肉食ひたいと思ふと悲し

風邪がだいぶ良くなってきたのですが、唐突に肉食いたいと思った次第です。念のために注釈しておきますが、関西では肉といえば牛肉を指し、豚肉は「ブタ」ないしは「豚肉」とし、肉だけなら普通は豚肉を指しません。関東ではどうも逆の傾向があると聞いたことがあるので、誤解を招かないように一応説明としておきます。

肉といえばステーキと言うのが我ながら貧しい発想ですが、世代がそんな時代なので御勘弁下さい。そりゃ、子供の頃は夢の料理でした。開業医の息子ですからありつく機会は比較的多かったかもしれませんが、それでも滅多に食べられないご馳走です。ただ家庭料理としては、値段は別としてもそうは出ない料理と思っています。

なぜかなんですが、この歳になってヒシヒシ感じます。今だってこうやって肉食いたいと思うのは思うのですが、現実として食べるとそうは食べられない悲しさです。もうちょっとアッサリした料理の方が好ましいです。年齢的にいくらでも食べられる歳に子供が差しかかると、親の方が受け付けなくなってくる感じとすれば良いでしょうか。ふと気が付いた瞬間に寂しくなりました。


ステーキも色々ありますが、子供の頃に憧れたのは焼き皿にドンと載って来るスタイルです。今ならファミレスでも普通にあるスタイルですが、初めて見たときには仰天したものです。それこそ、これはどうなっているんだです。この焼き皿をフライパン代わりに使って持ってきたものなのかとか、それよりなんで熱いんだとか、木の台が燃えないかとかです。子供心にすごい演出と素直に感じました。

さらにもっと驚かされたのは、テーブルの横にコックがワゴンで出張して焼いてくれるスタイルです。それこそどうなってるんだの世界です。焼き皿は今や珍しくもない演出ですが、ワゴンで焼くスタイルはもう長い事、見ていない気がします。滅んじゃったんでしょうか。あれも今から思えば、ワゴンのコンロでは調理場より火力はどうしても劣るでしょうから、見た目の派手さとは裏腹にあんまり調理法として宜しくないのかもしれません。調理効率もよくなさそうなので、あんまり広まらなかった気もしないでもありません。つうか、そんな手間をかける高級店に行ってないだけかもしれません。それならそれで悲しい事です。

後はひたすら分厚いステーキへの憧れです。テレビの影響だと思うのですが、厚さが2cmどころか5cm以上もありそうな分厚い奴です。これは後年になっての推測ですが、あの分厚いステーキはどうもヘレステーキのデフォルメじゃなかったかと思っています。ロースであの厚さではちと辛いだろうです。それと現実問題として、分厚い肉を焼くのは大変な技術が必要です。結局これも夢のままでイメージ通りの分厚いのには一生縁が無さそうです。あっても食べ切れそうにないのがこれまた悲しい。


医師になってからは何度か美味しいステーキを食べる機会に恵まれています。神戸は魚もパンもケーキも美味しいですが、肉もまた美味しいところです。医師になってから食べたステーキは確かに美味しかったのですが、どうも子供の時の憧れと「違う」と感じています。まずは鉄板焼きスタイル。これも一説には神戸発祥とされていますが、どうしてもお好み焼き屋のイメージが残って仕方ありません。鉄板焼きスタイルだけでなく違和感が残る点は何かと言うと、肉が最初から切り分けてある点です。

趣味の問題ですが、ステーキは「自分で肉を切って食べるもの」の先入観がどうしてもあるからです。最初から切り分けてあるのならナイフは必要ないじゃないかぐらいです。いつから、切り分けて提供するスタイルが広まり定着したのかトンとわかりませんが、なんか切り分けていない店の方が減った気がしないでもありません。そりゃ、切り分けてある方が食べ安いのは確かですけど、神戸以外はどうなんでしょう。


最後にステーキから少し離れますが、未だに謎の肉料理があります。登場するのはアニメで、そうですねぇ、山賊とか、海賊とかが豪勢にメシを食ってるシーンぐらいの感じです。テーブルにはテンコモリの料理が盛り付けてあるのですが、そこに良く出てきていたのが骨付き肉。でっかい肉の真ん中を突き通るように骨があり、その骨の部分をつかんで肉にかぶりつく感じです。画像がありましたので参考として、

きっと大人になればそんな料理にいつか遭遇すると子供の時には期待していたのですが、この歳になっても未だに遭遇しません。この歳まで遭遇しないのであれば、アニメそのままの料理は存在しないのかもしれません。つまりは何かの料理のデフォルメです。骨付きの鶏の唐揚げはややイメージが近いですが、デフォルメがあるにしてもスケールが違いすぎる感じがします。あれだけ繰り返しアニメに描かれると言う事は、もう少し近いイメージの料理が現実に存在していると考えたいところです。一番近い感じがするのが骨付きのリブロースですが、どうなんでしょうね。実はちょっと調べると似たものは実際に存在しているようです。
これはこういう料理がもともと存在すると言うより、マンガ肉に合わせて作られたようです。写真のものは、牛の骨に豚肉を巻きつけて作ってあるとなっています。

ま、この歳まで謎を抱えてきたのですから、謎のまま人生を終えても良いかもしれません。夢は見ている間が楽しくて、現実化してしまうと萎んでしまう事は多いものです。どっちみち、もう出てきても食べきれないので、その点が何より悲しい。でも肉食べたい。