医師の偏在みたいなお話

昨日の病院数・病床数を踏まえた上でのお話です。病院医師の必要数は大雑把には病床数に比例します。現在は病院が在宅医療をやっているところもあるそうなので、その点の影響がどうなっているかは微妙ですが今日は計算できない(つうかデータが無い)ので置かせて頂きます。

まず2つのデータを並べてみます。

病院医師数は確実に増えています。一方で2002年(この年から医療施設統計に現れます)に療養病床が導入されてから一般病床数はガタンと減っています。病床あたりに必要な医師数は「一般病床 > 療養病床」になりますから医師数の必要数は病床数上では減った事になります。にもかかわらず現研修医制度導入時から地方での医師不足が顕在化しています。何故だになりますが、全国規模的には病院医師が東京に大量に流れ込むようになったからがFAで良いかと存じます。前にやった試算ですが、
  1. 都道府県の人口比に応じての適正医師数を計算する
  2. 旧研修医時代と現研修医時代で人口比の適正数との差をとり偏在とする
ここで大学病院の偏在があるので、これを除外した偏在のグラフを示します。
現研修時代になってから「有意」に東京への集中が激化しているのが確認できます。もう少しミクロで見ると都道府県内偏在が生じているとして良いでしょう。これは先日引用した宮崎県議のブログからですが、

  • 宮崎県の僻地の公的医療機関に勤める常勤医の数は、平成22年以降で55人、57人、57人、54人と増えずにむしろ減少しています。僻地に限らず市町村立医療機関に勤める常勤医も86人、85人、82人と減少傾向。平成26年の113人まで30人以上と大きな開きがあります。
  • 研修医の数は確かに3年前まで最悪の状態だったから、そこから宮崎大学の県出身医学生が卒業し始めたり、広報を強化したり、と様々な要素で増加傾向にあります。けれど、肝心の中核医療機関で必要な勤務医については結果が出ていません。

実際のところの宮崎県の病院医師数は次のグラフの通りです。

これが十分かどうかはさておき、宮崎県全体では減っておらず漸増傾向を保っています。県全体では増えているにも関わらず、田舎では増えていない、もしくは減少しているとはどういう意味があるかです。ここでステレオタイプの分析では「医師の都市部への指向」もしくは「田舎勤務の忌避」ぐらいが多いですが、その次を考えて欲しいと思います。医師だって普通の人間ですから都市部への指向もありますが、指向だけでは都市部の病院に勤務できません。つまり
    都市部には医師需要がしっかりある
あるからこそ指向すれば勤務できるわけです。都市部の病院だってボランティアで経営している訳ではなく、雇った医師数と上げてくれる収益の勘定で雇い入れている訳です。赤字覚悟で雇うなんてことはしません。算盤勘定が合うから都市部の病院は医師を雇うわけです。つまりと言うほどではありませんが、それだけ収益の見込める医療需要が都市部にはまだまだあるとして良いでしょう。

さらにをつければ、この程度の「偏在」では都市部、いや東京すら医師需要を満たす気配はまったく無いです。寡聞にして医師余りで困り果てている話は聞いた事がありません。むしろそれより都市部だって医師は足りないの話しか聞こえてきません。現在の田舎医師不足解消策が上手くいかない最大の理由がここにあると考えています。都市部勤務と田舎勤務のどちらが良いかの2択を選ばせれば都市部勤務が多くなります。全国レベルでは東京勤務であり、地方レベルではせめて県庁所在地勤務でしょうか。そうでなく田舎勤務が希望と言う人間だけでは埋まらないわけです。さらにその希望を満たす需要が厳然としてありますから、やっている事は

    本人の希望が可能であるにもかかわらず、それを捻じ曲げて田舎勤務に向かわせる
そりゃ無理があると言うところでしょうか。従来「捻じ曲げていた」医局人事が機能しなくなれば就職可能である都市部の病院に向かいやすくなり、そこには確実に需要が存在します。


もう少し考えてみたいと思います。医師は有限の資源が前提です。ある病院にかつて○○人いたから今は不足だ的な意見もありますが、本当にかつての○○人が現在も必要かどうかの妥当性です。もう少し言えば引き抜かれるのは都市部ですから都市部から引き抜いても本当に問題がないのかです。都市部は本当に医師が余っているのかの分析です。余ってない、いや不足しているから医師需要があると私は素直に思うのですが、都市部は医師が余っている「はず」で思考停止しているんじゃなかろうかです。そういうものを考えるのが地域医療講座的なところじゃないかの意見には私も賛成します。ただ現実の地域医療講座は、

    カネで大学から医師を買うところ
これを露骨にやると宮崎のように医局員全員逃散なんて事が起こるわけです。そりゃ全国どこの「オラが町」に東京の大病院並みの規模と陣容の病院があれば嬉しかろうとは思います。そういう整備を目指した時代もあったかと思います。しかしそんな夢のような右肩上がりの時代は終わっています。医療の質もまた変わっています。そのあたりを分析しなおした地域医療計画が求められる時代じゃないかと思う次第です。でもって、本当に医師が余ってきたらどうなるみたいな話を明日にする予定とします。