流星の貴公子・苦闘の4歳編

当時の競馬の雰囲気

私の記憶も相当怪しいのですが、テンポイントに先立つ3年前(4歳クラシック基準)に怪物とまで言われたハイセイコーが活躍しています。ハイセイコーの活躍はそれまでなんとなく日陰の扱いであった競馬を、一挙に日の当たるメジャーな物に引き上げるぐらいの社会現象を引き起こしたと言っても良いかと思います。それこそ競馬は知らなくとも、小学生までハイセイコーの名前を知っている状態です。一種のアイドル(ホース)みたいな感じです。私もハイセイコー人気に引きずり込まれるように競馬の世界に関心を持ったわけです。

当時の競馬で良く使われた用語に関西馬関東馬てなものがありました。関西での競馬予想で良く用いられ、有力馬は○○だが関西馬の△△の活躍を期待して印を付けるなんて解説が良く出ていました。これも何の説明も無く使われるために、長い間、関西馬とは関西出身の馬の事だと無邪気に信じ込んでいました。ところが実際はそうではなく、

馬の産地は関係なく、厩舎の所属による色分けと知ったのは恥ずかしながら相当後年です。そういう表現が頻用されたのは、プロ野球で言う阪神巨人戦みたいな乗りなんでしょうか。プロ野球も出身地より所属球団が重視されるところがありますが、当時(今でもかな?)の競馬ファンは厩舎を見ただけで関西馬関東馬がすぐに判ったのかもしれません。

ただなんですが、この東西分類法は関西のファンには当時相当重かったようです。つうのも、当時は圧倒的に関東馬が強く、関西馬の劣勢時代だったからです。1973年から1975年の4歳馬(現3歳馬)クラシック戦線の成績を出しておくと、

桜花賞 皐月賞 オークス ダービー 菊花賞
1973 ニットウチドリ ハイセイコー ナスノチグサ タケホープ タケホープ
1974 タカエノカオリ キタノカチドキ トウコウエルザ コーネルランサー キタノカチドキ
1975 テスコガビー カブラヤオー テスコガビー カブラヤオー コクサイプリンス


関西馬キタノカチドキ1頭しか勝っていないのです。どうも当時の関西の競馬ファンはこの関東馬優勢の時代に切歯扼腕していたようです。そこに登場したのがテンポイントになります。関西のファンの期待を一身に背負っての登場ぐらいと言えば雰囲気はわかってもらえるでしょうか。私もわからないなりに、まるで阪神を応援するようにテンポイント応援に肩入れしていったのをうっすら記憶しています。


鮮烈のデビュー

4歳(現3歳。以下同じ)クラシック戦線に参加した馬がまず目指すのは皐月賞になります。その皐月賞までのテンポイントの戦績です。

馬齢 日付 競馬場 競走名 距離 馬場 頭数 人気 着順 騎手 1着馬(2着馬) 2着の差
3 1975/8/17 函館 新馬 1000 9 1 1 鹿戸明 (グランドヤマトシ) 10馬身
1975/11/9 京都 もみじ賞 1400 14 1 1 鹿戸明 (タカミオーラ) 9馬身
1975/12/7 阪神 阪神三歳ステークス 1600 11 1 1 鹿戸明 (ゴールデンタテヤマ) 7馬身
4 1976/2/15 東京 東京四歳ステークス 1800 6 1 1 鹿戸明 (クライムカイザー) 半馬身
1976/3/28 中山 スプリングステークス 1800 6 1 1 鹿戸明 (メジロサガミ) 不明


デビュー戦から阪神三歳ステークスまで圧勝。この時点で関西馬期待の星になったのは言うまでもありません。その後ですが、競馬に詳しくないので良くわかりませんが、異例の東上を行ったとされます。東京四歳ステークスとスプリングステークスです。この2戦も勝ってはいますがそれまでの関西での圧勝劇に較べると接戦になっています。それだけ関東馬のレベルが高かったのか、テンポイントの調子が下り坂であったのかは私にはわかりません。


テンポイント言えばトウショウボーイと言われるぐらいの名馬ですが、こちらも皐月賞を目指します。

馬齢 日付 競馬場 競走名 距離 馬場 頭数 人気 着順 騎手 1着馬(2着馬)
4 1976/1/31 東京 新馬 1400 18 1 1 池上昌弘 (ローヤルセイカン)
1976/2/22 東京 つくし賞 ダ1400 12 1 1 池上昌弘 (ホウヨウシルバア)
1976/3/20 中山 れんげ賞 1800 8 1 1 池上昌弘 (ケイシュウフオード


トウショウボーイのデビューは遅かったようで4歳になってからです。たぶんですが先に活躍していたテンポイントの無敵振りがまず喧伝されていたと思います。トウショウボーイがデビューしたときにはテンポイントは既に阪神三歳ステークスで圧勝しているからです。しかしトウショウボーイの勝ちっぷりも物凄かったらしく、皐月賞の時には「テンポイントさえ凌ぐのではないか」の評判が立ったとされます。


テンポイント一番人気で迎えた皐月賞でしたが、便利な時代になったものでYouTubeに当時のレースがアップされています。

見ての通りでトウショウボーイの圧勝です。文字通りのブッチギリの強さでテンポイントを遥かに置き去りにしての優勝です。競馬は何度も言うようにさして詳しいわけではありませんが、道中もテンポイントは相当トウショウボーイを意識しての位置取りをしていた様な気がします。最後の直線に向いた時にテンポイントトウショウボーイの更に外側に位置していたようですが、そこから差すどころか完全に置いておかれた展開になっています。レース結果は、

馬名 騎手 タイム 着差 単勝
1 トウシヨウボーイ 池上 昌弘 2:01.6 * 2
2 テンポイント 鹿戸 明 2:02.4 5 1
3 トウカンタケシバ 中野 栄治 2:02.4 ハナ 11
4 ボールドシンボリ 柴田 政人 2:02.4 クビ 4
5 クライムカイザー 加賀 武見 2:02.4 ハナ 3
6 クリアロハ 岡部 幸雄 2:02.5 1/2 13
7 メジロサガミ 横山 富雄 2:03.2 4 5
8 タニノレオ 小谷内 秀夫 2:03.4 1.1/4 12
9 エリモフアーザー 大久保 哲男 2:04.1 4 8
10 カミノリュウオー 郷原 洋行 2:04.2 クビ 6
11 バルカンゼウス 西浦 勝一 2:04.2 ハナ 14
12 ユザワジヨウ 小林 常泰 2:04.3 クビ 9
13 イナリバンダー 津田 昭 2:04.5 1.1/2 15
14 ロータリーキング 出口 明見 2:04.5 クビ 10
15 ライデンポーラ 今岡 正 2:05.1 3/1/2 7


馬群となった2位争いを辛うじてテンポイントは制していますが、トウショウボーイとの差は実に5馬身。初対決は誰がどう見てもトウショウボーイの完勝の結果になっています。


ダービーはクライムカイザー

前評判の高かったテンポイントを圧勝劇で下したトウショウボーイには、今度は夢の三冠への期待まで膨らむ事になります。三冠はシンザンが1964年にシンザンが制して以来、幾多の名馬が挑んでいますが届いていません。しかしトウショウボーイなら夢ではないといった期待でしょうか。もちろんテンポイントも巻き返しを狙います。皐月賞は4/25なんですが、ダービーは5/30になります。これもYouTubeでどうぞ、

議論のあったレース展開で、1番人気のトウショウボーイは終始ハナを切る展開になっています。そのままブッちぎるレースを目論んだのかもしれませんが、最後の直線でクライムカイザーに差されてしまい2着に沈む展開となっています。もっともそれでもトウショウボーイの凄いところは差された後も、もう一度盛り返そうとする勢いを見せたところです。並みの逃げ馬ならそのまま馬群に沈んでもおかしくないところですが、モノが違うのだけはよくわかります。

一方のテンポイントは良いところなく7着に沈んでいます。この時のテンポイントは蹄鉄が外れるアクシデントが起こり、さらに骨折まで起し勝負にならなかったと言うところです。関西期待の星だったテンポイントのクラシック前半2冠は殆んど良いところなく終る事になります。

さてクライムカイザーですが、通算で21戦5勝、この後もクラシック戦線、古馬重賞戦線をトウショウボーイテンポイント共に戦いますが、5勝のうち最後の勝利がこのダービーです。ダービーに勝ち、あのトウショウボーイに差し勝った事から大いに期待されましたが、結局のところこのダービーがクライムカイザー生涯最高のレースになったようです。


「緑の刺客」グリーングラス

テンポイントの時代を知っているものなら、もう1頭の主役を思い出しているはずです。あのグリーングラスです。テンポイントや、トウショウボーイに較べると苦戦のデビューだったようで、菊花賞までの戦績を示します。

馬齢 日付 競馬場 競走名 距離 馬場 頭数 人気 着順 騎手 1着馬(2着馬)
4 1976/1/31 東京 新馬 1400 18 2 4 郷原洋行 トウショウボーイ
1976/2/22 東京 新馬 1600 19 2 4 郷原洋行 ローヤルセイカ
1976/3/13 中山 未出未勝 ダ1700 13 1 1 郷原洋行 (バイエル)
1976/4/4 中山 300万下 ダ1800 12 1 4 郷原洋行 レッドフラッシュ
1976/5/9 東京 NHK杯 2000 16 5 12 郷原洋行 コーヨーチカラ
1976/6/6 東京 あじさい賞 2000 12 2 1 安田富男 (キシュウリュウ)
1976/7/10 中山 マーガレット賞 2000 17 2 2 岡部幸雄 トウフクセダン
1976/10/3 東京 中距離ハンデ 2000 17 2 2 安田富男 トミカ
1976/10/24 中山 鹿島灘特別 2000 7 1 1 安田富男 (シマノカツハル)


初めて知ったのですがデビュー戦はトウショウボーイと同じだった事がわかります。しかし4着に終っています。続く新馬戦もまたもや4着。その次の未勝利戦にようやく勝ったものの、そん次の300万下はまたもや4着。たぶんダービートライアルになっていたはず(違ってたらゴメンナイサイ)のNHK杯は12着と惨敗。皐月賞もダービーも当時のグリーングラスに取ってはかなり遠かった気がします。

漸く本領を発揮し始めたのはダービーも終わった6月からですが、ここも連戦連勝なんて華々しいものではなく、菊花賞出場も10/24の鹿島灘特別に勝って、ギリチョンの滑り込みだったとされます。本当のギリチョンで、グリーングラスより出場資格である獲得賞金の多い馬は存在していたようで、どれかが「出る」と言えば出場は適わなかったともされます。しかしギリチョンでも何でもついにグリーングラスが4歳クラシック戦線に躍り出る事になります。


テンポイントトウショウボーイ菊花賞までの戦績です。

テンポイント トウショウボーイ
日付 競馬場 競争名 着順 日付 競馬場 競争名 着順
* * * * 1976/7/11 札幌 札幌記念 2
* * * * 1976/10/3 阪神 神戸新聞杯 1
1976/10/17 阪神 京都大賞典 3 * * * *
* * * * 1976/10/24 阪神 京都新聞杯 1


テンポイントトウショウボーイもダービー後は休養に入っています。とくにテンポイントはダービーでの骨折の治療もあり、復帰戦は11/14の菊花賞の1ヶ月前の京都大賞典だけに出走しバッシングベンチャの3着になっています。一方のトウショウボーイはこれも異例とされる札幌でダート戦を行い、ここは2着となっていますが神戸新聞杯京都新聞杯と連勝して菊花賞に臨む体制です。

1番人気はトウショウボーイ、2番人気はダービーでトウショウボーイを下したクライムカイザー、テンポイントはようやく3番人気となり、グリーングラスは出走21頭中12番人気となっています。当時の予想では

つまりテンポイントトウショウボーイ、クライムカイザーの3強の争いと見なされていました。ではではYouTubeを言いたいところなんですが、これがありません。良く探せばどこかの一部に納められているかもしれませんが、残念ですが探し出せませんでした。

馬名 騎手 タイム 着差 単勝
1 グリーングラス 安田 富男 3:09.9 * 12
2 テンポイント 鹿戸 明 3:10.3 2.1/2 3
3 トウシヨウボーイ 福永 洋一 3:10.7 2.1/2 1


3強の一角とされたクライムカイザーは6着に終っています。レース展開は「どうも」なんですが、テンポイントトウショウボーイをマークする展開であったようで、直線の叩き合いで今度はトウショウボーイテンポイントは振り切っています。しかしインを付いたグリーングラスがさらに差し、テンポイントに2馬身半の差をつけて勝つという番狂わせを演じています。この時の単勝は8030円の大穴となったと伝えられています。

このレースの結果三強はTTCからTTGに変わり、競馬史上でも稀に見る激戦時代になると言いたいところですが・・・。


菊花賞が終れば年内最後の重賞はグランプリ有馬記念です。当然のようにテンポイントトウショウボーイも出走するのですが、グリーングラスは欠場です。グリーングラス菊花賞の出場がギリチョンすぎて、有馬記念の予備登録さえ行ってなかったとされます。でもって出場馬なのですが、春の天皇賞馬のエリモジョージ秋の天皇賞アイフル、前年度菊花賞馬のコクサイプリンスと錚々たるメンバーと言いたいのですが、前年度の主役が2頭欠けています。

皐月賞・ダービーを制したカブラヤオー桜花賞オークスを記録的な大差で制したテスコガビーです。前年度の主役ともいえるこの2頭は、古馬戦線に入り負傷から早々の引退を余儀なくされ、テンポイントトウショウボーイと同じレースを戦うというドリームマッチはついに実現しなかったと言うところです。でもってYouTubeはこれもまた見つかりませんでした。ま、37年前の映像ですから贅沢を言っても始まりません。

1番人気はトウショウボーイ、2番は春の天皇賞エリモジョージ、3番はテンポイントで4番が秋の天皇賞馬のアイフルです。結果は

馬名 騎手 タイム 着差 単勝
1 トウショウボーイ 武 邦彦 2.34.0 * 1
2 テンポイント 鹿戸 明 2.34.2 1.1/2 3
3 アイフル 菅原 泰夫 2.34.5 2 4


テンポイント天皇賞馬を押さえ込んでいますが、トウショウボーイはそのテンポイントを1馬身半引き離してのレコード勝ちです。またもや勝ったのはトウショウボーイです。


4歳時代のまとめ

テンポイントはこの年、トウショウボーイと4回顔を合わせていますが、

競走名 トウショウボーイ レース勝者 着順
テンポイント トウショウボーイ
皐月賞 5馬身負け トウショウボーイ 2 1
ダービー 10馬身半負け クライムカイザー 7 2
菊花賞 2馬身半勝ち グリーングラス 2 3
有馬記念 1馬身半負け トウショウボーイ 2 1


先着した菊花賞を勝ちとみても1勝3敗です。またトウショウボーイ皐月賞有馬記念の2冠を制していますがテンポイントは結局無冠です。どう贔屓目に見てもこの年の最強馬は文句無しにトウショウボーイで、テンポイントはその後塵をしっかり拝したとしか言い様がありません。このままで終らないからドラマなんですが、またまた長くなったので運命の5歳戦はまた明日です。