバルを挑むよりも確実に食えるところの方を選択する傾向が診療所ではあるんじゃなかろうかと思っています。つまり診療所開業は市場原理により強く影響されているです。もう少し診療科別とかのデータを出した方が良いのですが、これは標榜科目の集計になってしまい、とてもまとめきれない点は御理解ください。


蛇足の傾向分析

半分ボヤキみたいなものですが、調べる前の予想として現在の診療所数は過去の人気の関係の反映、一方で現在伸びているところはキャパシティの余地のあるところぐらいの結果に落ち着くんじゃないかの考えていました。そういう仮説が立証できるかが元のテーマだったのです。診療所数はそんな感じでデータがまとまりましたが、伸び数の方はかなり微妙な感じです。割と仮説に近いのは近畿圏です。


京都、大阪のキャパシティが既に満杯に近くなり、周辺の兵庫、奈良、和歌山、滋賀に流れ込んでいると見ようと思えば見れます。兵庫も少なくはないのですが神戸に偏る傾向が強くて、他となると案外空いているところはあるぐらいです。それにしても和歌山は診療所数の密度は日本一なんですが、それもまだ増えています。よほど開業するのに魅力的な何かがあるんでしょうねぇ。しかしこれが首都圏になると様相が少し変わります。

東京が多分満杯状態なんだろうは上で考察しましたが、隣接する埼玉、神奈川、千葉、茨城がそんなに増える傾向を必ずしも示していません。とくに埼玉、茨城、千葉なんて開業条件(患者対象人口)からすると全国1位、2位、3位が並んでいるようなものであり、近畿圏で奈良とか和歌山に流れ込むようになっても不思議ないところです。そうなるのが自然の流れと思うのですが、どうみてもそうではなく、むしろ北関東から東北に増加傾向が見られます。ま、茨城はともかく埼玉、千葉は抱える人口数が多いので実数が少々増えても反映されにくいのはあるかもしれませんが、それだけで説明できるかどうかは不明です。東京で開業にチャレンジして死屍累々なんて様相があるのかしらん。

もっと不思議なのは中京圏です。


ここの中心は当然愛知になるはずですが、愛知の診療所数は必ずしも多いと言えずデータ上は平均以下です。つまり近畿圏や首都圏と違い中心のキャパシティにまだ余裕がありそうと言うところです。にも関わらず増えているのは愛知ではなく岐阜と三重です。さらに不思議なのは岐阜と三重の診療所数自体は愛知より多いのです。


あえての推測を考えると圏内面積(交通圏も含めて)の問題もあるのかもしれません。蛇足の項目に出したマップの縮尺は同じです。較べればわかるように近畿圏は比較すると案外狭いと言うのがあります。私は神戸に住んでいますが、他の近畿圏の県庁(府庁)所在地に余裕で日帰りで行けます。いや近畿の殆どのところは日帰り圏内としても良いかもしれません。それに比べると首都圏は遥かに広いです。ちょっとお隣感覚が相当違うのかもしれません。

近畿の三都(大阪、京都、神戸)は文化的にはあれこれ角を立てますが、交通圏内として考えれば御近所感覚です。また上下感覚も乏しいところがあります。上下感覚は三都同士はもちろんの事、滋賀、奈良、和歌山と言っても「えらい田舎」って感覚はそんなに強くないぐらいでしょうか。もちろん同じ府県内でも「あそこは田舎」みたいな感覚はありますが府県単位でそういう感覚は高くないぐらいです。だからあんまり抵抗なく隣接の県に流れやすい傾向があるのかもしれません。

首都圏、中京圏は住んだことがないので判らないのですが、そういう距離感覚、県単位のイメージ感覚がかなり違うぐらいは可能性としてあるのかもしれません。ただですが、のぢぎく県民は全国的に見ても県民意識が非常に低いところで、私の感覚がスタンダードかと言われると全く自信がありません。ですから、たとえば首都圏なら埼玉をスルーして栃木や群馬、さらに東北に流れる理由が思いつかないぐらいのところです。中京圏なら愛知をスキップして岐阜や三重に流れる理由です。


病院外来の勢力が強くて診療所外来が成立しにくいなんて事はあるのかな? それとも地元医師会の勢力が強くてなかなか開業できないとか。今どき、そんな事が・・・あるところはあるのかな? 最後のところは地元の様々な事情によるのでしょうが、これは私には調べようがないぐらいにさせて頂きます。とりあえず勤務医の流れと開業場所は少し違う傾向があるぐらいは言えるぐらいにしておきます。それにしてもこの手の調査分析は出してみないと結果がわからないのが辛いところで、なかなか思い通りの結果は出ないものです。