ワタミと医師の世間知らず

出来心でワタミの事を少し調べてみました。ソースが比較的固そうなところから適当にピックアップしますが、テレビ東京の番組『日経スペシャカンブリア宮殿』にこういう会話が放映されたとなっています。

ワタミ社長「『無理』というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんですよ」
村上龍「?」
ワタミ「途中で止めるから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなります」
村上「いやいやいや、順序としては『無理だから→途中で止めてしまう』んですよね?」
ワタミ「いえ、途中で止めてしまうから無理になるんです」
村上「?」
ワタミ「止めさせないんです。鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる」
村上「一週間」
ワタミ「そうすればその人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう」
村上「…んん??」
ワタミ「無理じゃなかったって事です。実際に一週間もやったのだから。『無理』という言葉は嘘だった」
村上「いや、一週間やったんじゃなくやらせたって事でしょ。鼻血が出ても倒れても」
ワタミ「しかし現実としてやったのですから無理じゃなかった。その後はもう『無理』なんて言葉は言わせません」
村上「それこそ僕には無理だなあ」

えっと、ごく普通にやってました。ワタミと違うのは言われなくともやってました。そりゃ、医師になって病院に勤務したら、そんなのしか周囲にいない訳ですから、医師とはそうやって働くもんだと素朴に信じ込んでいました。ワタミ

    『無理』なんて言葉は言わせません
社長自らの陣頭指揮で上からの指示でそうさせているみたいですが、医師は自主的に「無理」の言葉が出ない職場環境を構築していたと思います。最初の頃は「おかしいな」と思っていましたが、慣れれば出来てしまうもので、私だって勤務医時代はそういうトランス状態で突っ走っていたと思います。今も多くの勤務医は同様の状態の様な気がします。ちっとは変わったかな?


もう一つ、novtan別館様のワタミが自らブラック企業告白をしている件についてです。novtan様はかなり詳細にワタミの実態を公表データから推測されているのですが、

時間外労働時間については、ワタミの外食事業の平成24年度月平均は38.1時間。これは、36協定で定めた上限45時間を下回っています。

わたなべ美樹(ワタミグループ創業者)公式サイトにあるそうなんですが、読んだ素直な感想は「どこがブラックなんだ?」です。1ヶ月でたったの38.1時間なんて夢のような職場です。ここについて、

ところで、よく誤解があるのですが、三六協定というのは月間平均を規定しているんじゃないんですよ。確かに月間45時間という規定はありますが、年間360時間を超えちゃいけないんですよね。なので、平均で均すと30時間が限度なんですよ。これ明らかに労働基準法違反の告白ですよ。

ここについての労基法理解は正しいのですが、チト違う点もあります。年間360時間上限はたしかにありますが、別にもっと長い36協定を結んでも差し支えありません。これは2010.8.27付のタブ紙に掲載されていたものですが、

 奈良労働監督署などは今年5月、労使協定を結ばずに医師や看護師に時間外・休日労働をさせていたとして、県立奈良病院奈良市)、県立五條病院(五條市)と運営する県を労働基準法違反容疑で奈良地検書類送検した。同様に協定を締結していなかった県立三室病院(三郷町)を含め、3病院は7月末までに労使協定を締結し、労基署に届け出た。

 協定では、医師の年間の時間外労働は、奈良が1440時間▽三室が1440時間▽五條が1300時間を上限とし、「特別な事情」があれば協議のうえさらに360〜460時間延長できる。

 労基法は、時間外労働の上限を年間360時間としているが、労使双方が合意すればこれを超えて上限を決められる。

とりあえず2010年8月までは奈良県立病院では36協定すら存在していなかったのが一つです。それとこれは私企業ではなく県立病院のお話です。でもって結ばれた36協定はドト〜ンと、

    1330時間〜1440時間 + 特別協定360〜460時間
フルに36協定の時間外勤務時間を使うと最大で1900時間。単純計算で、
  1. 1日平均 5時間
  2. 1ヶ月平均 150時間
ついでに言うとこれ以上もあり、医師には当直と言う名の夜間休日勤務があります。これが宿日直許可証の回数条件が遵守されていると仮定しても、平日が4回、休日が1回あり単純計算で約90時間あります。下手すると月に240時間ぐらい病院に業務で拘束される事になります。もちろん医師の日当直は翌日が休みなんて事は「まず」あり得ませんから、平日日勤勤務は「当たり前」としてフルコースであると言う事です。

これもまたついでですが、奈良県は酷いと言う定評が医療界でもありますが、奈良県が別格と言うわけではありません。この程度の残業時間は勤務医ならそこらじゅうに転がっている話でして、殆んどがサービス残業として扱われているだけのお話です。どうにも医師の世間知らずも困ったもので、ワタミ程度を究極のブラックとストレートに感じられる感受性が必要そうな気がします。

だって時間外勤務はたとえ労基法がそう定めていようが、奈良県の条例ではそうなっていないから「そうでない」と知事自ら陣頭指揮で最高裁まで平気で争う業界です。こういう業界の黒さから見ると、どうしたって感性が鈍ってしまうと言うところです。もうちょっと世間を見る目が必要そうに思います。

ワタミだって世間一般の企業と同様に公表されている時間外勤務のほかにサービス残業の山があるだろう事は予想されますが、そんなワタミであっても公式に1ヶ月平均で150時間の36協定を締結する度胸はなさそうに思います。そんな36協定を県レベル(たしか愛媛県にもそんなのがあったはず)で提唱して締結し、粛々とまるで労働改善が為されたかの様に、マスコミに淡々と報じられる医療業界のブラックさはなんと評すれば良いのでしょうか。な〜んか、そのうちワタミの社長に

    医療業界に較べれば、うちなんて無色透明に等しい
なんて主張をされそうで怖いところです。実際にそうだからなぁ・・・だからと言うわけではありませんが、そんな暗黒世界の住人である医師がブラックと呼ぶ病院の実態なんて怖すぎると言うところでしょうか。真っ黒と言うよりブラックホール病院でもまだ生温いてな感じです。とりあえずワタミが天国・・・は言い過ぎとしても「どこがブラック?」に見える状態をなんとかしないといけませんねぇ。