似たような統計物を何度もやっているのですが、今日もまた大まかな統計分析です。これまでやってきた一応の成果は、
- 前期研修先に出身大学、卒業県のこだわりは必ずしも強くない
- 一方で前期研修先の定着率は案外高い
-
算出不可能
- 同じ人口比(受験層)なら同じ数の医師が生れる
- これは47都道府県同じである
手法は1990年時点の5-9歳の全国人口比に従っての研修医数(医師期待数)を算出します。これに対して実際の都道府県毎の研修医実数がデータとしてあります。鮭の俎上率ならぬ帰還率は「医師期待数 / 研修医実数」で計算できる事になります(流出入の入れ替わりは推測できる範囲で後で考察します)。帰還率が100%以上であれば結果として他の都道府県からの流入者数が多い事になり、100%未満なら流出者数が多い事になります。47都道府県の表は毎度の事ながら大きくて厄介なのですが、帰還率が高いところからソートして示します。
都道府県 | 1990年時5-9歳 | 2010年時 | ||||
人口 | 比率(%) | 医師期待数 | 研修医実数 | 帰還率(%) | 過不足人数 | |
東京 | 565862 | 7.58 | 606 | 1409 | 232.5 | 803 |
京都 | 147448 | 1.97 | 158 | 265 | 167.8 | 107 |
岡山 | 117709 | 1.58 | 126 | 187 | 148.3 | 61 |
石川 | 70247 | 0.94 | 75 | 106 | 140.9 | 31 |
福岡 | 307521 | 4.12 | 329 | 438 | 133.0 | 109 |
和歌山 | 64465 | 0.86 | 69 | 84 | 121.6 | 15 |
沖縄 | 101639 | 1.36 | 109 | 132 | 121.2 | 23 |
神奈川 | 450166 | 6.03 | 482 | 579 | 120.1 | 97 |
大阪 | 489671 | 6.56 | 525 | 624 | 119.0 | 99 |
愛知 | 404924 | 5.42 | 434 | 489 | 112.7 | 55 |
福井 | 51758 | 0.69 | 55 | 57 | 102.8 | 2 |
鳥取 | 40146 | 0.54 | 43 | 44 | 102.3 | 1 |
徳島 | 50812 | 0.68 | 54 | 55 | 101.0 | 1 |
兵庫 | 329979 | 4.42 | 353 | 343 | 97.0 | -10 |
高知 | 48829 | 0.65 | 52 | 50 | 95.6 | -2 |
島根 | 48131 | 0.64 | 52 | 45 | 87.3 | -7 |
山口 | 93088 | 1.25 | 100 | 85 | 85.2 | -15 |
滋賀 | 82828 | 1.11 | 89 | 75 | 84.5 | -14 |
栃木 | 127108 | 1.70 | 136 | 115 | 84.5 | -21 |
奈良 | 85280 | 1.14 | 91 | 76 | 83.2 | -15 |
広島 | 173639 | 2.33 | 186 | 153 | 82.3 | -33 |
長野 | 128327 | 1.72 | 137 | 112 | 81.5 | -25 |
香川 | 61112 | 0.82 | 65 | 52 | 79.4 | -13 |
千葉 | 343921 | 4.61 | 368 | 292 | 79.3 | -76 |
三重 | 109572 | 1.47 | 117 | 93 | 79.2 | -24 |
大分 | 76747 | 1.03 | 82 | 65 | 79.1 | -17 |
愛媛 | 93640 | 1.25 | 100 | 79 | 78.8 | -21 |
岐阜 | 128070 | 1.72 | 137 | 108 | 78.7 | -29 |
山形 | 78298 | 1.05 | 84 | 66 | 78.7 | -18 |
長崎 | 107268 | 1.44 | 115 | 89 | 77.5 | -26 |
熊本 | 121117 | 1.62 | 130 | 98 | 75.5 | -32 |
岩手 | 90576 | 1.21 | 97 | 70 | 72.1 | -27 |
群馬 | 121822 | 1.63 | 130 | 92 | 70.5 | -38 |
北海道 | 345826 | 4.63 | 370 | 257 | 69.4 | -113 |
宮城 | 149685 | 2.00 | 160 | 110 | 68.6 | -50 |
富山 | 63983 | 0.86 | 69 | 46 | 67.1 | -23 |
青森 | 97852 | 1.31 | 105 | 69 | 65.8 | -36 |
山梨 | 51715 | 0.69 | 55 | 36 | 65.0 | -19 |
秋田 | 73871 | 0.99 | 79 | 51 | 64.5 | -28 |
静岡 | 230858 | 3.09 | 247 | 158 | 63.9 | -89 |
佐賀 | 60104 | 0.80 | 64 | 38 | 59.0 | -26 |
茨城 | 187349 | 2.51 | 201 | 114 | 56.8 | -87 |
鹿児島 | 123006 | 1.65 | 132 | 73 | 55.4 | -59 |
新潟 | 153655 | 2.06 | 165 | 88 | 53.5 | -77 |
埼玉 | 392988 | 5.26 | 421 | 223 | 53.0 | -198 |
福島 | 142911 | 1.91 | 153 | 78 | 51.0 | -75 |
宮崎 | 81034 | 1.09 | 87 | 30 | 34.6 | -57 |
計算する前からの予想通りと言えますが、東京が圧倒的な帰還率の高さを示しています。実に医師期待数の2.3倍以上です。さらに東京はもともと人口が多いところなので、実人数でもこれに比例して大きなものになっています。帰還率が入超なのは東京も含めた13都府県ですが、東京以外の12府県を足しても600人です。この年の研修医数は7998人ですから、東京の吸引力の強さが際立つと言うより圧倒的なものであるのが改めて確認できます。 ちなみに北海道・東北・関東エリアで入超なのは東京と神奈川だけ(合わせて900人)ですが、その他の12道県の出超は768人。帳尻を合わすにはさらに新潟、富山、石川、福井、山梨、長野ぐらいまで含める必要があります。もちろんこれらの出超県の行き先が必ずしも東京では無いでしょうが、全部そうであってようやく埋め合わせが出来るぐらいの規模です。 なにかと話題の東北ですが、一番帰還率が高い山形で78.7%、岩手も70%を越えていますが、福島になると51.0%と半分ぐらいになっています。しっかし宮崎の34.6%ってのもなかなか凄いところです。まあ、下位に並んでいる県は何かと話題の多いところが目に付きますから、そういう点からデータの信憑性の裏付けぐらいになるかもしれません。帰還率と実人数のグラフも付けておきます。
関東信越 | 医師期待値 | 研修医実数 | 帰還率 |
東京・神奈川 | 1088人 | 1891人 | 173.8% |
それ以外 | 1614人 | 1169人 | 72.4% |
関東信越をモデルにしたのは、他ブロックからの流入者の多くが東京・神奈川に集まってるんじゃなかろうかの観測からです。実情は存じませんが、どうせ関東信越に行くのなら花の東京かそれに準じる横浜ぐらいに行きたいだろうの単純な発想です。この観測が合っていれば東京・神奈川以外の帰還率は70%(ないしはそれ以下)ぐらいじゃなかろうかです。
- 故郷に戻りたい
- 故郷から出たい
この東京で医学生になった後ですが、「故郷に戻りたい」の意志に変化が起こる事は十分に予想できます。東京と地方(ぶっちゃけ田舎)では生活の刺激に格段どころで無い差があります。この刺激に慣れ親しんでしまうと、故郷の田舎は猛烈に退屈な場所に変わります。たまに帰って「ノンビリしたい」ぐらいには良くても、暮らし続けるには色褪せた場所になり耐え切れなくなります。これは医学生だけではなく普遍的な現象としても良いと考えています。まあ、若者が都会の生活に憧れるのは当たり前と言えば当たり前のお話です。そうやって東京の医学部で学ぶ暮らしていくうちに
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都会の絵の具に染まらないで帰って♪(by 太田裕美)
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これから東京の高齢化が進み、ますます医師の需要は増す
地方への医師増加のためのヒモツキ枠は地方公立医学部を中心に広く行われています。詳細に調べた事があるのは弘前大ぐらいですが、
AO入試 | 40 | |||
一般入試 | 青森県定着枠 | 10 | ||
その他枠 | 55 | 青森県修学資金特別枠 | 5 | |
青森県修学資金一般枠 | 20 | |||
青森県修学資金学士枠 | 5 | |||
純その他枠 | 35 |
AO入試もヒモツキですから7割ぐらいはヒモツキ枠になっています。医学部定員が近年急拡大されたのは周知の事ですが、増えた分は殆んどヒモツキ枠になっているとして良さそうです。従来からの分も弘前大のようにヒモツキ枠化が進んでいるところも広がっていると仄聞します。これは北海道、東北というブロックで考えると即物的な効果はあると考えますが、一方で東京・神奈川以外の関東では厳しくなるんじゃないかの観測があります。
単純な玉突き現象みたいなものでヒモツキ枠による囲い込みは県外への流出者の減少になります。ヒモツキ枠の適用は出身地ではなく、出身大学の道県に縛り付ける効果になるからです。上記した関東信越モデルで考えるわかりやすくなるかもしれません。まず東京・神奈川は減らない、もしくは減りそうなら減らないように対抗策(東京地方枠とか)を立てるとします。そうなると関東信越への流入者が減った分を関東信越内からかき集める事になります。今日の試算では医師期待値1614人に対し研修医実数1169人ですが、ここから東京・神奈川にさらに引き抜かれる事になります。
こういう囲い込みが激化しても関東信越のうち栃木、群馬、山梨、長野あたりはまだ良いかも知れませんが、埼玉、千葉は完全にお手上げになると言うところです。ヒモツキ枠で囲い込みをやりたくても、自県の医学部生だけでは全然足りなくなると言う事です。埼玉や千葉に回ってくるには、
- 道県の医師需要が満腹になり囲い込み政策を緩和する
- 東京・神奈川の医師需要が満腹になりあふれ出す
ブログ休み中にこのデータとあれこれ格闘したのですが、色々やった割にはツマランものになったのを遺憾とさせて頂きます。統計物はやり始める前の意図が結果として出るまでわからないのが特徴で、出ると思ったデータが出ない事も多々あるのがシンドイところです。もう少し煮詰められる予定だったのですが、なかなかうまくはいきませんでした。